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記念写真 【詩】

セピア色の一枚に
織り込まれた皺の重なりが
午後になると剥がれていく

アイマスクをしたまま
写真をアルバムに貼った
触れるだけで川面が光るのがわかった

久しぶりに会ったオリビアは
すっかり変わっていた
ある部位は太っていて
ある角度ではとても痩せていて
時おり不自然な笑みをもらし
うっすらと黒い息を吐くように見えた

年老いた幼児のようだ
故郷のひまわり畑に身を屈める
街の燃えさかる姿を
水晶体に映しているのだろうか
頬は痩せこけ
胴体は膨れ上がり
皮膚は緑色に染まっていった

(ドローンが静かに飛び
 窓をかすめていく)

夢のような昼下がり
僕らは連れ立って
川のほとりを歩いた
そのうちに額が汗ばんだ

(記念写真を撮ろうか)

オリビアの返事を待たずに
僕はシャッターを切った
何度も何度も切った
その仕草は
日に焼けた夏草の匂いのように
永劫に回帰する
僕たちはリバーサイドを歩き
変に白っぽい建物の中に入っていった

そこは礼拝堂であり
捻じ曲がった机や椅子
十字架や聖母子像が転がっている
神父が嘴をのばして
神の声を響かせていた
割れたステンドグラスが万華鏡のようだ

尖塔に近い三角の部屋
階下からパイプオルガンが聞こえる
オリビアは記念写真から這い出して
窓硝子にくっつき
少し淫らな顔をして
川面を見ていた

(神さまはそれを許した)

オリビアは緑色の長い舌を伸ばし
淫らな顔で川面を見ていた

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