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ループ7回目の織姫

※『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』から着想を得ています。
※作者は星に詳しいわけでは全くありません。間違っていたらごめんなさい。

〜本編〜

「織姫、其方はもう二度と夏彦と会ってはならない!連絡を取ることも許さない。わかったな。」

「え……お父様?そんな……」

「其方らが仕事をしなくなったことによる弊害が天界のあちらこちらで出ているのだ!夏彦が処分されるのが嫌なのであれば大人しく従いなさい。」

 周囲の悪意に満ちた視線。謁見の間の豪奢な装飾に目がチカチカした。これが現実なのか悪夢なのか区別がつかず、やっとのことで自室に戻るも、呆然と空間を見つめることしかできなかった。

 そのまま1週間が過ぎ、何も手につかない私を見て流石に可哀想に思ったのか、帝は1年に一度だけ夏彦と会う許可を下した。それでも私の心は凍りついたままだった。

 ひたすら泣いて暮らした。毎日何をしているのかわからず、夢と現の狭間を彷徨っているような感覚だった。夏彦に会える7月7日だけ、生きた心地がした。それでも時は止まってくれない。また地獄の1年が始まる。

 食事もまともに取れなかった私は徐々に衰弱していき、死んでしまった。命の灯火が消える瞬間、私は心の底から「やり直し」を願った。

「夏彦と幸せに暮らせますように。」

 気がつくと謁見の間にいた。

「織姫、其方はもう二度と夏彦と会ってはならない!連絡を取ることも許さない。わかったな。」

 え……?やり直しってそこ?

 どうやら私はループしているようだ。罰が下された最悪のタイミングに戻ってきたわけだが、もう前のように泣いて暮らしたりはしない。最悪上等!精一杯足掻かせてもらおう。

 会うのを禁じられたからには、公に一緒に暮らすことはできない。ならどうするか。もちろん、隠れて会いに行くに決まっているでしょう!なぜ前は実行しなかったのか……。

 変装して城を抜け出し、天の川までやってきた。向こう岸には夏彦が住んでいる!どう渡ろうか思案していると、カササギが列を為して橋を作ってくれた。天運は味方している!

 落ちないように気をつけて渡り切ると、そこが運の尽きだったようだ。密偵に捕まってしまった。結局夏彦と会うことはできず、処刑が決まった。お父様は泣く泣く私に死罪を言い渡した。

 それから、何度もループを繰り返した。どういう生き方をしても結局死んだ後目が覚めると謁見の間にいるのだ。夏彦を諦めて他の男と結婚しても、逆に夏彦に浮気されて嘆き悲しんでも、独身を謳歌して趣味と仕事に没頭しても、死んだらループしてしまう。最初に死んだ時の願いが果たされるまできっとループが終わることはないのだ。

 次は叶えてやる。そう誓って、どうやったら夏彦と一緒になれるか考えた。答えは一つしかない。全ての決定権は帝にあるのだ。帝を殺し、帝位継承権第一位の私が天帝の座につく。願いを叶えるには、親殺しが必要だと気づいてしまった。

 最初は迷った。ループを食い止めるための必須条件だとしても、相手は肉親。一度処刑されたとはいえ、大切に思ってくれているのは明白なのだ。

 ただ、同時に私は夏彦への止められない想いも自覚していた。他の男と添い遂げた時も、どうしても忘れられなかったのだ。それほど恋焦がれている相手と肉親。長い葛藤の末、私は天帝暗殺計画を立てる選択をした。

 途中まではうまくいっていた。だが、結局バレてしまった。また処刑が決まった。もっと綿密な計画を立てないといけない。次のループでは必ず。一度覚悟を決めてしまったら、次は葛藤も短く済んだ。薄情者と言われても致し方ない。でも、見方を変えれば、帝は私の幸せを悉く邪魔する悪魔なのだ。殺すしかない。

 またループする。その瞬間から、暗殺計画を完全なものにするためにとにかく全てを捧げた。果たして、暗殺は成功した。私が天帝に即位して、正式に夏彦を夫として迎えた。

 しかし、引き継ぎがしっかりとなされずに帝が変わったことにより、天界に綻びが生じ、瞬く間に世界は滅びてしまった。また、「夏彦と幸せに暮らす」ことはできなかった。

 目が覚めると謁見の間ではなく、真っ白な空間にいた。遠くから神々しい何者かがやってくる。すぐに天帝よりも上の存在と分かったが、そんな存在がいるとは思っていなかったので、かなり驚いてしまった。

「織姫、君の記憶を一度全て消そう。そしてもう一度繰り返しをさせてやる。」

 真っ白な世界が消えかける。

「お待ちください!私はどうすれば良いのですか?何を間違えてしまったのでしょうか。」

 慌てて声をかける。もう姿の見えなくなったその存在に縋ろうとする。

「アドバイスだ。変えるために奔走するより流れに身を任せた方がいいこともあるんだよ。」

 真っ白な世界は完全に消え、声も聞こえなくなった。

「織姫、其方はもう二度と夏彦と会ってはならない!連絡を取ることも許さない。わかったな。」

 ハッとする。まるで長い白昼夢を見ていたかのように感じたが、何を見ていたか思い出せない。

「え……お父様?そんな……」

「其方らが仕事をしなくなったことによる弊害が天界のあちらこちらで出ているのだ!夏彦が処分されるのが嫌なのであれば大人しく従いなさい。」

 私は悲嘆に暮れて泣き暮らした。でも、なぜか「時を待てば大丈夫」という謎の安心感が少しだけあった。

 悲しむ私を可哀想に思った帝が1年に一度だけ夏彦と会うことを許してくれた。それから私は毎年7月7日を楽しみに自分磨きに1年を投じるようになった。もちろん、会えない日々は悲しいし寂しいが、いつか一緒に暮らせるようになるという確信があったから、耐えられた。

 何年も何年も待った。ある年の7月7日の夜。夏彦の元へ会いに行く。1年間の話に花を咲かせる。2人の時間は幸せで、文字通り身を焦がすような熱さには気づくことができなかった。でも、心のどこかで、これから先永遠に夏彦と一緒に暮らせることにこれ以上ない幸福を感じていた。


 XXXX年7月7日夜。アルタイルの超新星爆発とベガの消失が同時に発生。天の川が赤く染まったと観測者の一部が述べていた。


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