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大人が集う豪奢な『文』で「アール・デコ サーカス」に酔う(全国バー行脚⑫名古屋)

 京都にはよく行くし、大阪もそこそこ。意外と行かないのが名古屋。

   そんな自分ですが、たまの名古屋行きでは必ず伺うバーがあります。それが名古屋市中区栄にある『BAR文(MON)』。「ブン」でも「アヤ」でもなく、「モン」と読みます。この度、およそ三年ぶりに訪問しました。

■ドアは施錠、チャイムを鳴らして異空間へ

   初見で店の場所を見極めるのは難しいかもしれません。最寄りの矢場町駅を降りて、松坂屋やパルコの合間を縫うような、そこそこ太い路地沿いを行くと、緑に囲まれた一画があります。そこにあるのはオープンエアの座席を用意した居心地のよさそうなカフェ。文は、その敷地にある小さな門扉をくぐった中です。

   門扉を開き、緑の敷地を数メートル歩いた先に佇む店の扉は、重厚で施錠済み。チャイムを鳴らすとスタッフの方が開けてくれます。扉の上には「文」の一字。

看板は和洋折衷?

   店内は広く、豪奢の一言。カウンターは10席程度ですが、ボックス席やテーブルがたくさんあります。空間の使い方が贅沢で、席と席の間にゆったりとしたスペースをキープ。どこに通されてもプライベートな気分を味わえそうです。

   ぐるりと見渡せば、そこかしこにあるのはアンティークな調度品。アール・デコをコンセプトにした装飾が店内に施されています。バーにアール・デコはさほど珍しくないですが、これほど凝っている店舗は他に見ません。コースターのデザインにも、アール・デコ調で描かれたサーカスをする女性を採用していて、とても印象的です。

目を引くコースター

 このアール・デコ サーカス、天井に据え付けられた明かりの周囲の装飾にも使われています。

天井も美しい

   アール・デコ期に活躍したデザイナー、エルテがデザインしたボトルも。手元に置きたいなー。

エルテ、ここで初めて知りました

 文は街の喧騒から切り離された異空間。個人的には、モーリエの書いた小説「レベッカ」で舞台になった優雅な邸宅「マンダレー」がこんな感じなのかしら、なんて思いました。

■アワードカクテル「翠響庵」

 さて、ここ文で腕を振るうチーフバーテンダーのKさんは、2010年のサントリーカクテルアワードで優勝した実力者です。アワードを取ったオリジナルカクテル「翠響庵(すいきょうあん)」は、澄んだ緑色が目を、ライムが鼻と舌を爽やかにさせてくれます。その上で品の良い甘さも感じさせる、響をベースにした奥行きのある美味しい一杯でした。写真を撮らなかったのが残念。

 また、これほど豪奢な店構なのに格式張った空気を感じないのは、Kさんの人柄や佇まいに寄るところも大きいのでしょう。終始リラックスしながら、お酒と会話を楽しめます。

 今回、こんな素敵な物をいただきました。もう終わりかけなので……とお話しされつつ、飲みきり。ありがとうございます!

なかなか飲めなくなりました

   初めて伺ったのは2017年の春。店に入ってすぐに「これは良きバーだ」と感じたことを覚えています。それから数回しか伺えていませんが、5年が経つ今でも「名古屋には文がある」という思いは揺るがないですね。(了)

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