さざ波の詩、他 【詩作5編】
残夏
日向に立つ夏が、花を交換していた、
あれは二人の憶い出だった、
忘れないように形に残すことで、
忘れないことを、信じていた、
海の残像みたいに、空が頭上を埋める、
美しい景色はいつも透明で、
呼吸はいつまでも、きみのためのものだった。
嘘をついてくれようとしたんだ、
永遠があることを、太陽が、
光が、わたしを呑み込んで、
覚えている、雲や風が願うほどの日々中で、
知っていた、夏も空を見上げていることを。
明日に向かって、小石をひとつ蹴飛ばした。
ぼくは夕立の水滴のひとつだった。
中央線がぼく以外の人を運んで、
乗車駅でドアが開いて、
夕立が車内に乗り込んで来たけれど、
居場所がないと思って空に戻る姿を見て、
ぼくは一瞬の、この夏の一部になった。
あの雲も、あの波も、あの花にさえ、
居場所があって、ひとり佇むぼくは、
居場所をなくした、一滴の雫だった。
夕方五時の音楽が鳴るのを合図に、
空は一斉に赤くなり始めて、
行き場を無くした子供たちはみんな、
光に姿を変えていく。
どこまでも深い川がぼくを見失わず、
九月の模様がはっきりと、
ぼくの胸には縫いこまれていた。
夕屋敷
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きみのために風は吹いている そう思えるのはきみのかけがえのない生活が、日々が、 言葉となって浮かんでくるからだと思う きみが今生きていること、それを不器用でも表現していることが わたしの言葉になる 大丈夫、きみはきみのままで素敵だよ 読んでいただきありがとうございます。 夜野