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「ファッションが教えてくれること」をファッション業界の人間が観たら。

私がラグジュアリーに勤め始めた頃、「プラダを着た悪魔」は、正座して観るものと認識していた。
そしてまた出会ってしまう。正座して観なければならない映像に。

「ファッションが教えてくれること」
VOGUE伝説の編集長アナ・ウィンターのドキュメンタリー映像。in 2007
14年前のファッションの最前線。

内容は、9月号に密着している様子が映し出されている。
ファッション業界の人はご存知の通りなのだけど、FW※(エフダブ、Fall Winterの略)は、一年のうちで1番商業的に盛り上がる。特に9月、その次に12-1月、SS(エスエス、Spring Summerの略)の3-4月といったところだろう。
つまり、9月は多くのブランドがFWの商品が充実するのだ。そんな市場で最も影響力のあるファッション誌が何を基準にして何を打ちだすのか。興味深いではないか。

「全てアナの感性だ。」と、ファッション・ディレクターが言う。そして彼女はまるで教皇だと。

そして発行人も言う。
「アナのいないファッション業界は想像できない。」と。

編集会議では、某世界的なブランドが、編集のディレクターにより、バッサリ却下され、編集スタッフはから失笑が漏れる。
また、アナに提案したものが却下された若いスタッフがクリエイティブディレクターである、グレイスに嘆く。
「却下された」
そして、グレイスは言う。


強くないといけない。自分のやり方をみつけること。認められようとするのではなく。そうでないと生きていけない。

妥協はダメよ、ベストな選択を。もっと努力しなさい。
いい人になってはダメ。私にまでも。

この辛さに耐えられなくなり、みんな辞めていくのがこの世界だそう。

本当にそうだと思った。
認められようとして仕事をしていると却下された時の失望感が強い。認められようとする時点で相手にこうであってほしいという望みができる。この望みがなくなると辛くなるモノ。
自分という強さを持てば、それは自分のことだから、否定されようが却下されようがどうでも良いのだ。
自分のことならまた企画を作ればいい。

ここで分かったことは、アナの下で働く彼らは、もはやデザイナーではなく、アーティストのマインドなのである。ここはある意味、現代アートのアトリエなのだ。
加えて、ここは、アナを教皇としたVogueのオフィスという、自己の鍛錬の場なのかもしれない。

出来上がった商品だけでなく、彼女がデザイナーとも直接会って話をしていることは、とても興味深い。判断基準はプロダクトだけではない、彼ら自身の考え方や感性までもが基準値となるということが分かる。

アナと共に働く者が言うに、
アナはいち早くセレブの時代を予見していたという。しかし彼女は最後に言う。

流行をを予見するセンスなど私にはないわ。
グレイスのように変化を見抜く感性も。グレイスは天才だわ。ファッションを理解し視覚化できる人はいない。撮影のプロデュースも超一流。よく対立するけど、長い間でお互いを認め合えるようになったの。

謙虚なのか?それとも本心なのか?
私は思った。おそらく彼女のように最前線の本当に最前線にいるような人は、フォロワーからすると予見とも思えることが予見でなく、通常の見方なのであろう。自覚していない能力なのかも知れない。でもその能力が彼女にあることを周りの人は認めている。

ドキュメンタリーの撮影日が限られているからかどうかわからないが、彼女の服装は大体決まっていることがわかった。
時々、シャツスタイルやニットスタイルが見えるが、一連のオレンジイエロー色のネックレスに、
膝丈のプリントワンピース。大体このシルエットである。
夏の密着映像なので冬ほど重ね着ができず、軽装であることに違いないが、それでもわかることがある。
自分自身がファッションアイコンという認識は、彼女自身にはあまりないのかもしれない、ということだ。
ファッションの特性である、流動さ、軽やかさや甘さ、ロマンティックさを彼女はあまり演出していない。(生地のプリントや柄で表現しているかましれないが、フォルムが決まっているのは興味深い。)
ここから、アナは、かなり実直な人で、かなりクールな人であるということが見て取れる。

たしかに、アナの父親は厳格なヴィクトリア調の家庭で育った、歯に物着せぬ新聞記者であったようだ。※父親の映像が何秒か流れた。
兄弟姉妹も社会福祉をリードする仕事をしている。
このことから、かなり真面目で実直で厳しい家庭であることがわかる。
実際、兄弟姉妹はアナの仕事をamuse(面白がっている)と思っているそうだ。

アナは、この甘いファッション業界をそのフィールドにはいるものの、かなり冷静に、冷酷に見つめているのだ。

私自身も両親のフィールドは大きく分けると社会福祉であるし、兄弟はもろにそうである。私だけこの華やかな世界に身を置いている。加えて、先のnoteにも書いているが、中学は県一の進学校であったので、同級生も割といわゆる、堅い仕事に就いている。この世界に身を置く私は彼らから特に変わっているのだと思われているだろう。
この風変わりといえる業界について、アナは冒頭に言う。

ファッション業界を恐れているのはその業界に不安を感じている。悪く言う人は、不安や恐れの裏返しで、自分がクールな世界に属していない感じで、軽蔑したり、無視したりする。
ブランド物を身に纏うからと言って軽薄なひともいうことではないのに。
ファッションの何かが人を動揺させるのね。

ファッションの業界は、毎シーズン真新しいプロダクトが作られている。彼らの創造性は計り知れないし、業界の売り専としては本当に尊敬をしている。そして、いつも私達にトキメキを与えてくれる。

動揺とはなんだろうか、私は思う。
真新しい創造性に出会ったときの、このトキメキなのだと思う。

そして私はまたこのトキメキに溢れた業界でわからないと言われるものを扱いながら、わかるように仕事をするだろう。次の創造性に出会うために。

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