乃木坂10thバスラの余韻〜「おかえり」と「行ってきます」が交差する場所で〜③
【DAY2】5月15日(日)
初日の余韻を残したまま、2日目が幕を開けた。17枚目シングルの「インフルエンサー」から29枚目シングルの「Actually…」まで。乃木坂ファンとしてほぼリアルタイムに追いかけてきた約5年間を追体験する約4時間のステージ。
先にセットリスト。
OVERTURE
01. インフルエンサー
02. 逃げ水
03. いつかできるから今日できる
04. スカイダイビング
05. 三番目の風
06. 日常
07. 誰よりそばにいたい
08. キャラバンは眠らない
09. ジコチューで行こう!
10. 空扉
11. 帰り道は遠回りしたくなる
12. ありがちな恋愛
13. 夜明けまで強がらなくてもいい
14. Sing Out!
15. 4番目の光
16. 毎日がBand new day
17. I see…
18. しあわせの保護色
19. シンクロニシティ
20. 世界中の隣人よ
21. Route 246
22. 僕は僕を好きになる
23. ごめんねFingers crossed
24. 君に叱られた
25. 最後のTight Hug
26. 絶望の一秒前
27. 届かなくたって…
28. Actually…
29. 制服のマネキン
30. 世界で一番 孤独なLover
31. 他人のそら似
32. おいでシャンプー
33. 夏のFree & Easy
34. 太陽ノック
35. 裸足でSummer
36. きっかけ
37. サヨナラの意味
38. 君の名は希望
EN1. ガールズルール
EN2. ロマンスのスタート
EN3. 乃木坂の詩
セットリストをたどるだけでも、この5年あまり彼女たちが歩んできた怒涛の日々が蘇る。
「インフルエンサー」・・・猛り狂うように、踊れ。
2017年2月、5thバスラで「御三家」の一人、橋本奈々未が卒業した時、「人気絶頂期でグループを去った」と表現された。その前の年に紅白に初めて出場し、ゴールデンの歌番組にも頻繁に出演するようになり、明らかに世間の認知度は上がっていた。「絶頂期」は橋本奈々未自身のことかもしれないし、グループを指していたかもしれない。
実際には2017年に乃木坂は初めて東京ドームに立つことになる。かつてないほどに攻撃的な楽曲「インフルエンサー」を携えて。
DAY2ではまるで挨拶がわりのように、メンバー全員でステージを埋め尽くし、アリーナ席から大空に向けて真っ赤な風船を飛ばしながら熱演した。
情熱の赤であり、同時に乃木坂46の血潮でもあった。頂点を獲りにいく覚悟の色。「インフルエンサー」はこの年、日本レコード大賞に輝く。
以降、メンバーが語っているように「インフルエンサー」はグループの代表曲として何度となく披露されるようになる。
デビュー5年の節目に迎えた大きな変革期。その翌年、2018年に初代センターの生駒里奈が卒業する。そこから彼女たちは、それまでとは別の闘いを強いられることになった。
ピークを更新し続けること。
2017年、2018年は乃木坂46にとって大きな節目だった。
前後するように3期生の加入(2016年)、4期生の加入(2018年)と続き、メンバーの顔ぶれも次々に変わっていった。
それは見慣れた表情が、仕草が、耳に馴染んでいた声が遠ざかっていく日々でもあった。
その中で、グループとしてのピークを更新し続けることは容易ではなかったはずだ。グループとしての到達点を目指せば、「個人」が埋没していく。けれど、「グループ」を作るのは「個人」であり、「個人」なくしては「グループ」もない。
乃木坂46の最初のアルバム(2015年)の名前は「透明な色」。それは清流のように澄んだ水の透明さではなくて、グループとしてまだ色を持たない幼さ(無垢さ)の象徴だったように思う。2枚目のアルバム(2016年)は「それぞれの椅子」。今度は一転して「個人」が出てくる。メンバーそれぞれが、「個人」としての自覚を持ち始め、その後にやってくる変革を予言するようなタイトルになっている。このアルバムではメンバーが赤いドレスと青いドレスを身につけている。赤と青を混ぜ合わせると、グループのカラーである紫になる。強烈な「個人」の確立と、グループとしての成熟は矛盾しないというメッセージにも受け取れる・・・
思えば乃木坂46は、メンバー一人ひとりが自分自身という「個人」に向き合いながら、同時に、巨大な共同体にまで成長した「乃木坂46」というグループの成長に心血を注ぎ続けるという至難の業を、この10年間続けてきた。
個人としての成長がなければ、グループに呑まれて埋没してしまう。個人として成長すればするほど、グループとの両立が困難になる。
次の一歩をいつ、どこに向けて踏み出せばいいのか、逡巡している間にも時間は矢のように流れていく。次のステージの幕が開いてしまう。
なのにそこには大きな大きな命題が待ち構えている。ピークを更新せよ、と。
「シンクロニシティ」が救いである理由
DAY2は「OG祭り」でもあった。「帰り道は遠回りしたくなる」で西野七瀬、「しあわせの保護色」〜「シンクロニシティ」で白石麻衣、「最後のTight Hug」で生田絵梨花、アンコールで3人に加えて高山一実と松村沙友理。
DAY1の生駒里奈と伊藤万理華と同じく、1期生のオリメン登場は、それだけで絵になる。理屈ではなく、快晴の空を見上げるような絶対的な存在感と多幸感に浸ることができる。
沸き立つ興奮と涙がどこから来るのか、自分でも分からない。何年か前まで当たり前だった光景が、今はもう当たり前ではなくなっている。新しく塗り替えられ、更新されていく記憶に馴染みながらも、どこかでずっと心が焦げ付くほどに恋焦がれていた光景が今目の前にあることの意味を噛み締めながら、この時間がずっと続いてくれればいいと願う。
そんな中にあって、(少なくとも僕にとって)一番心に響いたのは「シンクロニシティ」だった。白石麻衣の卒業コンサートは無観客・配信ライブで行われた。だからこそ、満を持して、ようやく客席を埋めたファンの前で披露されたことへの満足感ももちろんある。でも、それだけでは語りきれない、乃木坂46の一番「核」となる部分がそこに込められていたように思う。
遠くのしあわせ願うシンクロニシティ・・・
この曲で乃木坂46は2年連続で日本レコード大賞を受賞。その舞台裏はドキュメンタリー映画でも題材になった。情熱的だった「インフルエンサー」とは趣が違う、たおやかで円熟した楽曲。しなやかに伸びた指先に渾身の力を込めて。
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巨大化したグループの影響力は、時に「個人」を攻撃する下地にもなった。「個人」は極端にクローズアップされ、歪な個人攻撃がいじめのように続くこともあった。共同体の外側では、綻びを虎視眈々と狙う人も大勢いる。
盤石という言葉が一人歩きすればするほど、かえって不安は否応もなく増していった。変化することを理解しながら、変化を恐れている。
そんな中で、森の中心の大樹のように、「シンクロニシティ」は聳えていた。万能の強さを備えた兵器としてではない。
温かい光のようだった。
懐かしい声の「ただいま」をたくさん聞いた。
乃木坂46は11年目を歩んでいる。顔ぶれは随分、変わったけれど、地に足は着いている。
「行ってきます」
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