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つわりがこんなに「孤独」で「過酷」だなんて、聞いてないんだが。

朝だ。

重い瞼が静かに膜を上げると、いつもの白い天井が視界に飛び込んでくる。頭上にある小窓から差し込む光の具合で、今日の天気が冴えない曇り模様だということがじんわりと脳内で理解されていった。時刻はまだ早朝の5時をすぎたところだった。

ああ、今日も、地獄という1日が始まる。

意識が戻った瞬間に、体の中心にもの暗い気持ちが押し寄せてくる。ただただ目が覚めたことに、これほど絶望したことが今までの人生であっただろうか。既にビンビンと感じる胃の壮絶な不快感と、いまにも脳が割れそうなほどに鳴り響く頭痛を感じながら「これから18時間ほど、永遠とも思える地獄をどうにか耐え凌ごうか」とわたしはどうにも回らない頭をこねくり回していた。

とりあえず枕元に常備してあるジップロックに手を伸ばし、その中へ無造作に放り込まれているクラッカーに手をつけて口に運ぶ。パリッと乾いた音がして、やる気のない咀嚼で対象を噛み砕いてからゆっくりと飲み込んだ。

美味しくはない。

そう、決して美味しくはないのだけれど、これをしないと、この後に襲ってくる胃液の逆流と吐き気に対抗できる気がしないから、私はただただ無理やりに心を押し殺してそれを口に運び続ける。これだけ人権が叫ばれる社会の中で、ただただ黙認されてきた「ツワリ」という無慈悲な症状を思うと、もはや妊婦には人権というものすら与えられていないような気がして思わず涙がこぼれ落ちた。

「せめて、家賃ぐらい払えや…」

腹の中に宿った新たな生命体に向かって、わたしは思わず理不尽な暴言をこぼしたのであった。

まだつわりをまだ知らない誰かへ

つわり。

それはわたしが妊娠してから感じた最も大きな誤算であり、同時に人生の中で類を見ない理不尽さに打ちのめされた経験でもあった。

個人差があることなので無闇に読者を脅したいわけではないのだが、働く女性へ手放しに「まあ、なってみれば分かるよ!」といった軽ノリで現場に送り出すにはあまりにリスキーで理不尽すぎる(しかもひとたび始まってしまうと対処法がほぼない)ことが多すぎる。なので多少の心構えとして、誰かの参考となるようここに詳細を書き残しておこうと思う。

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