ショート 7 記号的な関係
今日、さよならをした。
メッセージのたった2行で始まった関係を、
メッセージのたった1行で終わりにした。
元々近しい存在だった彼のことを、好きになるのに時間はかからなかった。
それは多分彼もそうだったのだろう。
ものの3ケ月ほどで告白をされた。
「ずっと前から好きでした。
付き合ってください。」
メッセージで送られてきた、電子的で記号的な文字でさえも、その時の私にとっては胸高鳴る魅力的な文字だった。
断る理由もなく、私も電子的な文字で気持ちを伝え、彼氏彼女という関係になった。
シャイな彼だった。口下手な彼だった。だからきっと、気持ちを整理して時間をかけて伝えられる電子的な文字であれば、なんでも伝えられたのだと思う。
「ずっと好きだよ」「俺は傷つけたりなんかしないから」「冷めたりしないよ」
そんな彼から発信される文字にいちいちときめき、スマホ片手に顔を赤くし一人枕に顔をうずめる典型的な反応をしていた恥ずかしい私。
けれど、そんな電子的な言葉だけの関係は長く続くわけでもなく、彼の気持ちはだんだんと離れていった。
メッセージでしか気持ちを伝えられない彼は、そのうちメッセージでさえも気持ちを伝えてこなくなった。
返事は1日2回くらい。デートに誘うのもすべて私。デートに行っても歩くことをめんどくさがり、あからさまにイライラしだす彼。不安が募るばかりだった。
「ずっと好きだよ」「冷めたりしないから」なんて発信していた彼はどこにいったのだろう。
そんなことをいっていたのに、なんで?という思い。
どんよりした灰色の曇り空が続く真冬の空とも相まって、不安と、彼と離れたくないという依存に近い思いが強まった。
彼から発信される文字と、それが送られてくるまでの時間、一緒にいるときの彼の態度がすべてを物語っていた。
完全に私は冷められている。もうどうしようもなかった。それでも私は彼のことが好きだった。
夢で見る彼はいつも優しくて、私の事を大事にしてくれていた。
でもそんな夢でさえも長く続くことはなく、目が覚めて時計を見るといつも真夜中だった。冷たい頬の上をつたっていた温かい涙。
好きとも嫌いともいわれない私。振り向いてほしかった。一番近しい存在の彼が、一番遠くにいてもう振り向いてはくれないということを知っていても、私を見て欲しかった。
彼が他の子を好きでいることなんて知りたくなかったよ。共通の友達を介して知りたくなんてなかったよ。
いっそのこと、嫌いといってほしかった。嫌いだと言って綺麗に傷つけてほしかっただけなのに。
「他に好きな人できた?(笑)」
本当は少しも笑ってもいないけれど、精一杯の強がりと、嘘であってほしい、冗談だよねという気持ちを込めて(笑)と添えた文字。
そんなことあるわけない。ちゃんと好きだよ。
そんな風に返ってくると思っていた。そうであってほしかったよ。
「なんのこと?」
とぼけた格好の悪いたった5文字と1つの記号。電子的で記号的な文字の羅列は、彼への信頼と想いをいとも簡単に消し去っていった。
もういい。期待してきた私が悪かったよ。全部全部私のせいだから。それでいいから、気持ちがないならもう突き放してよ。
そう思っても、彼はなかなか私を突き放さなかった。
好きでもない私の事を突き放さない理由。それが何か、私はわかっている。
付き合った頃に話していた。彼の友人が彼女と別れた時の事だった。
「あいつ別れたんだって。しかも自分から告白したくせに。ありえないよな。」
彼の中ではきっと、自分から告白した相手の事を自分がふることは格好悪いこと、悪い人がする事。だという認識だったのだろう。極悪人に彼はなりたくないだけだった。周りから自分が思っていたように思われるのが嫌なだけだったのだろう。
別れ話に近い話をしているのに、なかなか返事をくれない彼。決定的な文字を言いださない彼。
もういいよ。疲れたんだよ。あなたに。
本当は、あなたに言わせたかった。自分が勝手に否定して極悪人のように言っていた人になって欲しかったけど、もう疲れたの。
「別れよう」
たった1行で終わらせた。
「そうだね。さよなら。」
すぐに返ってきた返信。これを待っていたかのようにあっさりとした10個の記号。
未練は一つもない。ただ、あなたがいつか手放さなきゃよかったって思ってしまうくらいには、綺麗になっていくから。
そう決めたんだから。
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