イスラム教に対するマレーシア人の姿勢
イントロダクション
こんにちは、こんばんは、おはようございます!Renta@マレーシアから国際関係について考える人です!
今回のテーマは、マレーシア人のイスラム教とマレーシアという国家についての姿勢です。
よって、今回のnoteのメリットはこちら!
マレーシアとイスラム教の歴史的な関係がわかる
マレーシアの有力政党の考えがわかる
イスラム教と国家の関係について、複雑な思考ができるようになる
マレーシアとイスラム教の理論的な関係
マレーシアは、マレー系・中華系・インド系の民族から成る多民族国家として知られています。その一方で、マレーシアの宗教といえばイスラム教だとも言われます。
しかし、イスラム教は政教分離が難しい宗教とも言われています。理論的に見ると、マレーシアとイスラム教は以下のような関係です。
マレーシア全体では「憲法>イスラムの教え」という関係
州政府は、世俗法とイスラム法それぞれに基づいた統治機構を持つ
国民の6割がマレー系であり、マレー系国民は全員イスラム教徒である。
以上から、マレーシアは部分的にはイスラム国家(イスラムの教えに基づいて統治される国家)だが、世俗国家の面が強い。という結論を出すことができます。
この結論に関しては、こちらのnoteに詳しく書きました。
とはいえ、歴史や国家は理論ではなく人間が動かしていくものです。そこで、マレーシアという国を動かしてきた政治家などの考えを紹介しつつ、マレーシアとイスラム教の関係を探ってみましょう。
1980年代までは世俗国家志向だった
マレーシアは1957年に独立し、1980年代までは自らを世俗国家と見做していたようです。
その根拠は以下の3つとされています・
元宗主国のイギリスが、マレーシアの世俗国家としての独立を望んでいたこと
歴代の最高裁判所長官が、基本的にマレーシアは世俗国家であるという憲法解釈を示してきたこと
マレーシア初代首相のアブドゥル・ラーマンが繰り返しマレーシアの世俗国家としての性格を強調していたこと
それぞれ補足をします。
イギリスはマレーシアを植民地化していました。だから、独立交渉時はイギリス側に交渉力があります。ゆえに、イギリスの意向が反映されたのかもしれません。といっても、交渉を通じてイスラム教が「連邦の宗教」とされるようにはなりました。背景には、その交渉を行った連盟党(現在の与党であるUNMOの前身)が、独立前の選挙で大勝していたことが挙げられます。
憲法解釈に関して、たとえば最高裁判所長官だったモハメッド・スフィアン・ハシムは以下のように述べています。
つまり、イスラム教はマレーシアの文化や生活様式などには関係するが、政治には関わらないものだと考えられていたのです。
また、ラーマンはマレーシアのような多民族国家ではイスラム国家は非現実的だと考えていたようです。
ここまでをまとめると、1980年代まではマレーシアは世俗国家だと考えられていました。イスラム教は儀礼的な役割は果たしますが、多民族を統治するという都合上、マレーシアがイスラム国家になるのは難しい、というのが基本姿勢です。
風向きが変わってきた1980年代以降
しかし、80年代以降はトレンドが変わります。マレーシアをイスラム国家であると認識したり、マレーシアのイスラム国家化を目指す雰囲気になってきます。
口火を切ったのは、モハメド・マハティール元首相です。マハティールは、マレーシアの経済成長の父とされており、マレーシアの銀行や会社の中にマハティールの肖像が飾られています。
そんなマハティールが「マレーシアはイスラム国家である」と言ったので、それ以降マレーシアはイスラム国家であるという言説が盛り上がります。
言説は2パターンあり、マレーシアの野党のPASが言っているものと、与党のUNMOが言っているものがあります。
ざっくりした特徴として、PASはイスラム法を最高法規にしようとしています。だから、イスラム国家の定義には忠実です。それに比べて、UNMOは与党ということもあるのか比較的温和な主張です。
イスラム国家の定義に忠実な野党PAS
PASは「イスラム国家文書(Dokumen Negara Islam)」という文書において、自らのイスラム国家像について以下のようにまとめています。
現世と来世の成功の達成のために、イスラムの教えに基づいて打ち立てられた国家
イスラムの教えは、国家統治のための主たる規則である
イスラム国家における非イスラム教徒は、宗教や儀礼の自由を享受できる
つまり、PASのイスラム国家像は「政教分離を行わない」ことにあります。イスラムの教えを統治上の規則としているからです。そしてそれは、イスラム教徒国民の現世と来世における救済のためです。
その一方で、非イスラム教徒の自由は保障されています。実際に、オスマン帝国という史上最大のイスラム帝国でも、異教徒は抑圧されなかったようです。
世俗法とイスラム法による統治を認める与党UNMO
UNMOは「イスラム国家マレーシア(Malaysia Negara Islam)」という文書で、マレーシアはイスラム国家であると述べています。その根拠は以下です。
「連邦の宗教」や「州政府のイスラム行政」に代表されるマレーシア憲法におけるイスラム教の特別な地位
著名なウラマー(イスラム教学者)による指摘
イスラム協力機構(Organization of Islamic Corporation)における承認
これは、前半で説明したマレーシアとイスラム教の関係に対する理論的な説明に近いものです。なぜなら、UNMOは世俗法とイスラム法両方を採用し、非イスラム教徒には世俗法を、イスラム教徒にはイスラム法を適用しているからです。
特にポイントなのは、OICにおいてマレーシアがイスラム国家のモデルだと認められていることです。イスラム教は世界宗教なので、民族を選びません。その中で、マレーシアの国家のあり方がイスラム国家として認められるならば、マレーシアはイスラム国家であると考えるのは妥当だと思います。
まとめ
ここまで、「マレーシアはイスラム国家なのか?」という問いを念頭に、各政党の言説を見てきました。
モハマド・シャヒールというウンマは以下のように述べています。
これをもとに考えると、UNMOのめざすイスラム国家は十分に達成されていると言えます。
ちなみに、PASのイスラム国家像を実現するとどうなるのでしょうか?恐らく、イランのような国家体制が近くなると思います。
イランはいわゆる三権分立(行政・立法・司法)を持っています。そして選挙もあります。しかし、三権分立の上に最高指導者がいるという国家体制です。そして、最高指導者は高名なイスラム法学者がなるものです。
つまりいくら権限があっても、最高指導者はイスラム法(の解釈)を超えるような統治は困難です。
とはいえ、イランは人口のほとんどがイラン系です。だから、この政治体制でやっていけている可能性があります。多民族国家マレーシアという状況を踏まえると、UNMOのイスラム国家像が一番安定するのかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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