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牛丼チェーン・女性蔑視発言を心理的安全性から考えてみる【DEI#31】

こんにちは。中小企業診断士のさとうたろうです。
ダイバーシティに関するトピックを紹介しています。

牛丼チェーン・女性蔑視発言を考えてみる

牛丼チェーンの常務取締役本部長(当時)が「生娘をシャブ漬け戦略」と称し、「田舎から出てきた右も左もわからない女の子を無垢・生娘のうちに牛丼中毒にする」「男に高い飯を奢ってもらえうようになれば、(牛丼は)絶対に食べない」などと発言し話題になったのは、記憶に新しいところだと思います。

この事件については、
本人の資質の問題や、当牛丼チェーンにおけるジェンダー教育が不十分だったのでは、という文脈で捉えられることが多いです。
確かにそうかもしれませんが、今回は、敢えて「心理的安全性」の観点から考えてみたいと思います。

ここからは推察も含みます。
今回のケースは、大学の社会人向けプログラムというクローズドな場だったので、常務取締役は、ウケを狙ってこのような発言をした可能性は多いにあると思います。
そのような方であれば、今回だけでなく、常日頃からこのようなハラスメント的な発言により、場を盛り上げようとしていた可能性があります。
おそらく、これまでもその予兆はあったはずです。

10~20年前の男性中心・年功序列的な社会であれば、こうした発言は許容されていたのかもしれませんが、今はそのような社会ではありません。
こうした変化を気づかせてくれる人が、この常務取締役の周りにはいなかった可能性があります。
もし心理的安全性が高い組織であったならば、この常務取締役の周りの誰かがwarningを出せていたはずです。

もしかしたら、同牛丼チェーンは、今回の事件をもらい事故のように考えているかもしれません。
もちろん、本人が最も責められるべきところですが、心理的安全性を高めてこなかった組織にも大いに責任があると言えます。

無意識の偏見があった可能性も

もしかしたら「無意識の偏見」も関係しているかもしれません。
「アインシュテルング効果」についてご存知でしょうか?

「アインシュテルング」とは「心構え」を意味するドイツ語。
「慣れ親しんだ考え方や見方に固執してしまい、他の考え方や見方に気づかない」という無意識の偏見の一つです。
「年齢や経験を重ねると思考が柔軟ではなくなる」というのはこの効果によるものです。
この常務取締役が10~20年前の成功体験を引きづっていた可能性も多いにあります。

心理的安全性が欠けている状態は大きなリスク

エイミー・C・エドモンドソン氏の「恐れのない組織」という書籍では、
2003年のNASAスペースシャトル・コロンビア号における、
7人の宇宙飛行士が全員、命を落としてしまったという悲惨な事故を紹介しています。

スーツケースほどの大きさの断熱材がシャトルの前縁を直撃して大きな穴が開き、事故を引き起こしたという今回の事故。救出策が実行されていれば、悲惨な死を回避できたかもしれないとされています。

ロドニー・ローシャというNASAのエンジニアは、いち早くその兆しに気づき、上司に相談を持ち掛けましたが、受け入れられませんでした。
事件の後にローシャは、このように語っています。
「言えるわけがない。私は [組織の] 底辺にいて‥‥彼女 [ミッション・マネジメント・チーム・リーダーのリンダ・ハム] ははるか上にいるのだから。」と。

言うべきことがあるのに言えないと感じるという心理的経験は、多くの従業員にとって他人事ではなく、組織階層で当たり前に起きている(中略)
耳を傾け学ぶべき立場にいる上層部の人々は、自分の存在が階層の人々を押し黙らせてしまうことに、なかなか気づかずにいる。

今回の牛丼チェーンの問題は、やはり個人の資質の問題として片づけるのではなく、組織の心理的安全性の問題と捉え、他山の石として、自らの組織の見直しをしていきたいところです。

【参考・引用】
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
エイミー・C・エドモンドソン (著), 村瀬俊朗 (著), 野津智子 (翻訳)
出版社 ‏ : ‎ 英治出版
発売日 ‏ : ‎ 2021/2/3

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