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【生産性のモノサシ】 成長論 (5)

駆け出しマネジャーの成長論、7 つの挑戦課題を「科学」する
中原淳、2021 (増補版)

※ 私なりの理解を章ごとに要約しました。【付録】コーナーに関連知識や考察を追加しました。引用文に挿入した(※)は私の解釈です。

第4章 成果をあげるため、何をなすべきか
(その1)

挑戦課題−1  部下育成

  • マネジャーが最も苦手意識を持つ傾向があるのが部下育成。だからこそ丁寧に考える。

  • 「誰を・どのように・どんな職場で」育てるのか、この3つが大切

そもそも、誰をどう評価しているのか?

  • メンバー全員の成長を願うのは当然のこと。しかし現実には、マネジャーの時間や精神的余裕をすべての部下に均等に配分することはできない。自分が部下をどのように評価しているのかを棚卸ししたうえで、押すべきツボを使い分ける。

  • 右腕さん(実力もあるし頑張りもする): やりがいのある役割(アクション)を与え、助言(リフレクション)を繰り返す

  • 次の右腕さん(実力はあるのに挑戦に尻込みする): マネジャーからの期待を伝えて、挑戦意欲を引き出す

  • もう一歩さん(実力以上に頑張ろうとする): 成長意欲が空回り気味なので、小さなストレッチを堅実に実行してもらって実力をつける

  • 粛々さん(淡々とできる仕事だけやる): 日々の声がけで、仕事の意義とやりがいを感じてもらい、まずはモチベーションを上げる。

【付録】 個人的には、人を評価したり分類することに躊躇があります。自分自身の見立てが間違っているかもしれないからです。そうは言っても、見立て間違いも含めて、それがマネジャー本人の器量ですから、せいいっぱい努力するしかありません。ドラッカーは人の見立てについて「強みに目を向けよ」と言っています。

 人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。・・人とは、費用であり、(※ 面倒事を引き起こす)脅威である。しかし人は、これらのことゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。

天才をあてにするな。
 組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。・・組織の役目は人の弱みを無意味にすることである。

 あらゆる組織が、事なかれ主義の誘惑にさらされる。・・(※ これを裏返せば)すなわち、まちがいや失敗をしない者を信用してはならないということである。それは、見せかけか、無難なこと、下らないことにしか手をつけない者である。成果とは打率である。弱みがないこと(※ 失敗しないこと)を評価してはならない。・・人は、優れているほど多くのまちがいをおかす。優れているほど新しいことを試みる。

 強みよりも弱みに目を向ける者をマネジャーに任命してはならない。

ドラッカー「マネジメント(エッセンシャル版)」上田惇生編訳

どのように育てるのか?

  •  学習は未知との出会いで生じる。成長には挑戦が切り離せない。未知のものに出会わなければ、ストレスもないかわりに、学習も起きない(快適空間 Comfort Zone)。かといって、本人がとてもできそうにないと感じるとパニックになる(混乱空間 Panic Zone)。やればできるかもしれない、いい具合の挑戦に取り組んで成功と失敗を通じて成長する(挑戦空間 Stretch Zone)。

目標の 60~70% の達成率が理想的です。逆に、達成率が常に 100% の場合、・・設定レベルが低いと言えるので、もっと野心的な目標を立てる必要があります。

https://rework.withgoogle.com/jp/guides/set-goals-with-okrs#introduction

懸命に手を伸ばせば届くストレッチ目標の目安は、部下の現有能力の「1.2~1.3倍」と言われています。あくまでも主観ですが、2~3割増しの目標という意味です。

松尾睦(まつおまこと)「OJT完全マニュアル」2015
  • 基本は部下に ① 目標咀嚼、② アクション(ストレッチ)、③ リフレクション、を促すこと。

  • リフレクションのプロセス: ① 何が起きた、② 自分は何を考え、何をした、③ 何が良くて、何が良くなかった、④ 次にどうする、⑤ 新たな気持ちで実際にやってみる 。

  • 部下に自ら語ってもらうことで事実を見つめ直し、上司との対話を通じて気づきを得る。気づきとは、具体的には「ここがコツだったのか」「こういうやり方もあったのか」という選択肢の拡大だ。

  • 自分ができる行動に焦点を絞る(他責、自責の罠にはまらない)

【付録】 TOC流リフレクション
TOC(Theory Of Constraints)では「YWTM」というリフレクションを励行しています。簡単なのでおすすめです。

  • やったこと (Y)

  • わかったこと (W)

  • つぎにやること (T)

  • そのメリット (M)

どんな職場で育てるのか? 育成に協力的な職場をつくる 

  • 人はマネジャーが育てるというよりは職場が育てる。先輩、同僚、同期との交流からもリフレクション(気づきと選択肢の拡大)を得る。

  • OJT は指導員だけの仕事ではない。まわりのメンバーが協力して面倒を見ると、指導員一人が頑張るよりも新入社員の能力が向上する、という研究結果がある。

  • ここでも、マネジャーは「自分が育てなければ」と思い込まないで、育成にかかわる人を二人目、三人目、と増やしていく

挑戦課題−2 目標咀嚼

  • マネジャーの役割は翻訳機: 経営の言葉を現場の言葉に言いかえる。組織の方向性を解釈して、わかりやすく伝える。

  • 目標作りはストーリー作り: ① 今、どんな環境でどんな状態なのか? ② 短期/中期/長期に何を達成するのか?(語りつくす必要はない、部下が参加できる対話空間が残るほうが良い)、③ 対話を通じて、最終的には具体的な目標に落とし込む、④ 最後に、その先にどんなポジティブ世界が広がっているのか? 具体的目標が達成された先に広がる可能性を、自分たちの言葉で描写する。

  • 日常的に繰り返す: メンバーが腹落ちして、実行されるまで、言い方を変え、見せ方を変え、同じ話に変化をつけて繰り返す。目標咀嚼は日々繰り返すプロセス。これを目標設定とか目標管理と呼ばないで「咀嚼」と呼ぶのは、メンバーが目標に腹落ちして、それを成し遂げるまのでプロセス全体のことだから。

【付録】 目標についてドラッカーはこう言っております。目標とは、意図を実行に変換する「プロセス」です。

 最善の戦略計画さえ、仕事として具体化しなければ、よき意図にすぎない。・・違いは、責任を持って(※ つまり目標を立てて)行うか、無責任に行うかだけである。成果と成功についての妥当な可能性を考慮に入れつつ行うか、でたらめに行うかだけである。

 三人の石工の話がある。何をしているかを聞かれて。それぞれが「暮らしを立てている」「 最高の石工の仕事をしている」「教会を建てている」と答えた。第三の男こそマネジャーである。・・・問題は第二の男である。熟練した技術は不可欠である。・・・しかし、専門家は(自分の技能をふるっているだけで)大きなことをしていると錯覚することがある。技能の重要性は強調しなければならないが、それは組織全体のニーズ(組織の目標)との関連においてでなければならない。

 マネージャーたるものは、上は社長から下は職長や事務主任にいたるまで、明確な目標を必要とする。・・チームとしての成果を組み込んでおかなければならない。・・組織全体の目標から引き出したものでなければならない。・・短期・・と長期・・から規定しなければならない。・・有形の経済的な目標のみならず、無形の目標、・・組織化と育成、部下の仕事ぶりと態度、社会に対する責任についての目標を含まなければならない。・・トップマネジメントが目標間のバランスを図らなければならない。 ・・目標は組織への貢献によって規定しなければならない。・・目標に照らして、自らの仕事ぶりと成果を評価できなけれなならない。

ドラッカー「マネジメント(エッセンシャル版)」上田惇生編訳

ここまでの振り返りと考察

  •  部下育成の基本は、 ① 目標咀嚼、② アクション(ストレッチ)、③ リフレクション。このパターンは本書全体でいたるところに出てくる。

  • 部下育成と目標咀嚼はワンセットのスキル。意義ある目標、腹落ちする目標をチームで共有する。いいあんばいのストレッチ目標を部下とともに設定する。ストレッチ目標だから、ある確率で失敗することも想定しておく。ドラッカーが「成果とは打率である」と言ったのは、このことだと思います。成功も失敗もリフレクションの場に変える。

  • しかし実務的には、部下の失敗で大惨事を招くわけにはいかない。だから計画立案段階でコーチング密度を上げる。この段階のシミュレーションでいくら失敗しても実害はない。逆に、ここで手を抜けば抜くほど、実行段階で想定外の混乱が生じるし、実害も大きくなる。

 「予見計画力」が高い計画立案は、高い実行可能性を持ちます。・・予見計画力は「経験から学ぶ力」の重要な要因であることが、これまでの調査で判明しています。・・予見計画力を高める有効な方策は、指導者が発問しながら、部下に計画をシミュレーションさせることです。・・
「このとき、どのような作業を、どのような順序で行う?」
「この作業で留意すべきことは何?」
「もし、ここで~の事態になった場合、どうする?」
「作業の流れを簡単に書き出してもらえる?」
・・大事なことは、何回も同じように問いかけることで、言われなくても、部下や後輩が自主的に考えることができるように習慣化することです。

松尾睦「OJT完全マニュアル」2015

プロジェクトの現場で昔から言い伝えられている金言。それが「段取り八分」だ。段取りは、プロジェクト成功の8割を握っているという意味。・・段取りとは、モノゴトの順序や方法をあらかじめ定めること。
・・プロジェクトメンバーが集まり、(目標から逆にさかのぼりながら)次の三つの質問を繰り返し、プロジェクトの最初のタスクまで戻っていく。
「その前にやることはなんですか?」
「本当にそれだけですか?」
「○○したら、✖✖できるんですね?」
・・経験豊かなベテランは、後ろからすらすらと段取りが出て来る。・・経験でしか学べないことを計画段階においてシステマチックにメンバー全員に伝える手段としても、訓練・教育の手段としても大変有効だ・・。

岸良裕司「全体最適のプロジェクトマネジメント」2011

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