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Pしんぶん その2

・銀の輔、銀座で思う日々


柳通り

 秋ですよ、来ないと思ってた秋が来ました。来年は常夏かも知れないけど、二丁目の奥野ビルの柘榴は、ちゃんと実をつけたし。

 でもまだ緑が残ってる、どころか濃かったりね。いつもならとっくに枯れ枝みたいになってるはずの紫陽花が、ドライフラワー一歩手前くらいで残っていたりしてます。銀座もそんな感じです。柳の葉もちゃんと茂ってて、もうちょっとで地面につきそう。それが秋風にゆらりゆられて、それは素敵な景色です。

 銀座通りを横軸の芯棒にして見ると、銀座通り、それと平行する西銀座通りと昭和通りにだけ街路樹があるけど、縦の道には全部街路樹がありますね。でも通りごとに木の種類が違ってて、銀座の柳と昔から相場が決まってるのに、あまり優遇されてないんです。柳通りと御門通りくらいかな、あっ、西銀座通りも柳でした。外堀通りなんて言わないで!

 まぁね、横軸の道は歩道が無いし道幅も狭い。そこに車を通そうと思ったら、街路樹なんて以ての外。しかも銀座シックスみたいに、道を跨いだ建物ができるこの頃の銀座ですもん。

コンクリの隙間から

 思うに柳みたいな小粋な風情を醸し出す木には、やっぱビルより木造家屋が似合います。それを銀座に望むのは無理な相談。だけど昭和通りを越えた先の柳通りって、どこか違うんです。同じようにビルばかりなんだけど、脇道を覗くと小体な建物や、そそる小道があったり、少しだけ穏やかな風が流れてる。

 ふわりと揺らぐ柳の木をビルとビルの隙間から見ると、それがビル風のせいだとしても、心が和みます。正直言うと、美味そうな小店達が気になるってのもあるけど…。

・なにはなくとも冠新道

地面に王冠のゴージャス

 何故その名に冠が付くのかは知らないけど、別に調べる必要もなく、〇〇新道は概ね新しくない道と相場が決まっていて、冠新道商店会という立派なアーチが羊頭狗肉かどうかはこの道の隠れキャラを幾つ見つけられるかにかかっている。

 そもそも地面におとぎ話の王様がかぶってそうな可愛いらしい王冠が描かれているだけで、もういいじゃないか。 当てにしてた良きラーメン屋は既に終焉を迎えていたとしても、一斗缶を金曜日に捨てないで!という切実な張り紙と証拠写真の、失礼ながらプッと笑ってしまう物件や、江戸神楽の師匠の御自宅を発見したり、店先のヷゴン内全て0円という謎な品々を眺めていれば、充実のひとときが流れていくのだ。

 通り名を銘した無粋な鉄塊を地面に突き刺すのは、荒川区の得意技だけど、通り中程に突如現れる、車道に覆い被さるような街路樹の緑の和らぎが、まぁこの並木に免じ鉄塊を許そうという気持 ちにもなる。その途中にポツンと置かれた喫茶疎開サロンってなんだろう?って件もあるけれど。


幹線道路から斜めに入るのだ

 店名に三河島の文字を見つけると、あぁ三河島駅も遠くないのかなと思いつつ、年季の入った電気店の置き看板、ラジオ・テープレコーダーの文字に感涙二歩手前、店名のオーム電化に一歩手前まで来ての、アーチのあった明治通りからたどり着く尾久橋通り。真上を走る舎人ライナーを「とねり」って読める人は古典文学を嗜む人と足立区民くらいかも知れない、大通りを渡って高架を潜る。

 人通りは一気に減って、増える工場と倉庫と工業所。その一隅の居酒屋の、すみだ川の赤提灯を、あと四、五時間待つ根性があればなと振り切って、古手ビルの二階の鉄道グッズ屋の、閉店中なのに出しっ放しの関連書籍に紛れて、見目懐かしいエロトランプが「ようこそ冠新道に」と流し目をする荒川区王冠の町。

そのまま昭和家電


・浅草はなるべく隅っこを


業界団体の集まり

 毎度お馴染み浅草の、観音様界隈をなるべく離れて、まぁどこまで離れても突然お洒落なお店が出来ててビックリするんだけど、その分怖くないから有り難いかも?って自分を納得させて、そういや最近あの辺を歩いてないなと、ふらふら徘徊する銀の輔主従であります。

 アロマは土日休みになっちゃったし、いつも王さまは大行列だけど、だったら仕事休んで平日に行けばいいじゃん。枝川公一さんの著書に感化され、浅草を歩き出して幾星霜、親父に連れられて、ほおずき市や羽子板市、鋭い目をして道端に座り込むおじさん達にドキドキしなら、おっかなびっくり訪れた子供時代を含めりゃ更に長年お世話になってる町なんだ、仕事の一日やふつか休んだって、その恩義に報いるには足りない。

 けどやっぱ隅っこ好きな僕らとしては、表通りより裏通り、幹線道路より路地横丁、繁華街より人気のないとこ、行楽客より地元の人々が暮らすとこ、そんな辺りを歩きたい。

 外国人にも大人気の合羽橋をサクッと脇に逸れりゃ、一気に静か。夜は酔客に頭を叩かれまくりであろう狸軍団も、のんびり日向ぼっこ、いや、どのみち余り日は当たらないけど。懐かしい中古楽器や電子楽器を沢山置く楽器店のおじさんに「壊れたらいつでも直してあげるよ」と言われて買った東芝のラジカセは絶好調ですよ。

掲示板は旧町名の宝庫

 千束通りの大好きな和菓子屋兼甘味食堂も、そろそろ栗蒸し羊羹の季節だね。聖横町会って、ここいらに聖天町って町名があった頃の名残りだね。

 水とは縁の無くなった山谷堀公園を縦断、点在する小橋の親柱を眺めて、一世紀前を思うのも、たまにはいいんじゃない。来年の桜もきっと満開な元山谷堀。

大震災復興事業の証


  

 「巣鴨公園に向かう坂道の角に、イタ飯屋が出来ましたね」、「相変わらず早耳だなぁ、鐘ヶ淵さんは。別の町から移転してきたお店らしいですよ」という僕も少し気になっている。「北口商店街の交差点手前、桃太郎寿司があったビルは、いよいよ解体とか」、「四隅が丸い窓の外壁が可愛いビルですね。前はオリーブビレッジっていうファミレスの走りみたいなレストランがありました」。出来たり壊されたり、目まぐるしく移り変わり続ける大塚だ。

 「ひょうたん島のところは閉まったきりで、びくともしませんね」、「壊してマンションだろうと思ってましたが、そんな様子もなさそうです」。大塚三業通りの坂道沿いだから、跡地利用が難しいんだろうか?「パチンコ屋の前は材木屋だったって聞いたことあるけど、知ってますか?」、「いやぁ、アタシも長いこと大塚にいるけど、さすがにもう憶えていませんねぇ」。

 「そういやさっき話したイタリアンのとこ、ABCキッチンがありました」、「今は南口の都営住宅の一階だけですが、前は北口と二軒体制の豪華版」、「うちから近くて便利だったなぁ」、「あの坂を途中のすぐ右側のビルが、いつの間にかタイガー魔法瓶になっててね」、「可愛いトラの顔だけがポンと付いた看板で、最初は何が出来たののかと思いました」、「その隣のビルも最初は予備校の校舎でしたね」、「懐かしい!武蔵予備校です」、「坂を登った先を入った住宅街に、塾生の寮もありました」、「オンボロな建物でねぇ…」。

 「そうそう、あの近所の建物、集合住宅か個人住宅か忘れたけど、外壁に置かれた狸と蛙の置物が」、「そうなんです、狸が失踪しました」、「蛙だけがぽつんと寂しそうでね」、「ずっと二人で四つ角を見守っていたのですが」、「喧嘩別れでしょうか?」、「熟年離婚ですなぁ」、「よっぽどのことがあったに違いない」、「ひょうたん島の後釜と同じくらい気になります」。今日も暢気なペンギン横丁の昼下がり。

・編集後記・のようなもの

 ほらね、ちゃんと作りましたよ、P新聞その2を。って取り敢えず威張ってみました。今号より姑息にも広告スペースも作りました。ここに何か入ると、作らなきゃいけない心持ちになるんじゃないかという他力本願な下心、何か楽しそうな気がしてね。掲載料はビール一杯…嘘です。萬重宝を縮小または全廃してもいいんで、絶賛大募集。画像と一言でも頂けたら、サクッと入れます。

 大感謝配布協力

池之端・古書ほうろう、雑司が谷・旅猫雑貨店、法善寺横丁・洋酒の店 路、目黒・ふげん社、浅草・珈琲アロマ、平井・平井の本棚。こちらも募集中!

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