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SNSで流れてくるように、編集者は本当に「悪」ばかりなのか

 昨今クリエイターの悲痛な叫びを見かけたことがない人は、ほとんどいないのではないでしょうか。SNSを通じて漫画家やイラストレーターが過酷な労働環境を訴えているのを目にする機会がぐっと増えた気がします。

・何回もラフを提案し直したのに本制作に移れなかった
・上記の結果、結局イラストのお金は1円も回収できてない
・ゴーサインを出されたのに納品間際に手のひらを返されて全部描き直しに
・納品ギリギリにダメ出しされたらから徹夜して頑張ったのに没にされた

 こういった問題は最近になって増えたわけではありません。その業界に所属していたり、あるいは積極的に知識を深めようとした人でないと視界に入ることすらなかった問題だったのだと思います。SNSの普及によりTwitte上でバズると思いもかけないところから情報が流れてくるようになり、より多くの人が問題について知る機会が増えたのでしょう。

 私が見てきた中で漫画家の方達の悲痛な訴えの中には「編集者から酷い仕打ちを受けた」という内容が多かったです。もちろん編集者も人間ですから、性格は十人十色でしょう。告発内容の通り底意地の悪い人もきっといて、そういう人が担当だった漫画家さんは本当に辛い思いをしながら描いて来たのだろうなと思います。
 これらの告発にあるように、編集者とはみんな作り手をこき下ろし否定するような、いわゆる「悪」ばかりなのでしょうか?


そもそも編集者とは

 「編集」について調べると以下の内容が出てきました。

「資料をある方針・目的のもとに集め、書物・雑誌・新聞などの形に整えること。映画フィルム・録音テープなどを一つにまとめることにもいう」
広辞苑 第六版より

 つまり編集者とは上記の作業を生業としている人ですよね。今回の記事内容に近いのは、「資料をある方針・目的のもとに集め、書物・雑誌・新聞などの形に整えること」ですね。

作ったものが世に出回るまで第一関門

 私は印刷会社やカタログ・チラシなどの制作会社といった紙媒体を扱っている会社の他、Webメディア運営会社ともお仕事をしてきました。媒体の形式に関わらず、制作したものが世に出回るまでの第一関門が編集さんだなあと思っています。
 まず編集チェックでOKをもらわないと、次の工程へ進めないからです。


私が今まで一緒にお仕事をしてきた編集者について

 ここからは実際に私が今までお仕事をしてきた編集さんについて、2つに分けて書いていこうと思います。
 あくまで私が一緒にお仕事をしてきた人についてなので、全ての編集さんが当てはまるわけではありません。


①印刷会社・制作会社の編集者

 印刷会社・制作会社など、紙媒体を扱っている会社に多かったです。こういった会社の場合、ざっくり以下のような工程を経ると印刷物が世に出回ります。

①編集者と打ち合わせ
②制作
③担当編集チェック
④さらに上の人がチェック
⑤お客さんチェック
⑥上記①〜⑤工程を数セット繰り返す
⑦納品・校了・下版

 こういった工程で印刷物を作る会社の編集さんは、お客さんの要望を噛み砕いて「こんな感じで制作するのはどうでしょう」と提案してくれます。また、お客さんから無茶な要望を受けるのも、営業さんや編集さんだったりします。小さい印刷会社だと営業と編集を兼ねている人もいます。

 過去、お客さんからお仕事の終盤に、この段階で作業すると印刷事故のリスクが高い無茶振りをされたことがありました。その内容を私が知る頃には、既にその修正依頼はなかったことになっていたのですが。
 当時の担当者は営業と編集を兼ねている人で、本当に仕事のできる人だったので、無茶振りが私に回る前に「この作業を今の段階で行うと、こういったデメリットがある」と説明をつけてくれたそうです。神だ……。
 画像トレースチェックツールのようなものを使用して、印刷する上で本当に問題のないデータかチェックしてくれる編集さんもいました。具体的に言うと、デザインOKが出た責了データと入稿データの画像がぴったり一致するか、不要なオブジェクトが入っていないかを見てくれました。神すぎます……。

 私が一緒にお仕事をした印刷会社・制作会社の編集さんには、以下の特徴があると感じました。

・お客さんと制作の間に入って考える
・お客さんの要望を汲みながら制作へ向けたラフ原稿を作る
・ラフ原稿は具象的で仕上がりのイメージがしやすい
・修正指示の内容はかなり具体的
 例:赤ベタの白文字に、ここまで下げる、○ミリぐらいずらす
・「いい感じに作って」「センス良く作って」はあまり言わない


②Webメディア運営会社の編集者

 バナー画像制作やライティング業務でWebメディア会社の人とお仕事をした経験があります。こちらも簡単に作ったものが世に出回る工程を説明していきます。

①編集者と打ち合わせ
②制作
③担当編集チェック
④さらに上の人がチェック
⑤上記①〜④を数セット繰り返す
⑦納品・校了

 ここで印刷会社・制作会社の工程と比較してみると、お客さんチェックがないことがわかりますね。これはあくまで私がお仕事をした会社なので、会社やお仕事内容によってはお客さんチェックが工程に加わる場合もあるかも知れません。
 お客さんはインターネットで検索してそのメディアサイトにアクセスしてくる人達です。メディアサイトによってどんな年齢層なのか・どのような情報を求めているかなどのターゲットが異なります。制作側はメディアサイトのターゲットを思い描きながら物を作ります。しかし、印刷会社・制作会社と違って具体的な修正要望をお客さんから聞くことができないんですよね。具体的な修正内容は編集さんからのみ言われます。

 私が一緒にお仕事をしたWebメディア運営会社の編集さんには、以下の特徴があると感じました。

・編集者の要望を汲んで制作することが多い
・お客さんの好みも考えると、具体的に「こうやって直してくれ」という指示が出せないことが多い
・上記は編集者=お客さんになるのを防ぐため
・そのため「いい感じに作って」「センス良く作って」を頻繁に使う
・「心に響く文章にしてください」も頻繁に使う


バズったツイートで見かけるのは②の仕事タイプの編集者

 話を一番最初まで戻しましょう。Twitterで「こんな仕打ちを編集から受けた」と告白する漫画家が関わっているのは、②の仕事工程・特徴をもった編集さんではないでしょうか?
 「えっ、でも漫画って紙媒体とWeb媒体両方あるよね?」と思うかも知れません。注目してほしいのは、メディア媒体ではなくて仕事工程・特徴の部分です。
  漫画業界の編集さんに会ったことはないのですが、下記のことは漫画業界でもあるのかなと予想します。

・お客さんからの修正指示は入らない
・編集さんから修正指示が入る
・「センス良く描いてよ」「いい感じに作ってよ」と曖昧な指示が多い

 話と作画が別々の場合もありますが、漫画家は作画だけでなくいかに魅せる話を作るかも考えなければいけないことが多いですよね。修正指示が膨大になる割に、上記の言葉を言われると、「直せ直せって言うけど、じゃあ具体的にどんな風に描けばいいのか言ってよ……」と精神的に追い詰められてしまいますよね。


②の編集者とはお互いの相性が重要ポイントかも

 実際に私も「エスパーとか使えないし思考読んだりできないんだから、どうやって直せばいいのかちゃんと言ってよ〜」と頭を抱えていました。編集さんが具体的な指示を出せない理由ももちろん理解しているつもりですが、修正がばんばん重なると結構しんどいですよね。最終的に「我々の目指すところのセンスが違う」とか「私たち相性が合わないかも知れません」と言われ、契約を切られたことが何度かあります。

 お互いの相性や完成のビジョンが近い人が担当につくと、お仕事が進みやすいかもしれません。


相性が合わないからダメ、ということはない

 相性が合うことは重要なポイントではなりますが、相性が合わなければ全員ダメ、というわけではありません。ねばり強く積極的に提案したり、要望のヒアリングを丁寧に行うことで、自分の作風の幅を広げる機会にも繋がります。
 私も「相性が合わない」と言われたWebメディアの人に、ねばり強く修正案を提案し続けました。残念ながら契約が切れてしまったこともありますが、今でも繋がっていてお仕事をもらっている編集さんもいます。その方とは積極的に意見交換をして、お互いのイメージを擦り合わせています。
 とはいえ以下の場合は担当を変えてもらうか、さっさと別のお仕事を探す方向にシフトした方がいいかもしれません。

・無償でやらせようとする(論外)
・最初に設定された単価があまりにも安い
・修正指示と一緒に人格否定をされるようなことまで何度も言われる

 「絶対にこの媒体に作品を載せたい」という思いがあったり、何を大切にするかによっても状況が変わってきますが、避けた方がいいと思います。特に適切な価格がもらえない上に、修正指示の際に人格否定してくるとかのダブルパンチはまじで最悪なので、心と身体の健康のためにも変えてもらうべきです。何のお仕事をするにしても身体が資本ですしね。


まとめ

 長くなりましたがまとめです。ツイッターの告発文などを見ると「悪」にされがちですが、編集者も全員が「悪」ではありません。お互いの相性が合わなかったり、完成のビジョンが異なると言い争いになってしまうのが原因かもしれません。
 そうは言っても、中には本当にサイコパスで「悪」みたいな人もいます。しかし、それは編集業に限らず、我々デザイナーなどの制作側や業種問わずいるものです。先ほども書きましたが、そういう人と当たった場合はさくっと違う担当に変えてもらうか、違う会社と契約してお仕事をしましょう。

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