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書評:森本哲郎『そして文明は歩む』

宗教と文明を巡るロマン溢れるエッセイ

今回ご紹介するのは、評論家森本哲郎氏による『そして文明は歩む』という著作。

ライトなエッセー調の著作だが、宗教社会学に学術的に取り組んだ経歴を持つ著者ならではの鋭い洞察が随所に見られる、大変読み応えのある名著だ。

宗教社会学的な見地から、宗教(宗教的なものも含む)や風土、文化といった文明の構成要素やその諸関係が、当地に暮らした人々のものの考え方や風俗・習慣に如何なる影響を与えたかというテーマについて、森本氏の考察が非常に平易に、かつ広範囲に展開される。

具体的には、著者は古代より育まれた各地の文明に対し、各文明が体現する宗教的特徴や思考方式に基づき、それぞれを特徴付ける「数」を抽出する。一神教文明なら「1」、ゼロの観念を生み出したインド文明なら「0」、陰と陽など二元的思考を特徴とするする中国文明なら「2」、多神教文明なら「多」、アミニズム的信仰が確認される日本なら「万」、といった具合だ。

そして、それぞれの文明の特徴を、各「数」が持つ特徴と重ね合わせながら、各文明の固有性や相互の相違性を明らかにしていく。

このような立論は科学としては多分に安直、または乱暴であることは否めないものであろうが、私が本著を初めて読んだのが若かったこともあり、乱暴さよりも世界の諸文明をいくつかのパターンに収斂させていくその軽妙な筆の運びが感動的で、当時不明点の確認も含め何度も読み返し楽しんだ。そしてその後、長きに渡って私の文明の捉え方に基礎的な方向性を与え続けてくれる著作となっている。

また本著は、歴史的なエピソードが沢山ちりばめられていることで、内容がより充実したものとなっていることも特徴だ。例えば、太古のギリシア懐疑主義者ピュロンのことを私が知ったのは本著によってであった(山川出版社の世界史用語集にも出てこない)。

ライトな著作ではあるが、多分に影響を受けたという意味で、私の人生の名著十傑に入る著作である。


以下は雑談。

この著作のことを教えてくれたのは、高校時代の国語教師だった。その教師は時々ご自身が読んだ本を授業の最後に紹介してくれる方だった。

その紹介を機に本著の文庫版を購入し読んだのだが、高校生なので友人と本の貸し借りをすることもよくあった。ある友人に本著を貸したところ、何とその友人に本著を紛失されてしまったのだ。正直ベストセラーになるような著作でもなかったためか、再刷などはされておらず、私が買った本屋にも足を運べそうな本屋にも、もう在庫はなかった。

Amazonもない時代であったし既読でもあったので、再入手は諦め、代わりに別の本を1冊もらうということでその友人と話をつけた。その際、今思えば、代わりの本の選択を友人に任せてしまった私が悪かったのだが、友人がチョイスして私に渡してきた本は、トマス・キリーニー『シンドラーのリスト』だった。

『シンドラーのリスト』は、当時正に絶賛ロードショー中の大人気映画で、その文庫本も映画の大ヒットと合わせてベストセラーになっていたような本だったのだ。

以下、その時の私の複雑な心境を吐露してみたい。

(『そして文明は歩む』は割と名著で、再刷の見込みもなさそうで、割と貴重よ?)

(それが絶賛ベストセラーの本で穴埋めって、なんかどうなん?)

(しかもさぁ、『シンドラーのリスト』ってさぁ、ホロコーストを真正面から取り扱った作品でさぁ、なんというかさぁ、「『そして文明は歩む』の代わりに『シンドラーのリスト』って、いらんわ!!」とか、なんか言いにくいやん・・・。そういうこと言うたらあかん作品な気がするやん・・・)

(あれ?もしかして「いらんわ!」と突き返されることがないことまで狙って作品選んでないよね?そこまで俺の正義感?正義に対する遠慮感?につけ込んできてないよね?友として信じていいよね??)

しかしこれらは全て私の心の声。
実際に口から出たのは、

「お、おぉ、分厚い本になって返ってきて、なんか得した気分やわぁ〜。ありがとう。」
↑気が弱すぎだKING王!

幸いその後、大学時代に本著の単行本版を学園祭の古本市で30円で見つけることができたのが、とてもいい思い出である。

読了難易度:★★☆☆☆
宗教社会学の緒の緒に触れられる度:★★★★☆
高校で学ぶ歴史とは一味違う文明史的な視点に触れられる度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★★

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