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書評:坂部恵・佐藤康邦編『カント哲学のアクチュアリティー-哲学の原点を求めて』

カント哲学の現代的意義 - ディフェンス・メカニズムとしてのカント

今回ご紹介するのは、坂部恵・佐藤康邦編『カント哲学のアクチュアリティー-哲学の原点を求めて』という著作。

本著は、現代という時代におけるカント哲学の意義を問い直すという目的の元、カント研究における日本を代表するベテラン・新鋭の学者が著した複数の小論説からなる論説集である。

ここで取り上げられる、心、科学、道徳、自然、美、平和という問題群は、当然カントが批判哲学において全身全霊を持ってその根拠を探り(超越論的に)体系化を試みた領域であった。

他方これらの問題群は、今においてこそ問われなければならない領域であるといえる。

そのことをラフに俯瞰するならば、一方では技術領域における自然科学の急速な発達が時代を牽引することで上記問題群はどんどんモノ化され、他方ではそれらへの反応として根拠薄弱なオカルト宗教的思考が跋扈することでどんどん人間の思考停止が促進される、そんな二極に引き裂かれんとするのが現代であると特徴づけることができるのではないだろうか。

この二極のうち前者を以て「知の暴走」などと評されることもしばしばだが、もう少し厳密に言うならば、学問領域における自然科学の目覚ましい発達が、他の科学(人文科学や社会科学)の存在感を弱めるに至り、学問領域相互間のバランスが崩れ始めているということなのかもしれない。心や事象のモノ化は、人間や事物を物の理(ことわり)において解決しようとする時代的潮流となりつつある。本来であれば、人自身や人のつながり(社会)自身の研究である人文・社会科学が自然科学とともに相補的に発展し行く姿こそが望ましいと思われるところなのであるが。

さて、このような現代の俯瞰のもと、カントは如何に読むことができるのだろうか。

カントの哲学は、いずれの場面においても、極度の二律背反的な状況を研ぎ澄ますように極端化する思考を展開する。そのほとんどは、分裂的に考えることが成り立ち得るような状況の中での思考であり、その中において、「超越論的」というアプローチで分裂的状況を統合していかんとする思考戦であったと読むことができるという。

つまり、従来のカント解釈の中心であった「諸科学の基礎付け」という役割を超えて、分裂的状況に対する「ディフェンス・メカニズム」を問い続けた哲学であったと読むことができるのである。

モノ的な側面とその反動、またモノ思考と人思考・人間社会思考の相克、この相克場面においてこそ、カントのディフェンス思考は今後意味を持ちうるのではないか。これが本著を通して共有されたカントの現代的意義の1つになっている。

この点に関し、カントは完成された先人の知恵では決してない点に注意が必要である。カントは文字通り「問い続けた」のであり、現代においてカントに上記のような意義を見出すならば、問いの立て方と思考プロセスを学びながら、カントと共に、且つカントの思考戦を継承する思考が求められるのだろう。その意味において、現代においてはカントは常に脱構築されねばならない。

そのためには、哲学界・人文科学界においてカントは相対化されねばならないだろう。つまり、「哲学と言えばカント」というカントの教条化は乗り越えられねばならないだろう。

読了難易度:★★★☆☆
カント哲学基礎知識必要度:★★★★☆
カント哲学現代的意義発見度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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