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CEM(カスタマーエクイティマネジメント)とは何か?

こんにちはRepro CMOの中澤伸也です。今回は「LTVを軸にした予算編成・管理会計」の実践手法として「CEM(顧客資産マネジメント)」について解説します。経営活動とマーケティング活動をリンクさせる事を目的とした方法論になりますが、主に小売業のケースを想定して書いています。

財務会計と管理会計

そもそも「管理会計って何?」という声も聞こえてきそうですので、先に管理会計の説明をしておきます。大前提として、企業会計は、「財務会計」と「管理会計」に大別されます

外部報告のための「財務会計」
財務会計は、株主や金融機関をはじめとする社外の利害関係者に業績を把握してもらうために提出する会計のことです。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった決算時に作成される「財務諸表」は、財務会計のための資料にあたります。
会社法などの法律や、会計基準に基づいて算出されます。

内部管理のための「管理会計」
管理会計とは、自社の経営に活かすために作成する、社内向けの会計です。経営者は、管理会計の情報をもとに、自社の経営について判断・意思決定を行っていきます。外部に提出する「財務会計」と「実際の企業活動」の連結部分となる会計であり、マネジメントの為の会計です。

管理会計は内部マネジメントの為のモノなので、財務会計とは異なり、その運用に使用する「指標」や「帳票」は、各社が自由に設計し運用します。よってこの管理会計に「LTV」の概念を投入する事が重要となり、全体としては以下のような構成になります。

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管理会計は企業の「戦略」や「状況」を具体的に反映させていくモノのため、期初に計画する「各戦略や戦術」と連動します。

そして、LTVと連動させる為には、マーケティングの個別活動を管理する指標群と、経営レベルの管理会計を、「LTV」という共通指標でリンクする為の仕掛けが必要です。この図においては、その役割を「CEM帳票」が担います。

CEM帳票とは何か?

CEM帳票とは、「カスタマー・エクイティマネジメント帳票」の略で、直訳すれば「顧客資産管理帳票」という事になります。顧客を企業における収益を生み出す源泉、つまり「資産」と考え、それらを計画及び管理していきましょう、という目的で作成されます。

CEM帳票は、エクセルで言えば複数のシートで構成されるのですが、要はLTVの要素を四則演算で要素分解したモノであり、分解したKPIを積み上げる事で、最終的には「顧客利益」と「顧客への投資コスト」というKGIに収斂され、「経営レベルの管理会計帳票」や「財務諸表」と連動されます。イメージとしては下記のような感じです。

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表ではかなりKPIを端折ってますが、実際には「顧客維持率」や「年間購入回数」「同時購入点数」といったレベルまで分解します。

そして、より詳細な分解式である、「媒体別計画」や「Web系のログ指標計画」、「商品別販売計画」といった指標に落としこみ、これらをどうしていくのかといった「戦略・戦術の策定」とセットで、「年間マーケティング戦略書・計画書」に纏められます。

最も重要な事は、戦略や戦術の策定がこれらのKPIにどう連動するのか、その為のコストは幾らなのかを、計画段階で明確にする事であり、実行フェーズにける毎月の活動では、これらの活動と対象KPIを追って行く事で、計画の実行精度を上げていく事になります。

CEM帳票の具体的イメージ

CEM帳票は、顧客を資産として捉え、LTVをマネジメントしていく為の帳票であり、管理手法です。顧客資産は毎年の活動によって蓄積されていきます。経営活動とリンクさせやすくする為に、会計年度と合わせて管理していく事が実際のマネジメントのコツとなり、帳票としては以下のようなイメージになります。

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上記はCEM帳票の一部分の切り出しです。このようなテーブル群を「LTVの分解要素分」用意し、予算編成と予算実績管理を行っていく形になります。

最大の特徴は、顧客をその獲得年度毎に管理する事にあります。これを「年度別顧客コーホート」と呼びます。

そしてこのテーブル群を正しく作成し、行ってきた戦略や戦術と照らし合わせる事で、それぞれの年度におけるマーケティング活動が、各年度毎の顧客群の動き(KPI)と大きく連動する事がわかると思います。

例えば、ブランディング活動に重点を置いていた年度に獲得した顧客コーホートは、その後の年度における「維持率」が、他の年度に獲得した顧客コーホートより高くなるなど、毎年の全体に対する活動のみならず、獲得時点でん活動がその後にどう影響するかなども見えてきます。

企業全体の予算編成精度に与える影響

ある一定期間、CEMのデータを蓄積・集計する事で、それぞれの年度コーホート毎の各KPIの傾向値が把握できるようになります。例えば、翌年への維持率、年間購入回数、商品単価といったKPIです。

これらのKPIの傾向を把握する事で、翌年の各KPIの予測を年度コーホート毎に立てる事が可能となり、その積み上げとして、翌年の全体売上(収益)の予測を行う事が可能になります。

そして、マーケティング戦略等の各活動を、各KPIとリンクさせて立てる事により、どのKPIを、どのような活動で、いくらの投資で、どの程度引き上げるのか、といった形で計画が組まれる事で、予算編成の精度を大きく向上させる事が可能です。

また、予算の実行(運営)段階においても、計画との乖離をKPIレベル、そして連動する戦略・戦術と照らし合わせて把握し、PDCAを回していける事から、経営自体のマネジメント精度を向上させる事ができます。

何よりも重要な点としては、長期的な目線が必要となる「LTV」という視点と、短期的な目線となる「今期予算」を、一つの管理会計、帳票群で、同一に扱う事が可能であり、LTVを経営活動にリンクできる事です。

CEMを実践する上での課題

CEMを正しく機能させる為には幾つかの課題があります。

① 顧客を「個客単位」で管理できる事
② マーケティングコストを「個客単位」で把握できる事。(少なくとも新規投資、既存投資ぐらいは)
③ 各マーケティング活動を「目的(新規・既存等)」で管理できる事
④ 全社の管理会計にマーケターが関与できる事

①〜③については、ECであれば比較的容易にできるかと思いますが、リアル店舗を持つ場合には、前提として「会員プログラム」の存在や、オフラインとオンラインの会員統合等が必要となります。

そして「CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)」が必須で必要であり、できれば「マーケティング・コスト」も、CDPの中にデータセットとして蓄積する事が望ましいと思います。

最大の課題は「④」になると思います。というのも、管理会計に関わる担当の多くが、財務会計や経理関連の出身の人なんですよね。なので、とても会話が難しいです。自分はたまたま、両方とも自分が責任者だったので、やりやすかったのですが・・・。

最後に・・

CEMは非常に奥が深い概念であり、正直、実際の運用に乗せる為には、結構なコツが必要になります。
このNoteでは、あくまでも「さわり」の部分しか書けていませんが、もし興味がある方は、ぜひ「ロバート・C. ブラットバーグ」の「顧客資産のマネジメント」をお読みになる事をオススメします。

次回は、Part1の内容の続きとして、「本質的価値」をいかに向上していくのか、といった内容を書いていきたいと思います。


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