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2021冬 - 振り子式と、スイッチバックと、路面電車と ①1日目その1

【まえがき】
ご覧いただきありがとうございます。今回はめちゃくちゃ長いので、目次をうまいこと使ってください。分割どころが見つからなかったから許して。
前もってお断りしておきますが、路面電車要素はかなり少ないです。
それでは出発進行!
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Prologue


 2021年12月11日、土曜日。

 大手町駅で、東葉高速線からの始発電車を降りた。時刻は5時56分。数年ぶりにこの駅に来たが、改修工事を終えてずいぶんきれいになっていたので
びっくりした。

 迷いつつも東京駅の八重洲口に上がってきて、たどり着いたのは東海道新幹線の改札口。まだ6時をまわったばかりだというのに人が多い。

 9年ぶりの東海道新幹線、乗車するのは「のぞみ5号」博多行きだ。自由席の乗車口にはすでに相当な数の人が列を作っていたが、僕も無事に着席できた。下車する岡山まではおよそ3時間、決して短くはない時間だが、席が取れただけでも安心だ。

 6時30分、ビル群と電車たちに見送られながら「のぞみ5号」は東京を発った。
 「いい日旅立ち」が流れて、旅が始まる。

「のぞみ」いざ西へ

 今回の行先は中国地方。岡山から米子方面にそれて、そこからローカル線を乗り継ぎ中国山地を横断して広島に向かい帰ってくる、1泊2日の日程だ。もちろん目的は鉄道の乗りつぶしである。
 泊りがけの旅は17年生きてきた中で今回が初めて。きっぷだけでなく宿の手配もすべて自力。スケジュールも予算も自分で組んだ。期待半分、不安半分のスタートとなった。

 東京駅を出て、しばらく列車は東海道線に沿って走る。見慣れた車両をいつもと違うアングルで見るのはなんだか新鮮だ。

 おにぎりを食べたり、荷物の整理をしたりしている間に、列車はとっくに新横浜を出て加速し始めていた。のぞみ号は新横浜を出ると名古屋まで止まらない。
 気が付けば、右手には富士山が姿を現している。これくらいのサイズで富士山を見るのもなんだか久しぶりだ。

 静岡を過ぎると、ときおり茶畑が車窓に登場するようになる。いかにも静岡、といった風景だ。
 ところで、茶畑は年中緑色なのだろうか。お茶の木が枯れている様子がどうも想像できない。

 浜松からしばらく進むと今度は浜名湖が登場する。うなぎで有名な、静岡県を代表する湖だ。

 豊橋、三河安城と通過していけば、名古屋まではあっという間だ。気が付けば東海道本線、中央本線、名鉄名古屋線と横並びで走っている。少しずつスピードが落ちてきた。

 東京から1時間半。もはやどれがセントラルタワーなのかもわからないほどの高いビル群が目の前に迫ってくると、名古屋駅の構内に滑り込む。ここで乗客がかなり入れ替わった。僕の隣人も例外ではない。

 岐阜羽島から米原までは、伊吹山の裾、関ヶ原を越える区間。山の稜線がちょっと近く見える。毎年雪に苦しめられ、列車も遅れやすい区間だが、今は雪が降る様子はない。どうやら今日は天気がよさそうだ。

 京都タワーの頭が少しだけ顔を出すと京都駅。下に見える在来線の線路数もなかなかのもので、一番奥に見えるのは「0番乗り場」だ。

 阪急京都本線と並ぶ。このあたりの新幹線と阪急の関係は切っても切れないもので、地盤の都合で新幹線の建設とあわせて阪急線も高架化されて、その高架化工事が終わるまで阪急電車が新幹線の高架橋を間借りしていたことがある、というちょっとしたトリビアがある。

 東京から2時間半、新大阪駅を出発する。ここからはJR西日本の管轄で、名前も山陽新幹線に変わる。せっかくの関西だが今回はスルーだ。

 六甲山を突っ切って、気が付けば姫路駅を通過。姫路城は防音壁に遮られて、カメラに写り込めなかった。

 9時46分、時刻通りに岡山駅に到着。ここに来るのも3年ぶりだ。

風前の灯火、「やくも」駆ける!

(岡山→新見)

 下車印をもらって改札を一度出る。せっかくだから岡山観光もしたいが、次の列車までは20分もないので、今回はこのまま進むとしよう。

 2番乗り場に降りるとさっそく入ってきた、特急「やくも7号」出雲市行き。使われている車両は「381系」特急型電車だ。少し前までは全国いたるところで見られたはずの国鉄顔の特急電車は、今やこの「やくも」が走る伯備線にしかいない。それも近々置き換わるだろうとの話だから、早いうちに乗っておかなければ、と行程に組み込んだ。

 10時05分、席についてすぐに出発。前のシートとの幅が心なしか先ほどの新幹線よりも広い気がするし、座り心地もよい。これで宍道までの3時間はゆったりと過ごせそうだ。

 倉敷駅に着く手前で山陽本線の線路を跨ぐ。倉敷というと、白壁のお屋敷が並んだ情緒あふれる美観地区のイメージだが、このあたりはいたって普通の大きな街だ。工場地帯の水島や、瀬戸内海を望む児島も倉敷市だから、本当にいろいろな顔を持っている。

 総社駅を通過すると一気に山が近くなって、紅葉しているのもよくわかる。

 岡山から30分、あっという間に備中高梁駅に到着。雲海に浮かんだ幻想的な風景が見られる備中松山城の城下町として発展したところだ。高梁に生まれた山田方谷という人物は、財政難に陥った備中松山藩を藩政改革で救ったとしてたたえられていて、駅前に銅像が建っている。大河ドラマの主人公にしよう、とPRを行っているのだとか。

 備中高梁からは単線になり、ローカル線みが増す。とはいえこの列車も特急、それなりのスピードで駆け抜けていく。もうそろそろ40年選手になろうとしている車両だが、まだまだ元気なようだ。

 列車は高梁川を何度か渡りながら進んでいく。川が蛇行しているその間を縫ったり、時折沿って走ったりと、常に車窓に川がいる。川や海が間近にあるというのはやはり退屈しなくてよい。ある意味水というのは旅において身も心も潤すオアシスなのかもしれない。

 井倉駅を通過する手前で、セメント工場の前を通る。バックの山々は岩肌が露出して、鋭く切り立っている。どうやらこのあたりは石灰石の切り出しが盛んにおこなわれているらしく、また駅から15分程歩いたところには井倉洞という鍾乳洞もある。いわゆる「カルスト台地」と言われるような、石灰岩が密接にかかわっている地形のエリアだ。

 岡山から1時間、建物が増えてくると広い構内をもつ新見駅に到着する。新見は岡山県の北西、広島県に接するはしっこの街で、中心部も高い山に囲まれている。先に述べたように、石灰に関連した産業が盛んなところだ。
 実は新見は今日の宿泊地なのだが、これから松江方面までぐるっとまわってからここに戻ってくるので、いったんスルーする。明るい新見市街を見ることができたのはこのわずか数分だけだった。

(新見→宍道)

 新見から列車は西川に沿って走り、山深さを増していく。2つとなりの備中神代駅で芸備線が左にカーブして分かれていった。

川岸に張り付くようにして駅が建っているところもあり、なかなかおもしろい。

 県境を貫く1146mの谷田峠トンネルを抜けると上石見駅を通過する。いよいよ鳥取県に突入だ。ちなみに谷田峠は「たんだだわ」「たんだとうげ」などといくつか読み方があるらしい。

 鳥取県内では、伯備線に沿う川は石見川、そのあと日野川に変わる。先ほどの谷田峠が、瀬戸内海側と日本海側を区切る「分水嶺」だったわけだ。

 新見からおよそ50分、鳥取県内最初の停車駅である根雨駅に着く。やくも号は生山駅か根雨駅のどちらかに止まることになっていて、どちらもそれなりに利用者の多い駅だ。

 米子に近づいてくると、車窓右手に大山が姿を現す。標高は1709m(1729mとすることもある)、鳥取県ひいては中国地方を代表する名峰だ。伯耆富士とも呼ばれるその美しさは、今日はあいにくの曇りであまりきれいにはわからない。だが、その雲に覆われている様子も、かえって神秘的に感じる。
「よく晴れた日には、日本海のかなたに隠岐の島を望めます」「平安時代に霊場として栄えたところで……」とは、車掌さんによる放送の弁。

 左にカーブして山陰本線と合流し、長い貨物列車が止まっている伯耆大山駅を通過。これで倉敷から続いてきた伯備線は完全乗車となった。

 岡山から2時間、米子駅に到着。鳥取県西部の中心的な街で、ここでの乗り降りが多かった。この駅からわかれる境線は、終点の境港駅が所在する境港市が漫画家・水木しげるの出身地ということで、「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクターが描かれた車両が走っている。

 安来からが島根県で、しばらくすると車窓右手に宍道湖が登場する。周囲約47km、面積はおよそ79㎢で、日本で7番目に大きい湖だ。日本海につながっているため塩分が含まれている「汽水湖」となっている。ここで見られる夕日はこれまで多くの人を魅了してきたという。しじみをはじめとする魚介類も豊富だ。

 12時56分、宍道駅で下車。なかなか快適な2時間50分だった。

 昼食を調達すべく駅の外に出てきた。旧宍道町の玄関口だけあって立派なつくりだ。2017年5月の「トワイライトエクスプレス瑞風」運行開始に合わせてリニューアルが施されたらしく、古い形を残しつつきれいになっている。

 いかにも、といった雰囲気の駅前通りを宍道湖方面に歩く。普通のアスファルト舗装ではなく石畳のようになっているのも、また風情があってよい。

 通りの突き当り、コンビニがある場所に出てきた。道路の後ろはすぐ湖で、とても景色の良い場所になっている。

 今日の昼食、ついでに明日の朝食も購入。本当は駅の目の前にある食堂にでも入りたかったのだが、どうも混んでそうだったので今回はあきらめた。とはいえコンビニ弁当でも大事な食べ物なので、おいしくいただく。

 駅舎の中はそれなりにきれいにはなっているが、やはり改札のすぐ先にホームが見えている情景は「らしい」感がある。窓口の真上にあるイラストもまたよいアクセントになっている。

「1日目その2」につづく!

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(山陰編 一覧)

①1日目その1→これ

②1日目その2↓

③1日目その3↓

④2日目その1↓

⑤2日目その2↓



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