蠱毒 【幻想詩】
少年は
名前で呼ばれたことがない
(水音を化石にして売る)
干上がっていた川の 岩の隙間に
縫針が散らばっている
山羊は
磁石を引きずって歩く
(世界が吸いついてくる)
山羊のからだを持つ少年の
通り過ぎた後を 青い粘液が流れ
透明な砂利が浮いた
(水の匂う夜だった)
地面から排泄液が湧く
錬金術師の娘は 巨きな眼鏡をかけ
蒼い水飴を売り歩く
はみ出している屋根に
羽根がぶつかり 鱗粉が舞う
所在無げに顎を揺らし
茶色い瓶を首からかける
羊歯がからまっている部位に
山羊の頭が近づく
先祖たちの 飢餓の記憶を 破れ目から見る
両脚が枯れ枝に似ている
(毎夜 水銀で髪を洗った)
たわいもない
生真面目な眼差しで 蠱毒の水飴を
口にふくんでいる子どもたち
その苦味が 太古の闇を思わせる
(山羊に育てられ
世界の秘密を知った 少年は
強く深い蠱毒に
四肢をふるわせる)
錬金術師の娘は
喉が裂けていて
深く虚脱したまま 蒼空を見ている
山羊が胸元をくすぐる
アンデスの山々が見えた
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