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書評:プラトン『饗宴』

『饗宴』に込められたプラトンの意図に思いを馳せる

今回ご紹介するのは、プラトン『饗宴』。

本著は、ソクラテスを含む様々な登場人物が酒宴の席において、「エロス(愛)」を賛美していくという内容となっている。

実は本著は、ソクラテス/プラトンが一貫して問い続けた「人間は如何に生きるべきか」というテーマに対して、以前の投稿でご紹介した『パイドン』と対をなす主張を展開したものと位置付けられている。

『パイドン』では、イデア論を軸にその認知を目指した思弁に生きることが提唱された。

対して本著では、「永遠なる美」、「美そのもの」を求める「愛」を賛美することによって、目指すべき生き方というテーマにアプローチしていく。

『パイドン』と比した時、そこに描かれるソクラテス像という点でも好対照と言えるだろう。

『パイドン』のソクラテスは、死を目前に控えた従容たる理性的人物で、また厳格な人物であった。

対して本著のソクラテスは、正に生を謳歌する存在だ。
ソクラテスのエロス論は、「生きること」そのものへの賛美とも取れるほど、躍動感が漂うものとなっている。

※因みに本著では、ソクラテスのエロス論はかつてディオティマという婦人からソクラテス自身が説かれたという設定を持っている。この点について私なりに思うことがありますので、後述したい。

また本著では、ソクラテスがどのような性格・人格を持った人であったかという、一人物としての人間ソクラテスが伺えるという面がある。具体的には、ディオティマ婦人に対して教説を真摯に求めるというソクラテスの姿に、誰に対しても奢ることなく知を求めるソクラテス像が垣間見ることができる。

この点が他の対話編に比した時の本著の特徴の一つとなっている。

さて、以下は本著の紹介というよりも、私の想像を多分に含んだ読後の感想である。

本著は、著者プラトンのソクラテスに対する尊敬、敬愛が凝縮されたような著作だと感じられた。

一つには、ディオティマ婦人とソクラテスの実際のエピソードが含まれる点など、他の対話篇に比してソクラテス自身を賛美しようとするプラトンの意図を伺うことができること。

また一つには、対話のスタイルである。他の対話篇におけるソクラテスは、他の論者と言葉を交わし合う文字通りの「対話」を繰り広げる。他方本著では、他の論者にエロス論を存分に語らせた上で、最後にソクラテスが登場するという構成になっている。ここには、「対等な対話」という対話篇の魅力を損なうことになろうとも、ソクラテスを傑出した人物として表現しようとしたプラトンの意図が伺えるように感じられた。

プラトンの著作群(特に対話篇)を俯瞰的に見た時、プラトンの著作活動の目的の一つには、自らの人生を師ソクラテスの宣揚に捧げんとしたことを見て取ることができる。

そして、本著こそが最もその目的意識を込めた、プラトンの師を慕う心に満ち溢れた著作であるのではないかと思われるのだ。

本著において私が一番感動したのは、著者プラトンが本著に込めたそうした思い(それは私の想像の域を出ないものだが)だったと言っても過言ではない。

ところで話は逸れるが、ソクラテスに教説を与えたディオティマが婦人であるという点も注目に値すると思われる。

婦人、女性が真理を語るという設定、これはそれほど見られるものではない。私の知る限り、古今東西見渡しても珍しいだろう。

ある種の弁舌においては、女性ならではの感性、視点から、女性が語るが故に説得力が格段に増すと共に、女性の声、女性の主張だからこそ傾聴に値するというケースがあるものだと私は思う。

こうした観点からも、ディオティマのエピソードは本著の見所の一つとして取り上げるに値するものだと言えるのではないかと考えている。

最後に、変な話だが、プラトンの著作を巡っては『饗宴』派と『パイドン』派に好みが分かれるのではないだろうか。

「対をなす」と言われる両者だけに、「自分はどっちが好みだろう?」という自問を持って読んでみるのも楽しいのではないかとオススメしたい。

読了難易度:★★☆☆☆
「エロス」と言ってもKING王の大好きな「欲情」ではなく「美」のことだ度:★★★★★
プラトンの師を慕う心を感じる度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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