その手があったか! 18歳選挙権       ~引っ越したら住民票移そう~

       都城文化誌『霧』95号(2015年10月)より
 来夏(2016年)の参院選から、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられる。240万人の若者が新たな有権者になるという。
 「そうか、その手があったか!」今の20歳からの選挙権を18歳にしてしまえば、若者の選挙権行使に関して、私がずっと憂いてきた問題が一気に解決しそうである。

 古里を離れても住民票を移さない若者が多い。私は、投票ほかさまざまな不利益があることを訴えてきたが、苛立ちと失望を覚えることが多かった。その実情と18歳選挙権への期待を述べたいと思う。

 ◆ 住民票を移さずに転居する若者たち

 2007年に長女が関東の大学へ、翌年は次女が福岡の専門学校へ進学し、それぞれに住民票を移す手続きをさせた。住民票を移すのは〝あたりまえの事〟と思っていたが、周囲に尋ねると、移した人は2割程度の印象。

住民票を移さない理由は・・・・・・
① 別に移さなくてもいいんじゃない? 
② うちは短大で2年間のことだから
③ 成人式の案内がこないと困る
④ 運転免許の取得に困る
⑤ 住民票が必要な時に親の方で取りやすいから

 本当にそれで不都合はないのか、インターネットでいろいろと調べてみる。自治体によってはポータルサイトのトップで、引っ越したら住民票を移すよう、呼びかけているところもあった。
 私は間違っていないと確信し、保護者らにつど正しい情報を伝えるようになる。

① 住民票を移さないと投票所入場券が本人の手元に来ないから、選挙権行使に問題があるよ。
② 短大であろうと2年生時には20歳になるでしょ。
③ 都城市の成人式の案内は住民登録のほかに、中学校の卒業名簿からも出されているから大丈夫(3年間、小松原地区成人式実行委員のメンバーだったので詳しい)。
④ 運転免許は都城で取得するとは限らない(長女は格安取得ツアーで山形県に行き、最終試験は横浜で受けた。次女は学業が忙しく福岡で数ヶ月かけて取得した話をする)。
⑤ 住民票を取りに行くのは、親でなく本人にさせるべきでは?

 だが、私から話を聞いたところで「移したよ」という報告はほとんどなく、「あなたに言われたくない」と攻撃までされた時は、嘆きの沼に沈み込んだ。
 責任は若者でなく、親の無知と、啓発が不十分な教育行政にあると思えてならない。

 ◆ 都城市選挙管理委員会に「チラシ配布」を提案

 私のような一個人が言ったところで効果がない。校長やPTA会長が、卒業式で生徒と保護者に向けて、住民票を移すよう伝えてくれれば・・・・・・と、要望書を作成して、2009年2月、都城市選挙管理委員会を訪ねた。

 選管も困っていた。実家に届いた投票所入場券を持って、人生初の投票に親子で出向いても、よそでの居住が分かると投票させるわけにはいかない。「せっかく来たのに!」と投票所で一悶着が起きるそうだ。
 それは全国的な問題で、「国会議員にどうにかするようお願いしているんだが……」と、中川興二選管委員長(かつて娘の小学校の校長先生だった方だ)。
 私は内心(国会議員に頼むより、高校の卒業式前に啓発チラシを配り、ひと言校長が卒業式で言及すれば即効性があるだろうに・・・・・・)と思いつつ、そういった事を記した文書を手渡した。

 都城選管の対処は早かった。わずか2週間で保護者向けチラシを完成させ、市内および三股町の高校に配布したのだ。
 ただ、私が提案した教育委員会との共同文書にはなっておらず(急だったからだろう)、転入届を新居住地で出すと、公共施設や観光の案内、防災マップなど有益な情報が得られることも載っていない。
 だが大きな一歩だと思った。この配布は今も続いている。

 ◆ 20歳以上の若者たちへの周知

 はたして、そのチラシ効果は? 配布2年目の夏、知人の子どもは住民票を移していなかった。親に「卒業式のころ、チラシが来たでしょう」と尋ねたが、記憶にもなく移す気もない様子。
 高校卒業時は18歳、選挙権はまだ先・・・・・・と、子も親も現実味に欠けるのだろう。

 さらなる問題は20歳以上の若者たちで、悩ましい現状を私は見た。偶然眼科で会った娘の同級生は、この春都城高専から他県の大学に行くという。彼は、「住民票は親から移す必要はないと言われている」と語る。「選挙権が行使できないよ、手続きして!」とお願いした。

 2010年の夏、大学4年生になった長女と同級生ら4人がわが家に集った。が、住民票を移しているのは娘だけでガッカリ。
 参議院議員選挙が行われたばかりで、娘は投票を神奈川で済ませて帰省していた。友人の一人は、「実家に届いた券を持って、母と一緒に投票に行きました」と言う。他県在住が気づかれず一悶着なく投票できたらしい。が、それも腑に落ちない話で、ため息をつくばかりだ。
 20歳以上の若者には、どう周知啓発させればよいのか・・・・・・。大学・専門学校はもとより、学生アパートなどを管理する不動産屋の協力もいると思う。入居時に「住民票移しましたね?」のひと言が奏功するはずだ。

 ◆ 宮崎県民フォーラムにて知事に訴求

 翌年(2011年)3月、河野知事が就任して初の県民フォーラムが都城で開かれ、各分野の団体長が動員された。私は要望書と資料をたずさえ、都城市子ども会育成連絡協議会の副会長として出席した。

 意見交換で、若者の住民票問題を明らかにしたところ、知事は
「引っ越したら住民票を移すのは常識かと思いますが……」
とおっしゃった。私には最高に嬉しいリアクション。
「そう! そうなんですけども……」
と、その場にいた都城のリーダーたちに向け現実を伝えた。知事には、県教育委員会と県選挙管理委員会あての文書も合わせて手渡した。 

◆ 宮崎県社会教育委員に応募の論文でも訴える

 県民フォーラムから3ヶ月後の6月、私は県教育庁生涯学習課に提出する論文に「若者の住民票問題」を書き入れた。県民から一人だけ公募の「宮崎県社会教育委員」に応募するための論文である。
 住民票を移さないため、投票できない若者が多い現状を教育・啓発によって解決すべき。社会科授業はもちろん、成人式を〝公が行う自治教育の機会〟と捉えてほしいと訴えた。             

◆ 18歳選挙権による主権者教育の充実に期待

 これまで訴求に苦心してきた私だが、制度そのものを変えるのは思いつかなかった。目からうろこである。
 「18歳選挙権の実現」により、高校における主権者教育の責任が明確になる。最近は、「海外における小さい頃からの主権者教育」がメディアでもよく取り上げられ、小・中学校の段階での教育も重要だと注目が高まっているのも喜ばしい。

 若者の投票への関心が高まり、国民全体の政治参加が向上するよう期待している。未来社会を築き、そこで生きていくのは、今の若者たちなのだから・・・・・・。

■ その後話・・・・・・2022年5月記

 18歳選挙権となって6年目の現在、中学・高校では、模擬投票という実践風の授業が広がっている。だが、悲しいかな若者の投票率は伸び悩んでいる。19歳、20歳で投票率が下がるのは、高校卒業後の移動が要因だろう。
 総務省は、住民票を移すように・・・・・・と促すチラシを配り、ネット上でも発信している。これは、住民票問題が相変わらず横たわっていることの現れと言える。

 大学や専門学校等の入学オリエンテーションで、投票所や災害時の避難場所などの情報も学生に伝えるよう、協力してもらえないものだろうか。総務省だけでなく、文部科学省や各首長部局の連携で、主権者教育を進めるべきと思う。

総務省のチラシ

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