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北国で見つけた“エデン”『イーデンホール』(全国バー行脚⑬新潟)

 米どころの新潟。飲むなら日本酒。これは鉄板なのですが、バーにも行きたくなるのがサガ。今年になって発見したのが必行のバー『eden Hall(イーデンホール)』です。

■迫力のバックバー

 新潟は、駅と繁華街がそこそこ離れているのが観光客には難点。繁華街の「古町」は、新潟駅からタクシーで1300円くらいの距離があります。バーが多いのも古町周辺なのですが、イーデンホールは貴重な駅寄り。新潟駅の南口から徒歩5分ほどの場所に構えた店舗で「駅の近くもここ数年で店が増え、元気が出てきましたよ」と、オーナーバーテンダーのIさんは微笑みます。

吸引力のある佇まい

 入店してすぐ目を引くのはバックバー。びっしりと隙間なく並べ割られたボトルは眼福です。相当な本数があることに加え、たぶんこれ、並べ方。ボトルとボトルの距離の詰め方が適切で、一層の量感が出てるんだと思います。写真はない。

 店内はカウンターが8席、奥には四人掛けのボックス席が3卓。出されたチャームが美しい。ナッツやドライフルーツ、チョコレートなどを大きめのお皿に盛り合わせてくれ、これだけで何杯でも飲めそうです。

上品なチャーム。隣はラガブーリンのソーダ割り

 ボトルで多いのはウイスキーですが、カクテルもお勧めで、伺った日は「季節のジントニック」を案内していただきました。その中からすだちのジントニックをチョイス。すだちの酸味と、鼻を抜ける爽快さがジンを引き立てます。美味い。そこでふと気になって、

「すだちって徳島のイメージですけど、新潟でも取れるんですか?」

「これ、徳島のすだちなんです」

「徳島と言えば、『鴻』さんや『アルシェ』さんに伺ったことがあります」

 そう話すと、Iさんは破顔。鴻さんなどと付き合いがあり、すだちもそちらから入手しているとのこと。良きバーやバーテンダーの横の繋がりは羨ましい。距離が離れていても関係ありません。

■遭遇「X TENDER」

 その繋がりの関係で手に入ったという、滅多に飲めないウイスキーがありました。鴻やアルシェのオーナーさんなど、10人のバーテンダーでブレンドしたウイスキー「X TENDER」です。イーデンホールのIさんは参加していませんが、調べたら広島『ROHTA BAR(ロータ バー)』のYさんも10人のうちの1人と判明。なんか嬉しいですね。

 何をどうブレンドしているかはシークレットなのですが、メインの原酒はスペイサイドを使っているようです。甘さとピートが両立していて、どっしりしてるけど飲みやすい。かすかな渋みもあります。ひとりでぼーっとしながら、ゆっくり飲みたい。イーデンホールの雰囲気にはぴったりです。限定300本らしいので、なかなか飲める機会はなさそうですが。

 ウイスキーもスタンダードカクテルも、極めて高い満足度。その味わいを何倍にも高めているのが、Iさんの立ち居振る舞いでしょう。すごく丁寧で、優しい。実はその日、最初に伺った際は満席で入れず、席が空いてからお電話をもらって再訪したのですが、そんな忙しい状態にも関わらず、なんという穏やかさか。穏やかな人は、それだけで尊敬します。穏やかでいるのは難しいことですからね。

 おいとました際、店を出て最初の曲がり角を曲がるまで、つまり私の姿が見えなくなるまで、Iさんはずっと店の前に立たれて見送ってくださいました。寒い夜にです。ああ、すみません、感激。

 これまで新潟では古町のバーに行っていたのですが、それほどしっくり来る店に巡り会えていなかっただけに、嬉しかった。イーデンはエデン。言葉通り、喜びと平和に満ちたバーです。

■酒と食の案内所『タビバー』

 冒頭、日本酒の話から入ったこともあり、バーとは少し離れたお店を書きます。名前が『TABI BAR & CAFE(タビバー)』なので良いでしょう。新潟駅の中です。

 新潟駅中には「ぽんしゅ館」という有名な施設があります。その中にある「利き酒番所」では、コインロッカーのような形をした日本酒の自動サーバーが何十とありまして、コインを入れるとお猪口一杯分のお酒が飲めます。コインは5枚で500円。新潟の全酒蔵の代表的な銘柄が飲めるということで、ここも必ず立ち寄ります。

壮観

 で、肝心のタビバーは、利き酒番所のある一角からいったん通路に出て、斜向かい辺り。目印はこの看板。

 お土産物屋と一体化した飲食スペースという感じで、一階は基本的に立ち飲み、二階にテーブル席があります。

 ここは利き酒番所の自動サーバーよりも、プレミアムな日本酒を置いている印象です。正直、新潟県内の飲み屋を歩き回るより、ここで飲む方が滅多に飲めない日本酒を一網打尽にできます。

 お酒に詳しくなくても大丈夫。このタビバーが、新潟の酒と食べ物の案内所のような機能を持っていますから。くぼケンさん(久保田健司さん)というスタッフの方にいろいろ聞きましょう。「おいしいナビゲーター」の肩書きを持つくぼケンさんには、新潟に行くたびにお世話になっています。ここで日本酒を飲むだけでなく、食べたい物にありつくにはどこの店に行けば良いのかなど、積極的に情報収集。紹介してもらった飲み屋さんに行ったことは複数回あります(その度にお得なサービスまで受けてしまいます。恐縮です)。

 タビバーで飲んだ日本酒では、これが一番好きだったかもしれない。「北雪YK35の遠心分離酒、大吟醸」。遠心分離はかなりの限定物です。品が良い甘さ、でもしつこくはなく、優しく香って喉に溶ける。ずっと飲める奴。味のイメージは球体。弾む球体ですね。意味わからないと思いますが、言ってる私もよくわからないです。でもそんな感じです。

 みんな大好き、あべシリーズも。

 髙千代の良いところも。

「夏子の酒」で有名な亀の尾(亀の翁、亀の王)も。

 ジャケ飲みした鬼山間(おにやんま)も。

 切りがないのでやめますが、最後に「かじか酒」。小さな淡水魚「かじか」を焼いてコップに入れ、熱燗の日本酒を注いだものです。超飛切燗のさらに上をいくような熱さで、3分置いてから飲みました。引き立った香りが凄い。川魚の癖が強いので、ダメな人はダメかもしれません。私は好きです。

 このタビバー、食べ物も色々あって「発酵カレー」なんかが名物。新潟駅に降り立った際は、ここを起点に飲食巡りを始めるのがお勧めです。気を抜くと、ここで満足してしまう可能性も高いですけど、それはそれで。(了)




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