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SHINONOME

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連作短編のSHINONOMEシリーズをまとめています。
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2021年9月の記事一覧

【短編】SHINONOME〈4〉④

【短編】SHINONOME〈4〉④

「ショウ、メイ?」

受け取った言葉をたどたどしく発音する水前寺に対し、『うん。証明』とシノノメはにべもなく繰り返した。

『君のいう通り、ミナミ=ウリの運命を変えた女子生徒がS県にあるK高出身の水前寺千春さんだとして、君がその当人であるという確証が欲しい』
「え、どうして」
『だって、偽者を連れていくわけにはいかないでしょう』
「そんな」

何か言いかけ、しかし反論するのも時間の無駄だと思ったの

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【短編】SHINONOME〈4〉③

【短編】SHINONOME〈4〉③

ミナミ=ウリが本格的に音楽活動を開始することになったのは高校時代、女子生徒が文化祭でオリジナル曲を披露する姿に感化されてのことだと言う。

とのエピソードは、インターネット上ですぐに確認することができた。一般人も編集できる情報統合サイトだが、引用元の雑誌が注釈されており、ある程度の信憑性は認められる。

しかし、その女子生徒の素性を特定するには、公開されている情報はあまりに乏しい。
にも関わらず、

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【短編】SHINONOME〈4〉②

【短編】SHINONOME〈4〉②

水前寺千春は二十六歳、都に隣接する県に居住し、地方公務員として働いているらしい。

素朴な顔立ちでメイクも薄く、茶色く長い髪を後ろで一つに縛っている。袖の膨らんだ白いブラウス、細かい花柄にフレアスカートからはガーリーな印象を受けるが、足元はそれには不釣り合いなスニーカー、唯一存在感のあるアイテムとして、無骨で黒いデイパックを背負っていた。
デイパックの表面には複数の缶バッチ。ファスナーには色とりど

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【短編】SHINONOME〈4〉①

【短編】SHINONOME〈4〉①

<来歴>
・中学二年で音楽ソフトによる作詞作曲を始める。
・高校入学までに100曲余りを完成させるも、「自慰行為の副産物を見せしめることへの抵抗」(注1)から、非公開を貫いていた。
・高校在学時の文化祭、コピーバンド主流の中、唯一オリジナル曲を披露した女子生徒に感銘。「彼女がギターの弦を鳴らすたび、臆病者、と詰られている気がした」(注2)。以後、楽曲のネット投稿を開始。当初はボーカロイドを使用して

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