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それでも生きる(13:レジチームが日本一を獲得するまで③)

 レジで働くメンバーがそれぞれに個性を発揮し、ご来店をされるお客様から、応援のメッセージを頂けることが、時間が経つごとに増えていった。

 お店には、お客様の声を書いて頂けるようにノートを置いてあるのだが、そのノートに「◯◯さんにレジを打ってもらうと元気がもらえます」といったような、ありがたい書き込みが何度もあった。

 また、レジスタッフのご家族が、お客様としてスーパーマーケットに来店された際、
「妻の笑顔が増えました」
 とか
「娘が頑張ることに喜びを覚えて、今までよりテスト勉強も頑張るようになりました」
といったお声掛けを頂くこともあった。

 レジスタッフが一つのチームとなり、絆を深めていく中で、取り組んだことがあった。

 それは、「一人二人制(ひとりににんせい)」という取り組みだ。

 スーパーマーケットで買い物をした際に、レジで「商品のバーコードをスキャンする人」と「お会計を担当する人」の二人体制で、レジを打っているのを見たことがあるだろうか。

 そのやり方を「二人制」というのだが、自分がマネージャーをしていたスーパーマーケットでは、「一人」で「二人制をやる」という取り組みをした。

 どんな取り組みかを説明する。

 まず、お客様の買い物カゴに入っていた商品のバーコードをすべてスキャンして、合計金額がレジに表示されると、お客様にその合計金額をお伝えする。

 当時は、電子マネー決済が存在しない時代だったので、お客様は現金で支払うため、お財布からお金を出そうとする。

 そのお金を出そうとして時間を要している間に、次のお客様の買い物カゴに入っている商品のバーコードのスキャンを始める。

 手前のお客様が、お財布から現金を出し終わったら、手前のお客様の会計を行い、次のお客様のバーコードスキャンに戻る。

 この取り組みによって、かなり時間が短縮される。

 多くのスーパーマーケットでは、この「一人二人制」を採用していないが、その訳は大きく二つある。

 一つは、一度に二人のお客様の接客を行うことが失礼であるという考えによるもの。
 もう一つは、操作を誤った場合に、手前のお客様のお買い物の合計金額に、次のお客様のお買い物の合計金額が合算されてしまうリスクがあること。

 自分としては、「お客様をお待たせしないことが、レジスタッフにできる最大のサービスである」という考え方で、「一人二人制」を採用した。

 また、操作を誤らないようなポイントがあり、それを周知徹底すれば、操作を誤らないと信頼できるレジスタッフが揃っていたので、リスクは感じていなかった。

 実際、お会計を合算してしまう失敗は起こらなかった。

 レジスタッフが「一人二人制」に取り組んで、約半年後、レジの機械でデータを記録している業者から、「1ヶ月の1人あたりの1時間の登録点数の平均値が、日本一になりました!」という連絡があった。

 わずか、2店舗しかない会社が日本一を獲得したというニュースは、スーパーマーケット業界に少なからず衝撃を与えた模様で、以後、業界大手のスーパーマーケットのレジスタッフから「見学をさせてほしい」「どういう教育をしたのか聞かせてほしい」という連絡が何度もあった。

 実際に見学に来てもらうと、ギャルもヤンキーも雰囲気が暗い子も、元気に楽しそうに圧倒的なスピードでレジを打っていて、見学に来た人があんぐりと口を開けて見ているのが印象的だった。

 「どうしたら、みんなこんなに活き活きと働くんですか」
 と聞かれたので、
 「私が一番レジ打ちが下手なことが理由です。自分は義手なので、パートさんやアルバイトさんの方が上手にレジを打ちます。でも一番、自分自身がレジが上手になりたいと思っています。そのもどかしさをパートさんもアルバイトさんも察してくれています。私にできない悔しさを、パートさんやアルバイトさんが、代わりに晴らしたいという気持ちになっているのが、ここまでみんなが活き活きと仕事をしている理由です」
 と答えた。

 自分が築き上げたレジチームが、心から誇らしく感じた瞬間だった。

 そのレジチームが解散する日が迫っていることを、この時は知る由もなかった。

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