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塩野秋
2020年4月29日 21:38
ほんものの星 きみに憧れたことを許してほしい。 夜の、強すぎる街灯の光に照らされたつまさきを見つめながら、わたしはそう思った。 急に立ち止まってしまったことに、きみは気づかないで進んでいる。足音でわかる。でも、歩みはゆっくりで、たぶん今気づいたのだ。でも戻ってこようとしない。わたしは顔をあげない。 なんだか、どうしてか、顔をあげたら泣いてしまいそうな気がする。 きみに出会ってからいつ
2020年4月14日 18:54
ただ踏むだけの地面を大理石にする理由がわからない。汚したくないのなら、汚れてもいいのなら、高級な床などなければいい。 草壁智はヘラを握りながら、ロビーの大理石の床に目を落としていた。ぼけた薄青の作業着に身を包み、光を宿さない目をした青年は、人が行き交うのに何故、自分が掃除をしているのかを考えた。 高層ビルの中に存在するオフィスに行くために、スーツ姿や、オフィスカジュアルの人間が次々ゲートに吸