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書評:スタンダール『赤と黒』

フランス王政復古期という時代の落とし子ジュリアン・ソレルの物語

今回ご紹介するのは、フランス文学よりスタンダール『赤と黒』。

本作は、フランスにおけるナポレオン失墜後の王政復古時代を舞台に、野心に燃える主人公ジュリアン・ソレルの半生を描いた物語である。

1815年から1830年7月革命までのこの王政復古時代は、日本において長きに渡った武家支配の時代を経た王政復古とは全く異なる性質のものだと言えよう。

1789年フランス革命から1815年の王政復古まで、ナポレオン時代(第一帝政)を含め短期間に次々と政体が変遷しながら、一旦はアンシャン・レジーム(旧体制)が崩壊し、民衆は身分という楔から解き放たれたかのような体験をした。しかしながらまた直ちに旧体制へと反動したのが時代だった。

自由が、才能が、努力が、立身出世へと繋がるという「夢」が一度は民衆に与えられるも、一度目の当たりにした広がるチャンスが霧消し、目の前にチラついた希望が失われた、民衆にとって脱力とルサンチマン蓄積の時代だったと言えよう。

そうした時代背景の中、人一倍自尊心と虚栄心が強い野心家の主人公ジュリアンは、自分が心酔するナポレオンが活躍した時代とはもはや違うことを嘆きながらも、貴族社会と修道会を股にかけ、金、コネ、駆け引きの世界に身を置くことで立身出世を果たそうと奔走していく。

しかし、鋭敏な頭脳を持つジュリアンで駆け引きには長けたが、同時に彼は感情の人間でもあった。恋を覚え、恋に苦しみ、結局は恋のために身を滅ぼすことになってしまうのだ。

本作は、時勢としての時代表現と、細部としての恋愛の駆け引きの描写のバランスが絶妙な作品だ。時代背景なくしてジュリアンは成り立たず、ジュリアンによりこの時代の悲劇性が一層表現されるようになっているのだ。

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さて、以下は雑談。

本作は私の読書史において、遺恨が残った作品であった。

私が海外文学を本格的に読み始めたのは18歳、大学1年の頃のこと。当時の読書動機は(今もほぼ変わらないが)「世界文学読んでるってちょっとカッコいい」と言った邪まなものだった。

そもそもの動機が不純なので、当然作品の選択基準も不純で、「タイトルがなんかカッコいい」という理由で読む作品を選択していた。要は当時、「『赤と黒』ってタイトル、なんかカッコいい」と思ったという話である。

ここまでの話だけでも客観的に見ると既に黒歴史なわけだが、動機レベルでは20年以上経った今も実は何も変わっていないので、私としては当時が取り立てて黒歴史だったとは思っていない。

なので本作で残った遺恨というのは、当時の動機が恥ずかしいものだったということでは全くなく、実は他にあるのだ。

『赤と黒』が私の読書史に傷を付けた理由を端的に述べると、「読了出来ずに途中で辞めてしまったことがある」という話なのである。

実は私、あまり読書に慣れてない読書史初期から、とりあえず読了だけはしてみるという粘り強さは割とあった方だった。そんな自負があった中で、途中で挫折した数少ない作品の1つがこの『赤と黒』だったのだ。

挫折後、再挑戦するまでに10年以上かかった。ようやく読了できたのは30歳を超えてからだったと思う。

挫折から立ち直り再挑戦するまでにこれだけ時間がかかってしまった『赤と黒』は、ある意味私の読書史の中の特異点になっている。

読了難易度:★★☆☆☆
軽く主人公に嫉妬しちゃう度:★★★☆☆
タイトル中二病度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★☆☆

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