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《点光源 #7》 応援のプロは、この社会を豊かにする。

犬山翔太さん。
チャゲアスの情報を調べていると、必ずどこかで彼の名に行き当たる。
そして、もし「この世で最もチャゲアスに詳しい人は?」と聞かれたら、おそらく私は犬山さんの名前を答えるだろう。

詳しいと言えば、「クイズ王」的な派手でマニアックな人物像が思い浮かぶ。だが犬山さんの印象は、それではない。
どちらかと言えば、ご自身が造り上げた広大な「チャゲアス・ライブラリー」の中を静かに歩いていて、道先案内をしてくれる親切な司書のようなイメージである。

私が初めて彼の名に出会ったのは5年ほど前、ASKAのソロ曲の中でも格別に渋いとある曲の歌詞について、解釈をネットで調べていた時だった。
予想はしていたが、一つもヒットしない。
そんな中、「空色のハーモニー」というファンサイトの一ページにたどり着いた。


こんな渋い曲にも重厚なレビュー記事があるのか…何だろう、このサイトは?
そう思いながらしばらく夢中で読み漁った記憶がある。興味本意でレビュー記事数を調べてみたら、なんと250本を優に超えているから驚いた(アルバムや映像も含んだ数)。
「ファンサイト」というものがこの世に存在することを初めて知ったのも、私にとってはこの時だった。
そして、'01年から存在するこのサイトの運営者が犬山さんだったのだ。

彼は「ただひたすらCHAGE and ASKA」というブログも同時に運営されている。こちらは毎週末に、ニュース的な情報が更新されていくブログだ。


強調するが、「毎週末」である。
C&Aはお二人とも音楽界のレジェンドではあるが、今まさに旬なアーティストとは言い難い。
そんな中、犬山さんは丁寧にネット上に出ている情報を探り、ファンが発信しているような派生情報すらも目を通し、良いものを選び抜いて記事としてまとめていく。
もはやオフィシャルサイトよりもアーティストの歴史や文脈を追える確かな情報が、犬山さんの中には積み重なっているのではないか…。

なぜここまでコツコツとできる根気があるのだろうか。そして、何のためにこのような活動を続けられているのか。
ASKAの音楽を愛する人たちへのインタビュー連載《点光源》、7人目の犬山翔太さんにはぜひそこを伺ってみたかった。

●歌詞の文学性に心惹かれて

ーー犬山さんのファンサイト「空色のハーモニー」の中で最も心掴まれたのは、楽曲のレビュー記事でした。ここまでの量が載っているサイトは他に見当たらない。その理由を、私もレビューのようなものをいくつか書いてきたなりに考えてみたんですが、単に面倒臭いというか(笑)、根気が続かないからだと思うんですよね。思いつきで数曲書くことはできるけれど、犬山さんのように20年も続けられて、250作品を超える量を書くということはそうそう出来ない。そこが唯一無二だと思うんです。

「ありがとうございます。サイトを始めた当初から、中心に据えるのは楽曲レビューにしようと決めていたんですよ。
あの当時、音楽雑誌や個人のサイトにはアルバムやライブのレビューはあっても、1曲に焦点を当ててがっつり分析してるものはほとんど無かった。チャゲアスの楽曲というのは色んな趣向が凝らされているので、しっかり語らないと全貌が見えてこないんですよね。それには今までの形ではあまりにも文字量が少ない。そんな訳で、1曲に焦点を当てたレビューを書こうと思い立ち始めたんです」


ーー楽曲レビューには、音楽的な観点やアーティストの活動における作品の位置に加えて、歌詞の考察も入ってくる。この歌詞の考察が、犬山さんは本当に丁寧なんですよね。歌詞には昔から興味があったのでしょうか?

「そうですね。今年s.e.i.k.oさんが書かれた井上陽水さんの歌詞についての記事で思い出したのですが、初めて歌詞の考察というものに衝撃を受けたのが、なんとセンター試験の最中だったんですよ(笑)。『陽水の快楽』という名著(竹田青嗣著、'86年)からの出題がありまして、『あこがれ』という楽曲に表現されている細やかな心の機微について考察がなされていた。あれが忘れられなかったんです」

ーー試験中の問題文に感動してしまったんですね。それはテストの邪魔になる(笑)。

「周りに聞いてみても数学で何点取ったとかそういう話題しか出てこなかったので、あれほど感動したのは僕だけだったかもしれませんね(笑)」

ーー歌詞に表現される機微というものに、犬山さんの心は感じやすかったわけですね。

「大学では歴史や文学を学びたくて人文学部に進んだのですが、記憶ではそこでも二度ほど、歌詞を考察する授業に出会って衝撃を受けてるんですよね。
一つ目は文学の講義で、児童文学『ごんぎつね』を半年間かけて読み解くような授業だったのですが、そこでやはり陽水さんの『傘がない』を、人間のエゴイズムを暴き出すという共通項で取り上げていた。僕はこの教授の講義に心酔していたので、すぐにアルバム『GOLDEN BEST』を買いに走りましたね」


ーー『ごんぎつね』ってエゴイズムに触れるようなお話だったかなぁ…。歌詞も文学も、細かく読み解くほど面白くなりますよね。もう一つの講義はどんなものだったんでしょうか。

「社会学の講義で、槇原敬之さんと大黒摩季さんの歌詞を取り上げていましたね。歌詞で描かれる男女の様子に、当時の社会におけるジェンダーバランスの変化を読み取るようなものでしたが、この授業では楽曲の分析が社会学になるんだと、とにかく驚きました」

ーーそれは面白いですね! 歌詞考察の醍醐味がギュッと詰まったような二つの講義に、犬山さんは心を掴まれて。そのまま歌詞研究の道に進まれたのでしょうか?

「いや、それがゼミへの客寄せとして一度きりの授業だったようで。僕はそれまで文学に惹かれていたのですが、教授の作戦にまんまとはまり社会学ゼミを卒論用に専攻してしまい、入ってみたら全然違う内容だった(笑)。でもあの頃の経験がサイトでの歌詞考察に生きてくるのですから、人生わからないものですね」

ーーやっぱり人って、好きなところに戻ってくるものですよね。論文になるよりファンサイトの記事として公開される方が、こちらとしては有り難い結果です(笑)。



●自分の他にも、音楽で救われる人が必ずいる

犬山さんのご出身は三重県。海沿いの自然豊かな土地に生まれ育ち、放課後は友人達と外で思い切り遊び回る日々だったという。

ーー何年のお生まれなんでしょうか?

「’75年です。田舎町に生まれ、一人っ子なので本当にのびのびと過ごしてましたよ。習い事はいっぱいさせられてましたが、好きなことにしか身が入らない性格なので、最後には全部親に愛想を尽かされてやめてしまった。ピアノも野球も、聴いたり観たりする方は好きなんですが、自分でやる方は好きになれなかったですね。結局何もせず、友達と遊び回る毎日で」

ーー子供時代はプロでも目指さない限り、のびのびするのが一番ですよ。目標は大人になっても楽しめることなのに、苦労して続けたものほどそうならない場合も多いですね。

「そう思うと、大人の自分とつながってるなと感じるのが、読書感想文が好きだったんですよね。周りのみんなは書くのに苦労していたけど、自由に書けるし正解がないところが気に入ったんです。小学校高学年から中学を卒業するまで毎年入選してましたので、余計に書くことが好きになりましたね」

ーーそれは、まっすぐ今につながっていますね!

「あと好きだったのは歴史かな。小学生で歴史、中学生でSFのショートショートにはまり、高校でチャゲアスにはまったんです」


今年の夏、犬山さんはCHAGE and ASKAの名曲「SAY YES」の誕生30周年を記念して、noteにこの曲との出会いを書かれていた。

記事はnote編集部のおすすめ音楽記事にも追加され、多くの人に楽曲の魅力を広めることとなっただろう。

「チャゲアスとの出会いは『SAY YES』が発売された’91年、高校1年の時。あの頃は、記事にも書いたのですが本当に精神的に辛くて。もう消えてしまいたい、とまで思い詰めていた時に、年末の日本レコード大賞で流れてきたあの曲を聴いたんです」

ーーnote記事を読みましたが、本当にお辛い時期だったんですね。そんな時にチャゲアスに出会った。

「テレビを見る気にも、音楽を聴く気にもならなかった当時、『SAY YES』だけがなぜか心に染み込んできた。それからラジオで流れてきた『PRIDE』を好きになり、また'92年のゴールドディスク大賞で聴いた『BIG TREE』の魂を揺さぶるような絶唱。完全に虜になりましたね。僕はこの出会いから、『この人達の次の新曲を聴くまで生きよう』と思えるようになったんです。文字通り、生きる支えになった。だから感謝してもしきれないですし、30年間一度も離れずにファンを続けてるんです」

ーー30年って、言葉にすれば簡単だけれど、実際はものすごく長い。ここまで入れ込める魅力というのは、もちろん個人的な体験がベースにありつつも、アーティストの側としたらどこにあるんだと思われますか?

「そうですね…チャゲアスの魅力は、一言で表せば『歌心』だと思います。これはチャゲアスのプロデューサーを長年されていた山里剛さんの受け売りなんですけどね。でもこれ以外にいい言葉が浮かばない。人に聞かれたら、これを使わせて頂いてます」

ーー「歌心」まで込められるアーティストは、なかなかいない。かと言って心に染みるバラードばかり歌っているお二人でもないですし、本当にチャゲアスの魅力は多面的です。

「チャゲアスのお二人というのは、作曲、作詞、声、歌唱力、表現力、ルックス、演出力、人間力…それらを総合して、奇跡的な高みにある人達。だから僕にとって彼らはカリスマなんです。
加えてASKAさんは、人生のいかなる場面においても共感できるような曲を作り続けてくれている。特に挫折や苦境にあえいでいるときに助けられた曲が、自分には数多くあります。挙げてみるならば、『PRIDE』『安息の日々』『月が近づけば少しはましだろう』『帰宅』『Fellows』、そしてサイト名に歌詞を使わせてもらってる『草原にソファを置いて』など…。些細なことで傷つきやすい自分は、こういった曲にいつも助けられてるんですよね」


ーー犬山さんのそういう感じやすい性質が、素晴らしいファンサイトを生み出すベースになっているのだと、お話を伺っていて実感します。こちらも20年間途切れず、ということですか。

「始めたのが26歳の時でしたね。当時はインターネットがこれから個人に爆発的に普及するだろうという予感の時代で、なんとなく『今より前に活躍していた人達の功績をまとめておかないと、無かったことにされてしまうんじゃないか』という予感がしたんです。’01年といえば、チャゲアスは’90年代ほど世間で話題にされていない時代だったので、自分がやらないとと思いまして」

ーー本当に、恐ろしいほどじわじわとそれが現実化してますよね。愛情を持った人が情報をまとめて残していかなければ、その功績や存在すら消えてしまう時代。

「自分にとってチャゲアスの音楽は本当に大事なもので、救ってもらった経験がある。そうすると、これはもしかしたら他の人達にとっても同じで、彼らの音楽にこれから出会い救われる人も、世の中にたくさんいるかもしれない。そういう未知の人達にしっかり届けたいという思いが強かったですね」

ーー犬山さんのサイトやブログは、主観的な偏りが極力抑えられていながら、世の中に溢れている膨大な情報の中から選りすぐりのものを見つけ出し、それらをまとめて記事という形に残し、必要とあらばそれらを文脈としてつなげていく…という役割を担ってらっしゃると思うんです。これは本当になかなか出来ないし、人がやりたがらないことですよ。

「もう一連のことが習慣化してますからね。ブログの方も10年以上やってるので、情報を細かくチェックするのは日常ですし、毎週末にはある程度の量の文章を書きますが、それも全く苦しいと思ったことがない。こういうことに向いてるんだと思います」

ーー昔から情報を集めて整理したり、形として残すことは得意だったんですか?

「そうですね…チャゲアスのファンサイトと同時に野球のファンサイトも開設したんですが、こちらも情報や歴史が豊富な世界なので、それらを集めて眺めることで見えてくる結果やストーリーというものがありますね。そういうことを楽しいと感じるのは、昔からあったかもしれない。
思い返してみれば、小学生の頃に歴史が好きだった気持ちに似ていて、本を読んでは自分で年表を作ったりしてたんです。そういうものへの興味は昔からあったのかもしれないですね」


ーー歴史もデータから推測して生き生きとした姿や出来事を想像していきますもんね。好きなものに熱中できる力ってすごいです。好きがあれば、人は強いと思う。

「大人になった今も、仕事で情報処理に携わっていますしね。言われてみれば好きなものがつながっているのかもしれません」


●応援のプロは、社会貢献を見据える


ファンサイト、ブログ、と活動範囲を広げてきた犬山さんが最近取り組んでいるnote。こちらの方には、チャゲアス以外にも応援するクリエイター達の魅力を記事として発信されている。

その守備範囲も、ミュージシャンからユーチューバーまで幅広い。なぜここまで、犬山さんは人の背中を押すことができるのだろうか。

ーー犬山さんは、私の目から見たら「応援のプロ」だと思うんです。というのも、この私のnoteを発見してASKAファンの方々に広めて下さった最初の方が、犬山さんなんですよ。私がこうやって活動していこうと思い描いているイメージの中で、要所要所を通過していくときには必ずこちらから何も発信しなくても、犬山さんだけは気付いてメッセージを送って下さる。とてつもない安心感に支えられて、これまで活動できています。

「確かに、僕はs.e.i.k.oさんの第一発見者かもしれないですね(笑)。初めて読んだ時から、これはASKAファンに広めたらすぐに応援してもらえるだろうという確信がありました」

ーーnoteというサービス自体は割と新しいですけれど、前からチェックされてたんですか?

「そうですね、僕が応援している畑中摩美さんというアーティストがnoteで新曲販売を行うと知ったときに使い始めましたが、読み始めると本当に文章の上手い方が多いんですよ。僕が最初にすごいなと思ったのが、最所あさみさんという方。本当に文才のある方だなと驚きまして、その後にs.e.i.k.oさんの文章に出会った。ASKAファンでこんな文章を書く方がいるんだと歓喜しましたね。
一方で、こんなに良い文章を書く方なのになぜフォロワー数が少ないんだろう、もっと評価されてもいいはずなのに、という気持ちから、僕が自分のTwitterやブログで拡散したら瞬く間にそうなるだろうと確信したんです。信じられないかもしれませんが、いつかはASKAさんにも届くだろうと思ってましたよ」


ーーもう本当に身に余るというか…すごく有り難いことですね。犬山さんが応援して下さると、幸せのスパイラルが起こるんですよ。私が身をもって体験してるので間違いない(笑)。こういった、いわゆる知名度の低いクリエイターへの応援活動は以前からされているんですか?

「いや、最近まで全くしてなかったです。これはASKAさんのお陰と言って過言でないのですが、’17年にASKAさんがご自身の新曲の、まだボーカルが入っていないデモ版をYouTubeに公開されて、『君が、作詞作曲してみな!』という企画を開催されたんですよね。どんな人が参加するんだろうと興味本位で視聴しているうちに、有名じゃなくても素晴らしい才能を持った人たちがいる、ということに気付かされたんです」

ーーあれは斬新な企画でしたよね! まさか音楽界のレジェンドASKAさんと一体となるような体験ができるなんて、ミュージシャンの方々は涙の出るような企画だったんじゃないでしょうか。引力がすごかったからこそ、多くの多才な方々が集まった。

「僕が特に驚いたのは、先ほど名前を挙げた畑中摩美さんや小倉悠吾さん。この方々は超一流アーティストとして世間に認められてもいいほどの才能の持ち主だと思う。それなのに、プロモーション力の差により世に埋もれてしまうのは社会にとって大きな損失に違いないですよね。そうならないように見つけ出し、世に出していかなきゃいけない。そう思ってからですね、応援活動のスタートは」

ーーその真ん中には、チャゲアスを応援する活動がしっかりとあって。お話を伺っていると、犬山さんの目線の先には社会というものがあると感じます。ただのファンとして自分が楽しむだけでなく、社会への影響まで見据えてらっしゃる。こんな表現でいいかわからないんですが、パトロンというものにも似ているのかもしれない。優れた目利き力が必要とされると思うので。

「確かにパトロンという感覚に近いかもしれないですね。僕は自分自身に子供はいないのですが、会社でこういう活動について話すと、子育てしている人達からは『お金と時間をドブに捨てるようなものだね』なんて言われることもあります。でも一方で『子育てよりずっと効率的な社会貢献だね』と言ってもらえたこともある。その方はよく行く飲食店で顔見知りの経営者の方でしたが、視点が違うだけでこんなに捉え方も違うのかと」

ーー経営者の方はうまいことおっしゃいましたね(笑)。すごくよくわかります。どちらの考え方もある。

「僕自身にできることは小さいかもしれないけれど、今の時代はSNSのフォロワー数が多ければ多いほど、世間に対する影響力が大きくなる。ならばこれを活用すればいいじゃないかと。
才能のある芸術家肌の方々って、世間への発信力が小さすぎて、世に出られない人がいっぱいいます。素晴らしい才能を持っていても、世に出ていない人たちは認知されている数が少なすぎるんですね。ファン数が分子で認知数が分母だとすると、この分母が少なすぎる。ファン数÷認知数の割合が高いのに、認知数が少ないとファンも少なくなってしまう。こういう構造は、社会的な損失につながると思うんです」

ーー才能が豊かでファンになる確率は高いのに、その絶対数が少ないことが足かせになるわけですね。そこをプッシュすることは出来るだろうと。

「自分には大した才能はないけど、才能ある人の認知数という分母を増やしてあげることならできるだろう、と思ってやっています」


●ショートショートで表現する喜び

ーー才能がないなんておっしゃいましたが、犬山さんはSF小説を書かれると最近知って驚きました。何かある方だと密かに思っていましたが(笑)…こういう才能をお持ちなんだと。

「いや、若い頃に書き溜めたものばかりなのですが、実はショートショートは今まで350本以上書いてるんですよ」

ーー350本も!その量だけで入れ込んできた歴史がわかります。


犬山さんのショートショートは、読む人の日常と知らぬ間に結びついていくような、ブラックユーモアと社会性に富んだ良作揃いである。

ーー作家の星新一さんが好きだとnoteに書かれていましたね。

「そうなんです。中学の教科書で読んだ星さんの『繁栄の花』でショートショートに興味を持ちまして、大学に入った頃から書き始めました。20代の頃は、いつか長編も書けるようになり、小説家になってみたいと思ってたんですよ」

ーーそうだったんですね! どうやらクオリティが並でないと思いました。

「そう言われるとお恥ずかしいのですが、当時は小説家になるためには賞を取るか編集部に持ち込むかしか道がなくて、星新一さんの後に阿刀田高さんが引き継いだ『ショートショートの広場』(現在は『ショートショートの花束』と改名)に何度も応募していたんです。一度は入選して文庫本に収録されたのですが、その時に限界を感じてしまい、応募活動はやめることにしました。
それでも、今年書いた『いつもの空』という作品のように、思いついた時には今でも書くようにしています」


ーー『いつもの空』、チャゲアスファンの方ならばあのメロディが浮かんできますよね! ぜひ多くの方に読んで頂きたいです。
ーー犬山さんが小説をnoteに公開された時、なんだか嬉しかったんです。いつも周りの応援を優先されている印象の犬山さんが、ついにご自身の表現活動を始められたんだな、と。公開してみようと思うきっかけは何だったのでしょう?

「それはs.e.i.k.oさんが今年発案された企画『#はじまりはいつも雨を語ろう』がきっかけですよ。あの企画には多くの方々が参加し、Twitter上のトレンドにもなったこともあって、僕の記事も今までで最高の ”スキ” が付いて嬉しい思いをしました。他の方々の記事も、どれも個性があって面白くて、作品を作って表現する価値を再認識できたんです。
そこから、SNSで繋がっている方々に、ぜひ自分が創作したオリジナル作品も読んでもらいたいという気持ちが生まれました」


ーーそんな心境の変化に、私の企画がつながったとは…なんだか感無量ですね。まさに、皆さんがそんな力を感じて下さればと密かに思っていたので。

「加えて今はコロナの世の中で、自分の運命さえいつどうなるか分からないということも真剣に考えました。それで、今まで書いてきたショートショートが1つも世に出ずに埋もれてしまうのも哀しいな、と思ったのもあります」

ーー作品は作った人にとっての子供で、それが世に送り出されるか、たくさんの人に愛してもらえるかという命運は、その人自身が握っていて。ほんの少しの勇気で見える世界が違ってくることを、私も色んなクリエイターの方々と触れる中で再認識させられています。

「今は昔と違って編集部に持ち込まなくても、発表するだけならnoteやブログなど便利な場所がたくさんありますからね」

ーーぜひこれからも書き続けて下さい。犬山さんの目から見える世界をもっと覗いてみたいです!


情報や価値というのは、目に見えないもの。
人々の前に限りなく立ち現れては、すぐに流れ消え去ってしまう。

そんな大きな川の流れのような中に「愛」という自身の座標軸を立て、形ないものに形を与えていく作業を、犬山さんは続けているのだろう。

目に見えぬものの価値に気付ける人。
その気付いた価値に姿かたちを与え、丁寧に育てていく人。
まるで親が我が子にかけるような豊かな愛で、犬山さんの活動はこれからも続いていく。


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ASKAの音楽を愛する人たちへのインタビュー連載《点光源》。
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