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音楽家は思う、ASKAのメロディはこうやってできている。 《プロのオフトーク #3》

音楽とはなんなのか。

なぜ、自分たちはCHAGE and ASKAの音楽に惹かれ続けてきたのだろうか?

そんな大きくて狭い(!)話題を、音楽ど素人の私と、プロミュージシャンとして活躍する野井洋児さんとで語り合う、《プロのオフトーク》シリーズ3回目

前回までの記事はこちらから。
#1 プロと話すと、本当に目から鱗が落ちるのだ。
#2 音楽家は、チャゲアスのここがスゴいと感じてしまう。

今回のテーマは、「音楽家は思う、ASKAのメロディはこうやってできている。」。

ついに創作の秘密を覗き始めた、この連載。ぜひお楽しみください!



*

●ASKAの中の「ドロリ、しっとり」が気になって

s.e.i.k.o:
少しご無沙汰しているうちに、なんと日向坂46さんの1stアルバム『ひなたざか』に収録されている「Footsteps」を作曲されていたなんて驚きました。リリースおめでとうございます!

野井:
どうもありがとうございます!
この曲、メロディもコード進行も、実はちょっと男性的な泥臭いロックを意識して作っています
でもそれを彼女達が歌うと、とてもアイドル的でキュートでありながらも、人を励ます力強い楽曲になるのが、ある程度それを狙っていたとはいえ驚きでした。
今のようなご時世だからこそ、日向坂46さんのような、男性からも女性からも好かれる、嫌味のない可愛らしさ、ひたむきさを持った、人々を元気づけていく「アイドル」という存在が、とても重要な役割を果たしていると思っています。これは、ジャニーズさんなど、男性アイドルの場合も同じです。

s.e.i.k.o:
本当に、そうですね。そしてなんと、泥臭いロックを意識されてたとは気づかなかった! それがあんな風に仕上がるとは、改めて作曲家というお仕事の奥深さを感じさせられます。

さてさて……前回は野井さんが作曲家としてCHAGE and ASKA(以下チャゲアス)からどんな影響を受けてきたのかを伺ってきましたが、そこでキーワードとして出てきたのが、「わからない」
そして「わからない」ところがどうやらスゴいというのが見えてきたのですが、この「わからない」について、ここからはもう少し解像度を高めてじっくりと掘り下げていきたいところです。

それで、今「チャゲアス」と一括りに言ってしまってるけど、細かい分析の、主語をどうしていきましょうか(笑)。

野井:
そこは、本当に迷いますね。
僕はチャゲアスもASKAさんソロも大好きなので、僕自身のブログでは、ソロのレビュー以外はお二人一括りで書いています。チャゲアスって、CHAGEさんあっての部分、とても大きいと思うのです

s.e.i.k.o:
そうなんですよね。私のnoteは歌詞がテーマなので、散漫にならぬよう敢えてASKAさんに絞っている事情があるのですが、書くたびいつも悩む。
この曲はASKAさん作だけど、チャゲアスだからこそ魅力が爆発するんだよなぁ、とか…。

野井:
本当、それですよね。僕の場合は、作曲面から感じることなのですが、チャゲアスの音楽に出会い、それからいろんな楽曲を聴いていくうちに思ったことがありました。
それは、CHAGEさんの作る楽曲が、全体的にすごくカラーっとした、天真爛漫なところがあるのに対して、ASKAさんの楽曲は、なんとなくドローっとした、しっとりとしたところがある、ということです。

もちろん、お二人とも、明るい曲も悲しい曲もたくさん書いていますが、どういうタイプの曲であっても、上記に書いた傾向をなぜか感じるのです。
歌詞や歌唱スタイルの違いなのか、それともメロディやコード進行などの違いなのか、容姿や性格の違いなのか……はっきりとは分からないまま、僕は、ASKAさんの持つ、たとえ明るい曲であってもなんとなくドローっとしたところに、特に惹かれていきました。

s.e.i.k.o:
うーん、とってもよくわかります。歌詞もそうで、CHAGEさんはまっすぐに「愛してる」と歌うのに、なぜかASKAさんはまっすぐ伝えてくれない(笑)。

野井:
本当にそうですね!
例えば、恋の過ちを歌った曲であっても、第三者からみたら、CHAGEさんの方はちょっとクスッとなる部分があるけれど、ASKAさんのは「この先どうなってしまうのかな」とズシッと感じることが多い(笑)。

でも、一つ言えるのは、全く違う性質だけれど、混ざると素晴らしい化学反応を起こす、この二人が組んだからこそ、チャゲアスが国民的スーパーデュオにまでなったことは、間違いないことだといつも思います。
よくよく聴いてみると、意外と似てないようで似てるところもあるな、と思ったりもしますしね。

s.e.i.k.o:
お二人とも個性豊かに色んな表現をされるので、一筋縄にはいかないですよね。
そんな風に、それぞれしっかりとした作家性のあるアーティストだけれど、私はASKAさんの複雑性の方が気になってしまって、このnoteを書いているわけなんです。

野井:
s.e.i.k.oさんの場合はそうなのですね……それでしたらここからは、「郷に入れば郷に従え」ということで(笑)。

s.e.i.k.o:
はい(笑)。ASKAさんに絞らせて頂いて、よろしいでしょうか?

野井:
わかりました。どうぞよろしくお願いします!


●ASKAの作曲モノマネは難しい?!

s.e.i.k.o:
野井さんとお話をしていて、一番聞いてみたかったことというのが、「ASKAさんの作曲モノマネはできるのか?」ということだったんです。
芸人のマキタスポーツさんの「作詞作曲モノマネ」というネタが、音楽とお笑い好きの私には堪らず、よく見るのですが。長渕剛さんや桑田佳祐さん、ミスチルなど、錚々たるアーティストのニセ楽曲(笑)を聴くたびに、「ASKAさんバージョンも聴いてみたいなぁ」と常々思っていたんです。

野井:
本当によく特徴を捉えられていて、しかも元のアーティストさんへのリスペクトも感じられて、面白いですね。

s.e.i.k.o:
ですよね! でもASKAさんっぽさを、なんとなく脳内でマネてみようとしても、歌い方のクセはわかりやすいのですが、楽曲のクセを見つけるのが難しくて。
そこで、もしかしてASKAさんの創作の真似って結構難しいのでは?!と思いまして、ぜひプロの方にそこを聞いてみたかったんです。

というわけで、大変失礼な質問なのですが……野井さんは作曲家として活動されていて、ASKAさんっぽい曲作りを意識されたことってありますか

野井:
うーん……正直にいうと、プロになってからは、ほぼありません。
あ、前回の対談で話したような、「伝わりますか」「男と女」のようなタイプの、オーソドックススタイルの楽曲を作る時は、結構参考にはしていますが、いわゆるASKAさんならではの、独創性の強い、高難易度でありながらも大衆にもスーッと親しまれる音楽スタイルは、ちょっと真似しようと思ってできるものではないと思っています。

ASKAさんは、正統派でありながら、奇想天外なことを平気で入れてくる。
でもイロモノでは決してなく、間違いなく正統派な音楽スタイル……。
僕も学生時代とかは、遊びでモノマネ作曲っぽいことを時々やっていたのですが、でもASKAさんっぽい曲というのは、やっぱりなんか、こうなんじゃないかと思って作っても、違うんですよね。モノマネは、結構得意な方だと思うのですが(笑)。

s.e.i.k.o:
えっ、そうなんですか! 野井さんはASKAさんの楽曲が大好きですし、お仕事依頼の時にも「○○っぽい曲を」と言われることがあると伺っていたので、実は意識してました、という曲があるかと思ったのですが。そうか……(しみじみ)。

野井:
今、s.e.i.k.oさんに言われて思ったのですが、形だけの真似はできるのかもしれませんが、芸として成り立つレベルにはとてもできない、そう自分で感じているというのが正しいのかもしれません。
なので、解析できないのか、というと、そういうわけではないのです。
ASKAさんの楽曲は、プロから見ても大変複雑だとよく言われるのですが、やっぱり特徴といえる部分はあると思います。

s.e.i.k.o:
おお! その野井さんの捉えている特徴を、ぜひ聞きたいです。

野井:
僕なりにですが(笑)、どうぞよろしくお願いします!


●シンプルなのに際立つ、ASKAメロディ

野井:
それでは、主にメロディとコードに重点を置いて、お話していきますね。
ASKAさんといえば、やはり、美しくてインパクトのあるメロディ、そして、正統派でありながら、時折凡人では思い付かないような展開をするコード進行が、多くのリスナーに支持されていると思います。

と、一言でいっても、すごくキャリアの長い方なので、デビュー当時のフォーク演歌時代 → デジタルサウンドを導入した時代 → 職業作家としても活躍した時代 → 国民的アーティスト → 円熟期 → 活動再開……と、その時その時での個性は変わってきます。
この対談では、そうした全ての時代を総合した上で、僕が勝手に思っているASKAさんの音楽の特徴に、触れていきたいと思ってます。

s.e.i.k.o:
相当に音楽的な変化を続けていて、かなりバラバラな表現なのに、その中にも通じている特徴がある、ということなんですね。
それは面白い。ぜひ伺いたいです。

野井:
まずは、メロディについて話していきましょう。
ASKAさんの作るメロディなのですが、これは非常に基本に忠実で、簡潔なものが多いと思います。
ハ長調でいう <ド(1度)・ミ(3度)・ソ(5度)> の音、そして曲中のコードの構成音を基本にしながら、なるべく隣り合った音程を組み合わせたり、同じ音程を連続させて、必要な動き、つまり無駄のない動きだけで構成されているものが多いです。

s.e.i.k.o:
ASKAさんといえば、オーソドックスで覚えやすい美メロ、という印象がありますよね。

野井:
そうですね。シンプルなんだけれど、必要なもので構成されているシンプルさで、あと、メロディに対するコードの組み合わせが絶妙なので、ありきたりではなく、とても際立って聴こえます。

s.e.i.k.o:

そこが素敵ですよね。人に例えれば、シンプルでオーソドックスなファッションなんだけど、群衆の中ではなぜか存在感を醸し出すいい男、みたいな感じでしょうか?!

野井:
ああ、確かに!
「いい男」といえば、僕が勝手に持っているASKAさんのイメージですが、「無骨で熱い泥臭さ」と「少年っぽい美しさ、純粋さ」が同居した、でも基本的には男らしさを前面に出している、日本で最初のアーティストなんじゃないかと思うのです。
非常に恐縮ですが例えるなら、長渕剛さんや矢沢永吉さんのような男っぽさと、ジャニーズの美味しいところを同時に持ち合わせているような。それはもしかしたら、s.e.i.k.oさんの今話されたことにも通じるかもしれません。

s.e.i.k.o:
なるほど、こういう男性像って、男女どちらからもモテますよね(笑)。このイメージも大ヒットの理由として大きいんだろうなぁ。

野井:
話をメロディに戻しますと、もう一つの特徴として、超一流の歌い手なだけあって、ブレス(息継ぎ)をする部分にあたる休符をとてもしっかりと取っていて、一つ一つのフレーズのプロポーションが美しい、というのがあります。

s.e.i.k.o:
「フレーズのプロポーションが美しい」って、いい言葉ですね!

野井:
「プロポーション」という言葉は、僕にコンピューターを使った音楽制作を教えてくださった方が、よく使われていた言葉なんです。
とても新鮮で、的を得た言葉に感じたので、僕もよく使っています。

s.e.i.k.o:
うーん、プロの表現だ……。プロポーションという目線で音楽を眺めたこと、なかったなぁ。

野井:
「YAH YAH YAH」「太陽と埃の中で」「今がいちばんいい」「higher ground」
のサビなどは、とてもシンプルでキャッチーなメロディですよね。「higher ground」のサビなんかは、最初のフレーズは全部同じ音です。

s.e.i.k.o:
「僕はこの瞳で嘘をつく」のサビも、ほぼ同じ音の連続ですよね! 発売当時にコードを押さえつつ鍵盤で弾いてみて、とてもつまらなかった(笑)。
「SAY YES」というメロディアスな曲で大ヒットした直後に、モールス信号のようなこの曲を持ってくる、という狙い方も、今振り返ればすごいと思う。

野井:
そうそう、この曲も! ファンの方が語っているのを見て、実は最近初めて知ったのですが、あまりにスムーズだったので完全に見落としていました。
メロディに対する、コード進行や歌詞が絶妙だからこそ、たった一つの音程でも、リスナーにはとても際立って聴こえるのですね。
そして、シンプルで美しいメロディを作る、というスキルはきっと、チャゲアスとしては勿論、ソロ活動でも、ハーモニーを美しく聴かせるという面で、とても生かされているのではないかと思います。

s.e.i.k.o:
そうか、シンプルだからこそ、ハーモニーの魅力を増す効果があるのか……チャゲアスは、あんなにも声質の違うお二人のハーモニーが、互いの声を潰さず際立たせた上で、きれいに響きますもんね。

野井:
チャゲアスの曲があれだけ難しいコード進行を使っていても、ハーモニーがとても美しくて親しめるのは、CHAGEさんの腕はもちろん、メロディのシンプルさも大きいと思います。
その一方で、「モーニングムーン」のサビ入りの「♪見上げたら〜」や、「オンリー・ロンリー」のAメロ「♪鏡に寄せる唇〜」などは、相当に歌唱力や音感に自信がないと書けないような、難易度の高いメロディです。
よくよく考えると、「SAY YES」も、実は一筋縄ではいかない、難しいメロディですね。
しかし「聴いた人に親しめるメロディ」という要素は、どんな曲でも共通している。なので難しいメロディの曲でも、皆さんついカラオケで歌いたくなってしまいますよね。

s.e.i.k.o:
確かに……「モーニングムーン」や「オンリー・ロンリー」は、チャレンジのようについ口ずさんでしまう(笑)。
そういう、癖になるような仕掛けが、ASKAさんのメロディラインには潜んでますよね。

野井:
はい。実際に歌ってみると、難しい曲は本当に難しいのですが、不思議と気持ち良かったりするのですね。
このあたりは、いわゆる「歌心(うたごころ)」なんだと思います。


●ヨナ抜き、ときどき4度、7度のテクニック

野井:
メロディの特徴を、もう少し細かくみていきましょうか。
メロディの構成音でみれば、ハ長調でいう「ドレミソラド」の音 = ペンタトニック(日本風に言えば「ヨナ抜き」)を基調にしながら、曲調やサウンドに合わせて、ファ(4度)とシ(7度)の音を、絶妙に入れてくるんです。
このファとシを、抜いたり入れたり、のバランス感覚が、ASKAさんのメロディの魅力だと思います。

s.e.i.k.o:
ああ、ヨナ抜きというのは私でも聞いたことがある。歌謡曲メロディの基本ですね。耳に残りやすく、誰もが歌える、ザ・日本人メロディ。

野井:
そうですね。一般的に、4度(ヨ)と7度(ナ)の比率が少なくなれば和風に近づき、逆に増えれば、洋楽的な雰囲気が強くなっていきます
ASKAさんはメロディを作る際、コード進行や、楽曲の完成予想図を測りながら、この比率を調節しているというか、その時その時で、ニーズだったり、一番気持ち良い楽曲にしようと作った結果、自然にそうなっていってるんじゃないか、と思います。

なので時代や楽曲にもよりますが、ASKAさんの楽曲は、ある人にはオリエンタルなメロディに聴こえ、ある人には、洋楽アーティストがカバーしても全く違和感のない、世界的に普遍的なメロディに聴こえるのだと思います。
実際に、チャカ・カーンやリチャード・マークスなど、名だたる大物アーティストがごく自然にカバーしていますよね。

s.e.i.k.o:
90年代半ばのカバーアルバム『one voice  THE SONGS OF CHAGE & ASKA』は、参加アーティストの面々がすごい。
一方でアジア圏からのカバーが集中するのは80年代の楽曲。やはり、年代によって和洋のバランスが変わってきますね。

野井:
しかもキャリアを眺めてみると、ファとシの音の使用比率も微妙に変わってきていたりします
個人的な印象なのですが、シの音は、デビューのフォーク演歌当時から比較的多めに使われていて、キャリアを重ねていく中で、ファの音を使用する比率が上がってきたように思います。

s.e.i.k.o:
そんな細かな変化が! いやぁ、全然気づけない……(笑)。
ファの音で思い出したんですが、大ヒット期の楽曲「tomorrow」のAメロ部分って、パッと聴くと和風なんだけど、とてもゴージャスな洋楽風にも聴こえる。
確かご本人も、エラ・フィッツジェラルドから無意識に影響を受けていた、とブログに書かれてて、なるほどなと思ったことがあります。

野井:
「tomorrow」、本当に素敵なメロディですよね!
仰る通り、この曲もAメロ前半部分「今日から明日に変わるだけ 夜の川を」はペンタトニックで構成されていて、後半部分「ひとまわりするような 円い場所で」にファの音を効果的に入れてくることで、和にも洋にも聴こえるのかもしれません。

ひとまりするうな 円(る)い場所で

後半歌詞ですが、太字部分がファの音です。

エラ・フィッツジェラルドの曲は、ジョージ・ガーシュウィン作曲の「Someone To Watch Over Me(やさしき伴侶を)」ですね。
言われてみれば確かに、という感じで、見事に自分のメロディに昇華させています。
ASKAさんの楽曲は、ジャズのスタンダードの要素を取り入れているものも多くて、他だと「抱き合いし恋人」(ソロアルバム『SCENE Ⅲ』に収録)は、ナット・キング・コールの「スターダスト」の影響を受けていますね。

s.e.i.k.o:
なるほど……。先日発売された「僕のwonderful world」もジャジーな曲ですよね。曲自体は何も難しいことをしていないので、アレンジが要、とブログで話してらっしゃったのが印象的でした。

野井:
しかし今、会話に出てきた楽曲たちのタイトルを見ると、『kicks』『NO DOUBT』というアルバムをリリースした人と、同一人物の音楽について話しているとは、とても思えない(笑)。

s.e.i.k.o:
本当にそうですね(笑)。


●高い歌唱力で、メロディは自在に

s.e.i.k.o:
ASKAさんがエラ・フィッツジェラルドについてもう一つ触れてらしたのが、声の素晴らしさ。
やはりボーカリストとして映えるような楽曲を、ASKAさんって意識的に作られてる印象がありますね。

野井:
あれだけの声を持っていたら、誰でもそうなるでしょうね(笑)。声質だけでなく、歌唱力も大きいと思います。

僕は、歌うということに関しては素人なのですが、それを自覚した上で、ASKAさんの歌唱力で本当に素晴らしいと思うのは、動きの速いメロディも、ゆったりとしたメロディも、ビブラートを丁寧にかけた上で、とても高い水準で歌えるところです。
歌の上手いアーティストでも、普通はどちらかに寄るんです。例えばバラード寄りの人は、テンポの速い曲でも、歌いやすさのためにメロディはゆったりしたものにしたり、逆にメロディが速く動くタイプが得意な人は、ロングトーンやビブラートの必要な箇所を減らしたり……。

しかしASKAさんは、表現的に必要不必要という理由ではなく「得意ではない」という理由での、そういう制約がない
それに加えて音域がとても広く、ウィスパー・ボイスもシャウトもできる。おまけに、タイトなリズムでも、崩した歌い方もできる。
なので、メロディの作り方に、制限がほぼないのが強みです。
チャゲアス最大のヒット曲である「SAY YES」と「YAH YAH YAH」が、それを証明していますよね。

s.e.i.k.o:
私も素人頭ながら、そこが名曲量産の秘訣でもあるのかなぁ、などと考えていました。きっと理屈的には「良い曲」ってたくさん作れるのだろうけれど、それを高い水準で表現できる歌い手がいなければ、良いメロディって生まれる機会を失うのだろうな、と。

野井:
本当にそうだと思います!
しかもASKAさんにおいてはそれだけでなく、職業作家としてのASKA、飛鳥涼という存在もあって、アーティストの音域や歌唱スタイル、声の魅力に合わせて、そのアーティストが最大限に輝ける楽曲を書くこともできる
その最高の例が、光GENJIさんへの一連の楽曲提供じゃないでしょうか?

s.e.i.k.o:
いや、まさに……。「ガラスの十代」の繊細なメロディラインなど、デビューしたばかりの少年の歌唱力に安定感を保証しつつも、時々出てくるほつれすら、楽曲の「壊れそうな」イメージと重ねて聴かせてしまう。

野井:
「ガラスの十代」は、光GENJIのメンバーの声が揃った時の、美しさや儚い魅力を最大限に引き出している、本当に素晴らしいメロディの楽曲だと思います。
それとs.e.i.k.oさんの専門分野になりますが、僕は「ガラスの十代」の2番の、「つまずきは いつだって 僕達の仕事だから」という歌詞が、このグループの、大人と少年の狭間の世界観を端的に表していて、とても好きなんです。こんな表現、頑張って作詞していても、なかなか思い付かないですよ!

s.e.i.k.o:
この歌詞、小学生だった私の耳にも強烈に残りました。「仕事」という言葉の選び方に、子供ながら引っかかったんですよね。
本当に、職業作家としてのASKAさんの才能が、詞曲ともに堪能できる素晴らしい一曲だと思います。

そして、確かにこの曲のメロディも、隣り合った音を上手につなげて、流れるような優美なラインを構成している。
うん、なんだかASKAさんの作品の魅力に対する解像度が、野井さんの話を聞いてグンと上がってきた気がします!

野井:
ありがとうございます!
いやあ、しかし話が尽きなくて、なかなか「わからない」を解明するところまで進まなくて、どうもすみません(笑)。次回にご期待ください!

<シリーズ#4に続く>

野井洋児さんの音楽に興味を持たれた方は、ぜひこちらを。
2020年春にサブスクリプションにて公開されたアルバム『みんなのうた』プロジェクト、そして過去のメジャーリリース作品のYouTubeリストです。
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・『みんなのうた』プロジェクト → https://linkco.re/q7Y9038Z
・メジャーリリース曲MVリスト → https://www.youtube.com/playlist?list=PLiqjsLSlY4qAy59PW4fa57AZw3b3Fro_P
ーーーーー
・他アーティストの話やコード進行の秘訣など、音楽についてより深く知りたくなった方は、野井洋児さんのブログをぜひご覧ください!

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