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白い泉 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(14)〜

宇宙創生のときから
鯨は世界の中心であった
古代人は鯨を神殿に祀り
娘らを争って贄に捧げたものだった

数千年の時が過ぎ
ありとある迷信が駆逐されたこの時代においても
都市を不夜城に変え
機関車を爆走させているのは鯨の魂である
文明社会はますます鯨への依存度を増している

彼らの頭蓋からかい出される真っ白な液体
鯨脳油こそが世界を支えている動力だ
鯨の捕獲は国家存亡にかかわるプロジェクトであり
しがない鯨取りを一夜にして億万長者にする金鉱だ

で…

抹香鯨の頭部を分割し
注意深く掘り下げていくと
ニューヨークの地下酒場にある大酒樽
その何十倍もある巨大な噴火口に出合う
蜂の巣状の滲油物質から渾々と湧き出る白い泉
絶対純粋 清澄透明
その芳しいにおいを嗅いだだけで
命をいくつ差し出しても惜しくはないと思う

だがこんな貴重な物質
簡単に採取できるとは思わないでくれたまえ
この摩訶不思議なる流動体は
外気に露出するとすぐに凝結をはじめる
美しい水晶の波動がキラキラと光り
氷の結晶へと姿を変えていくのだ

だからそうなる前の純粋な状態を
真空パックに封じ込める必要がある
いったいどんな方法で?
それは企業秘密だ
いくら金を積まれても明かすわけにはいかない

とにかく
鯨を断首するときの手術者の手つきは
聖霊のように繊細
かつ 科学者のように冷静でなければならない
だから
さあ よっといで
その究極の名人芸をじっくりお見せしようじゃないか

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