風 【詩】
いったい
どれほどの風が
嘘をついているのか
わからない
この街の出来事は
数秒もすれば消えていく
見ようとしたときには
見えなくなる
風の音を聞いて
重い頭をもちあげる
置きどころのない 紫の触角を
うごかしてみる
(吐く息に
砂が混じっていた
口の中が ザラっとした)
君たちは
好んで砂を食べる
億万の砂粒を
日々 咀嚼し 消化し
葉っぱのようなからだに
変えていく
排泄物からつむがれる
キラキラした糸
(世界最古の
アレクサンドリアの図書館は
長い時間をかけて
パピルスを収集し
遠い未来に 砂になっても
少しの歴史と 少しの真実は
残していることだろう
時が経てば ほら
僕の首すじを這っている
こいつも ホメロスの
生まれ変わりにちがいないと
言い出す者がいるだろう)
いったい
どれほどの風が
どれほどの海が
嘘をついているのか
わからない
もう ずっと わからない
ずっと わからない