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夏至 【詩】

満員電車の中で
ドアにへばりついていると
花火が上がるのが見えた
紅い火花 青い火花
やがて
ほんのりと火薬の匂い
吊り革が海藻のように揺れた

そういえばあのビルの近くで
陥没を見かけたことがある
地球がへこんだのか
隕石でへこんだのか
過去と未来が
傷口から溢れ出し
その支流のひとつが
僕らのアパートにも流れ込んだ

(真っ昼間から
 北方訛りの犬が吠えている
 真夜中
 ハバロフスクからコンテナが到着する
 だから 明け方までずっと
 吠えつづけている)

社会主義国のような
テトラポッドが散らばっている
茶色い風が吹きすさび
ラジオの声もよく聴こえないが
時おり
鉛色の光線が空をよぎる
寿命の尽きかけた電球のような
ごく短いあいだの光が
海を照らす

(おかしいな
 国境問題は解決しているのか
 おまえが口にできる言葉は
 この国にはないぞ
 おい 聞いているのか)

眠れずにいると
羽の取れた扇風機がまわっている
いつまでも読み終わらない詩集を
昨日は読んでいた 休みなく
扇風機がまわっていて
読めば読むほど視界が暗くなり
亜寒帯性の雨が降る
夜もすがら吠えている
北方訛りの犬

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