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閉館放送 【詩】

夕暮れが近づくと
魚たちは 夢を見ている
夢の中で
言葉をつむいでいる
ふと
すてきな詩が思い浮かんだ
文字のようなものが水中にあふれ
ブクブク ブクブク と
文字が渦を巻き
そのひとかけらを僕は食べる

絶え間なく
夢を見ている
ガラス玉の中で
海藻が揺れて
むすうの気泡が湧いて
その一つ一つが
宇宙をつくっている

そんなあれこれを
思いながら
ミラーを覗いていたら
斜め上方から
けもののような魚が降りてくる
真っ暗な空洞のような
口を開けている

赤い
流線形の魚が
加速度をつけて
泳いでいた
加速度を増し
光速を超えれば
自由になれるのかもね
尾鰭がギラっと光って
世界の外に出れるのかもね
でもだめかもしれない
あとちょっとのところで
神様に見つかってしまった

プクプク プクプク
暗黒にのまれていく一匹の魚
水槽が紅く染まり
急速に水温が下がる

閉館放送が流れる

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