見出し画像

書評:プラトン『国家』

プラトンの政治哲学の核心に迫る

今回ご紹介するのは、プラトン『国家』。

長編の労作であり、プラトンの政治哲学の根幹に当たる著作だ。

本著の主題は大きく2つと言われている。

1つは「正義論」。
1つは「国政論」である。

まずは本著の流れのご紹介から。

----------
まず、正義の人と不正の人とではどちらが幸福なのか(利益を得るのか)という問いから出発する。それを論じるに当たり、そもそも正義とは何か、定義の明確化が試みられる。定義の明確化に当たっては、大なる国家の正義を究明し、それを小なる個人に流用するというアプローチが取られる。

ここで有名な「哲人王支配の政治」が語られ、その実現条件として哲人王の教育方法が語られる。同じく有名な「善のイデア」が登場するのもこの箇所である。

その後、「哲人王支配の政治」に比する形で、より劣った政体として「名誉支配制」「寡頭制」「民主制」「僭主支配制」が語られる。

最後に魂の不滅が説かれることで、この長い対話篇は幕を閉じる。
----------

ソクラテス的な「知愛」の精神と、純粋にプラトン的な「国政論」とが、また多分にプラトン的な「イデア論」によって結びつけられた、完成度の高い著作である。

以下、私の読後感。

①全体について

何よりもまず私が感じたのは、リアリティを伴って語られるのは「正義論」でも「イデア論」でも「哲人王政治」でもなく、より劣った政体と位置づけられた「名誉支配制」「寡頭制」「民主制」「僭主支配制」の描写だということであった。

「イデア論」が象徴するように、プラトンは理想主義的な哲学者であったかのような印象が一般にあるかもしれない。
しかし本著の「国政論」は徹底したリアリズムに則っている。

むしろ彼の「哲人王政治」や「イデア論」は、リアリズムから来る反動ではないかとすら思える程だ。

それほどまでにプラトンによる現実描写には目を見張るものがある。

②「自由」について

実は「哲人王政治」を語る場面では、「自由」については全くと言ってよいほど語られない。

「自由」の問題が初めて語られるのは「民主制」の描写においてになる。

しかもそこで語られるのは、「自由」は「隷従」へと至るもの、即ち「民主制」を「僭主支配制」へと貶める原因となるものとしての「自由」なのだ。

ここには、プラトンの「自由」に対する否定的な態度を読み取ることができよう。

私はこれを評価に値するものと捉えている。

20世紀以降、「自由」は様々な局面でその両義性が指摘されてきた。

・ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』
・エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』
・ハンナ・アレント『全体主義の起源』に見られる自由論
・アイザイア・バーリン『自由論』における「消極的自由」と「積極的自由」
・政治哲学上の「正義」を巡るリベラル=コミュニタリアン論争(特に自由の価値を強調するロールズを筆頭とした前者の立場)
・新自由主義とその問題点の指摘を巡る一連の議論

等々、枚挙にいとまがない。

現代における「自由」という概念の論争性を考えた時、プラトンの否定的な「自由論」は、2500年前において現代を先取りするかのような説得力を持っているのだ。

未だに「自由」が語られる際にしばしばプラトンが引用されるのは、故なきことではないのである。

『国家』はプラトンの政治哲学が存分に語られた重要な著作である。他にはない、統治や教育などの現実における技術論が大半を占めるのも特徴的だ。

故に、プラトンについて数多の論争を醸すのもやはり『国家』なのだ。

結局のところ、『国家』を知らずしてプラトンを知ることなしと言っても過言ではないだろう。

また、確かにプラトンの著作・思想哲学は2500年前のもの。
当時と現代とでは社会の諸前提が全く異なることは確かであり、特に政治や教育に係る技術論については現代に直接有益となる主張は少ないかもしれない。

しかし、プラトン哲学の根幹は「人は如何に生きるべきか」であり、このテーマを取り巻く一連の「価値判断」がその核にある。

人間にとって「価値判断」は、好き嫌いのように人それぞれが当たり前、というものもあるのだが、善悪のような、広く社会・世界そして時間的に共有され得るものがあるのも事実である。

その意味において、人類的な知的遺産としてのプラトンの価値は失われることはなく、いつの時代にも輝きを放つものと信じて止まない。

読了難易度:★★★★☆(←政治学の基礎知識が必要)
プラグマティックプラトン度:★★★☆☆
価値判断に係る哲学度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆

#KING王 #読書#読書感想#読書記録#レビュー#書評#人文科学#哲学#ギリシア哲学#プラトン#国家#政治哲学#正義論#国政論#自由論

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?