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オンライン留学の課題と解消方法 ―オンラインで海外大学院に行こう! マガジン #31

こんにちは。
岸 志帆莉です。

このマガジンでは、「オンラインで海外の大学院に行く」というテーマで定期的に情報をお届けしています。

これまでオンラインで大学院に行くことのポジティブな面についておもにご紹介してきました。しかし何事もそうであるように、オンライン留学にも意義と課題の両面があります。多くは工夫によって解消できるものですが、あらかじめ把握することでよりよい選択につながります。

そこで今日は「オンライン留学の課題と解消方法」をテーマにお届けします。


課題1.海外で生活できるわけではない

いきなり「当たり前じゃん」という突っ込みが聞こえてきそうなのですが、あえてお伝えします。オンライン留学は海外留学ではありません。もう少し正確に言うと、海外生活をしたいというニーズに応えるものではありません。

ときどき海外生活や英語習得に関心のある方から質問をいただくのですが、海外の文化や言葉に興味があるならやはり直接現地に行くのがいいと思います。ワーキングホリデーやホームステイなど、海外での生活を体験できる方法はいろいろあります。社会人の方はワーケーションや短期滞在などを視野に入れてもいいかもしれません。もちろん感染症の状況等にもよりますが、将来の目標として温めておくのもいいですね。

もちろんオンラインでも言葉を学んだり異文化交流を体験したりすることはできます。ただしそこが一番の目的なら、あくまで海外留学をおすすめします。(いずれ海外に行くための予行練習にオンラインを活用するのはいいアイデアですね。)

課題2.IT環境の影響を受けやすい

オンラインであるゆえにテクノロジーの影響を受けやすいということもあります。とくにネット環境はオンライン留学における生命線です。ここが万全でないと学習に直接影響が出ます。

この点に苦しむクラスメイトを過去に何度か目にしてきました。とくにオリエンテーションで一緒になったミャンマー在住のクラスメイトのことは今でもときどき思い出します。オンラインで参加されていたのですが、ディスカッションの途中に何度も接続が途切れ、落ちては入り直し……を繰り返していました。なんでも自宅マンションにインターネットを引くことができず、授業のたびにホテルのラウンジに行って授業を受けていたそうです。そんな環境をものともせず飛び込んだ勇気には敬意を表するばかりですが、同時に彼女のこの先がとても心配になりました。それ以降は顔を合わせることがありませんでしたが、最後まで学習を終えられていることを願うばかりです。

さすがに日本ではここまでの状況に陥ることはないかもしれませんが、オンライン学習では会議ツール等を頻繁に使用するため油断も禁物です。事前に自宅の通信環境をチェックしておきましょう。パソコンやスマートフォンのスペックも学習の快適さを左右します。なお現時点ではスマートフォンのみでオンライン学習に完全に対応することは難しいでしょう。これを機にパソコン(ラップトップ)の導入を検討することをおすすめします。

課題3.人とのコミュニケーションに工夫が必要

過去にもお伝えしてきたとおり、オンラインのコミュニケーションには対面とは違った工夫が必要です。最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、慣れればクラスメイトとの交流が広がります。下の記事などを参考にしつつ、ご自分に合ったやり方を見つけてみてください。これまでにお話を伺ってきたオンライン留学経験者の方々からも、オンライン留学を通して仲間がたくさんできたという声はよく聞かれます。

課題4.日本の学術界と接点を持つにも工夫が必要

あと見落としがちなポイントとして、日本の学術界と接点を持つにも工夫が必要ということがあります。ビジネスパーソンにとってはあまり重要ではないかもしれませんが、将来日本でアカデミックなポジションにつくことを視野に入れている方は注意しておきたいポイントです。

私の経験からいうと、海外の大学に所属しながら日本の学術界と接点を築くことはできます。日本の学術界にコネクションがない場合は多少工夫が必要ですが、不可能ではありません。推薦者がいなくても受け入れてくれる学会はありますし、勉強会やセミナー等を一般公開している学会もあります。事前に学会の雰囲気を知りたい場合はまず単発で参加してみるという方法もあります。

最近では個人で勉強会等を主催される研究者もいます。SNS等で積極的に発信をされている方もいるので、フォローしてみるのもいいでしょう。講演などを聴きに行った際に名刺交換をするという手もあります。日本に住んでいる地の利を生かし、会いたい人には直接会いに行ってみましょう。日本にいながら海外の大学で学ぶことは、両方の学術界を行き来しながら研究を深められるということでもあります。

課題5.オンラインの導入が進んでいない分野もある

分野によってはオンラインの導入があまり進んでいないこともあります。たとえば自然科学や危険物を扱ったりする分野等がその一例です。

ただしテクノロジーの進化により、これらの分野でも今後オンラインの活用が進んでいくことが期待されます。たとえば近年ではバーチャル実験室やリモート実験室といった施設の活用が進んでいます。バーチャル実験室とはコンピューターシミュレーションによって仮想的に実験を行う施設です。あくまでシミュレーションなので本物の実験を行うわけではありませんが、シミュレーションだからこそリスクを恐れずさまざまな実験に取り組めるメリットがあります。一方のリモート実験室とは、ロボットを遠隔操作することで本物の実験を行える施設です。エンジニアリングなどの分野ですでに活用が進んでいますが、今後さらなる分野への応用が期待されます。

またコロナ禍以降、自宅での実験を推奨する大学も増えています。たとえばUCLではコロナ禍以降、生徒の自宅に化学実験キットを送付する試みをスタートしました。イギリスの放送大学などでは古くから行われてきたことですが、コロナ禍をきっかけに同様の取り組みが各地に広がっています。

もちろんすべての教育機関がこうした方法を採用できるわけではありませんが、志望校がどのような取り組みを行っているか調べてみてもいいですね。

課題6.体調管理に工夫が必要

最後に、オンライン留学ではぜひ体調管理に気を配っていただきたいと思います。リモートワークの課題とも共通するところですが、意識的にオンとオフの切り替えをしていきたいものです。

オンライン学習では移動の機会が少なく、どうしても運動量が減ります。子育てなどで活動量が多い人はさほど心配ないかもしれませんが、それ以外の方は注意が必要です。散歩程度でいいので運動習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。移動がなくなって浮いた時間を活用してスポーツ系の趣味をはじめてみるのもいいかもしれません。

目の健康や睡眠への影響も無視できません。時間を区切ってスクリーンから離れたり、寝る前はパソコンを使用しないようにするなど、自分なりのルールを設けることをおすすめします。

オンライン学習では注意を阻害するものが少なく、際限なしにのめり込んでしまうリスクがあります。気をつけなければ過労やメンタルの不調にもつながりかねません。予防策としてはやはり意識的に休息を取り入れることです。自分でコントロールするのが難しい場合はアラーム等を活用するのもおすすめです。学習のあいだに短い休憩をはさむことは学習効果にもよい影響をもたらすことがわかっています。25分の学習と5分の休憩を繰り返す「ポモドーロ学習法」など、いくつかのバリエーションが知られています。自分に合った方法を見つけてくださいね。

大学院での学習は長期戦です。自分自身を適切にケアしながら取り組んでいきたいですね。

オンライン学習のメリットについては下の記事にまとめています:

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