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「九十九神(つくもがみ)と聖剣娘(けんむす)」第1話 作:筆塚スバル(ジャンププラス原作大賞連載部門応募作品)


魔王城侵攻作戦の決起会が王城で行われた。
オレは早朝出発のため、王侯貴族相手に儀礼的な挨拶を済ませ部屋へ戻り椅子へ腰かけた。

オレことユーリ・ストロガノフは魔王軍との最終決戦に向けて気持ちが高ぶっていた。 
人間へ害をなす悪しき魔王であるが、それよりも強者と戦えるということに戦士の血が騒いでいた。
正直、剣でも握って素振りに勤しみたいところではあるが、決起会で葡萄酒を少量飲んでしまっていた。
ここは部屋で大人しくするか。

いままでの魔王軍との戦いを振り返って自分の動きを想定しておこう。
我ながらパーティーの柱としてうまく戦えていたと思う。
前衛として魔法使いや癒し手を身を挺して守り、魔法でひるんだ相手を勇者と協力して片付けてきた。
体を張り続けた結果、レベルもパーティ―内で一番高い。これは誇っていいものだと思う。
 
ただ、オレのスキル「九十九神(つくもがみ)」はまだ使えるようになっていない。かなりのレアスキルでどんな能力かだれも知らないのだ。
 
まあ、スキル抜きで戦えているのだから問題はないだろう。
 
オレには勇者のような伝説級の武器や派手なスキルはないけど、それでもパーティーにはしっかり貢献できているはずだ。
そもそもオレは武器の専門家であり、この愛用の「鋼の剣」でも伝説の武器を持った勇者だろうが遅れはとらない。
硬い装甲を持つドラゴンやストーンゴーレムでさえ、この背丈ほどある両手剣一本で相手をしてきたんだから。

さあ、明日も早いんだし、寝るか。おっと、その前に鋼の剣を磨いておくとするか。きれいにしてやるからな。
明日からも頼むぞ、相棒。
掲げた剣が光を反射してきらりと光っていた。

剣を磨くために立ち上がると、ノックの音。

「起きてるんだろう、私だ。
 5分以内に広間に来い」

勇者の声だ。
言うだけ言って足早に立ち去った。
オレの部屋に入ろうともしない。
……恥ずかしがり屋なんだろうな。
きっとそうだよな。
いつもそう、はははははは。

 ☆★
 
オレが広間に集まった時にはみんな円卓にすでに着席していた。

正面には金髪蒼眼の勇者ソフィア。
ソフィアの弟の魔法使いロランがその右手に。
さらにその右手に癒し手のオリガ。
円卓は軽く十人は座れるような大きさだが、みな正面に集まっている。
オレの座席は勇者の正面にポツンとある。

あれ? オレの座席だけ、みんなから凄く遠いんだけど……
まあ、いつものことだ。気にせず挨拶しよう。

「よう、みんなおそろいのようだな」
「……」

返事がない。
あれ、オレの挨拶聞こえなかったかな? 耳が遠いのかな。

「みんな、お そ ろ い だな!」

ひときわ大きな声で皆に声をかけた。

魔法使いロランはオエッとあいさつをしてくれた。
癒し手のオリガはハエを追い払うように手を振ってくれた。
勇者ソフィアは唇を噛み締め血を流している。
――ソフィア、血を流し過ぎだぞ。
死んじゃうんじゃないか、大丈夫かな。
ははははははは。
 
いつもの挨拶なんだけどね? こいつら人見知りがひどいんだよなー、参っちゃうぜ。
ソフィアが苦虫を噛みつぶしたような顔でオレに話しかけた。

「お前に言いたいことがあって、ね」

ソフィアは話しながら額に青筋を立て、何度も足を組み替えた。

「お前のスキルのことだ」
「オレのスキル【九十九神】の効果がわかったのか!」

ようやくオレもスキルが使えるようになるのか? オレは身を乗り出した。

「ちげえよ! そんな名前だけ偉そうな何の役にも立たないスキルのことじゃねえんだよ!」

ロランが今にも吐きそうに叫ぶ。

「戦士のお前にステータス鑑定魔法をかけていたんだが、うぜえことにレベルだけ高えだろ。
 いままでオレとのレベル差で魔法を跳ね返されて見えなかったんだけどよ。
 この前オレのレベルが上がったからようやくお前にも鑑定魔法が効いたんだよ。
 死ねよ」

なぜ、魔法が効いたら死ねばならないのか。
冗談きついんだよな、ロランは。……ははは。

「それでお前のステータス見たんだけどさ。
 隠しスキルがあってな」
「隠しスキル? おお、そんな珍しいのがあったのか」
「見ろよ!」

ブィン!

ロランがステータス石板に風魔法を付与して、オレの眉間目掛けて全力で放り投げた。

パシィィィ!

オレは右手でキャッチした。
あぶな! 俺じゃなかったら死んでるだろ! 

「チッ、運のいい奴だ」って言ったか?
……さすがに聞き間違いだよな。

それにしてもオレの隠しスキルってなんだろう。
わくわくするな。

「早く見ろよ。見たら死ねよ」

だからなぜ、見たら死ななければならないのか。

「オレのスキルは【九十九神】と……」

オレは目を疑った。

「【ゴキブリ】……」

え。

「【九十九神】の効果は鑑定できなかったんだけどよ。
【ゴキブリ】のほうはしっかり書いてあったぜ。
 読めよ、音読しろよお!」
「オ・ン・ドク! オ・ン・ドク!」

 ロランの悪ふざけに、オリガが悪乗りしている。
 オレは震えながらその文字を読んだ。

「【ゴキブリ】……このスキルの持ち主は、生きているだけで殺したい程人に嫌われる。
 SSS級のレア・ペナルティスキルである。」

なにこれ、ひどい。

ロランたちはこらえきれずに円卓をバンバン叩いて笑い出した。

「ひぎゃーっはっはっは。
 ひっでえSSS級のレアスキルもあったもんだぜ!
 あー、でもオレがお前のこと生理的に嫌いな理由がわかってよかったよ。
 今度の魔王戦の時にこっそり後ろから魔法で焼き殺しちまうかってくらい嫌いだったからよお」

ロランは腹を抱えて大笑いしている。

「なんだか見るだけで病気移されそうで、あなたがいるときは近寄ってませんでしたけど。――理由がわかって良かったですわ。
 まあ、だからといって近寄りませんが」

オリガは汚いものから目を背けるように手を振った。

「チッ……」

ソフィアは聞こえるように舌打ちをする。
オレはなにがなんだか呆然としていた。
生きているだけで人から嫌われるスキル。
そんなものあってたまるか。

 ☆★

こいつら勇者パーティーはみんなオレの幼馴染。
小さな村出身だからお互い子どもの頃から知ってるんだ。

オレ達は冒険者になりたくっていつも木剣を持って遊んでいた。
なんで冒険者になりたいかだって?
それはね、いろんなところへ行けるからだよ! 夜の森、ダンジョン、荒野……。

その頃のオレならそう答えただろう。
故郷の村は、夢見がちなオレ達には狭すぎたのだ。

この国に住む人間が12歳を迎える朝に、特別な技能が授けられることがある。
運よくオレ達はみんな仲良く「勇者」の加護をもらえた。
村の大人たちはみんな喜んでくれたし、オレ達も飛び上がって喜んだ。

オレ達はそれぞれの体の「あざ」を見せ合った。加護は「あざ」として体のどこかに浮かび上がるからね。
戦士であるオレは「剣」、魔法使いロランは「杖」、癒し手オリガは「手」。
そして勇者ソフィアは「光」――

もちろん、みんながみんな思った加護が出るわけじゃない。
ロランやオリガもオレの「剣」のあざを羨んでいたし――オレだって、勇者パーティーの中でも一番のあこがれである、「光」のあざを持つ勇者になりたかった。

でも、あこがれの冒険者、しかも勇者パーティーに選ばれたのだ。

それぞれの職業でオレ達は頑張ることにした。
パーティーのバランスもすごく良かったしね。

仲の良かったオレ達は切磋琢磨してお互いの技を磨きあった。
みんなで仲良く修行して……だんだんオレ以外のみんなはスキルを覚えていった。
「剣技」「神聖魔法」「精霊魔法」といったスキル。

オレは、どうしてかスキルを覚えられなかった。
他のみんなは何個もスキルを持っていたけど、オレのスキルは【九十九神(つくもがみ)】一つだけ。
しかもどんな効果かわからないのだ。

そのせいで人より多く稽古をして、一つでもレベルを上げていたわけだけど……本音を言えば、戦闘用のスキルが欲しかった。
「剣技レベル1」でもあれば戦い方の幅は随分違ってたと思う。

オレはいつもソフィアと剣の練習をしていたんだけど、ソフィアが持っている多彩なスキルを相手にするには同じレベルだと辛いものがあった。
オレは、剣でソフィアには負けるわけにはいかなかった。ソフィアにだけは負けたくなかった。

ひとつでも先へ先へ――。
オレはレベルを上げ続けた。
それはスキルを持ってないオレの意地だったのかもしれない。

そんな喉から手が出るほどにスキルを欲しがっていたオレの隠しスキル――

「ゴキブリ」…このスキルの持ち主は生きているだけで殺したい程人に嫌われる、SSS級のレア・ペナルティスキル。

あんまりだ。あんまりじゃないか。
オレが悲しみに暮れているとき、ロラン達は大笑いしていた。

「ひぎゃーっはっは。
 あー、おかしい。そういえばさあ、助けたコドモがさあ、オレらにウンコ投げてきたときあったじゃん。」
「あー、勇者パーティーにウンコお投げになるなんてひどいお子さんもいるもんだって思いましたけど。
 あのウンコはあなたにぶつけられたものだったのですね」

覚えている。
街道沿いの町が魔物に襲われたとき、オレ達のパーティーで体を張って討伐したときだ。みんな勝利に沸いたけど、あの子だけはウンコを投げてきた。
精いっぱいの力を込めて。

オレは頭が真っ白になった。

今まで――オレが外でご飯食べに行くと、みんな嫌そうに我先に店から出て行ったのも。魔物に襲われたところを助けた少女に、ツバをかけられたことも。
勇者と魔法使いと癒し手が前に3人で座って、後ろにオレっていう馬車の座席配置も。

全部全部、オレが殺したい程嫌われていたからだっていうのか!
この『ゴキブリ』というスキルのために……

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

オレは慟哭した。
ホントは気付いていたんだ。
オレは嫌われているんじゃないかって。
必死で気付かないふりをしていたけど、もう認めるしかない。

そうだ、イザベラ。
オレの婚約者のイザベラなら、オレをわかってくれるはずだ! 
オレは、イザベラに会いたくなった。
意地の悪そうな悪役令嬢にしか見えない、オレの婚約者イザベラ。

彼女はキツい見た目をしていて、そのせいで意地が悪そうに見られるのを気にしているだけの、優しい女の人なんだ。
だから、イザベラ。君さえいれば……

オレはふらふらと、婚約者であるイザベラに居場所を求めた。
たとえ他の人に嫌われても、キミと一緒なら……

「どこに行くんだ。まだ話は終わっていない」

ソフィアの呼び声を無視し、ふらつく足取りで部屋から出ようとする。

「おい、どこにいくんだ?」
「イザベラ……」

オレはうなされたように婚約者の名を呼んだ。

「感謝しろよ、オレが呼んでおいたぜ。
感謝して死ねよ。」

ロランが扉を開けると、イザベラが現れた。
オレはすがるようにイザベラに手を伸ばす。

「イ、イザベラ……」
「さ、触らないで!」

イザベラがオレの手を払いのける。
どうしてだ、イザベラ。

「あなたに触られるくらいなら腐った死体に抱きしめられた方がマシよ!」

おいおい、さすがにひどくないか……。

「なぜだ、じゃあなぜ婚約なんか……」
「金よ。
 シンプルに金が欲しかったのよ。
 魔王討伐の報奨金がね!」

うおおおおおおおおおおおおおお!!!!

オレは崩れ落ち叫びを上げた。

「それにあなたの目には私なんて映ってなかったじゃない」
「どういうことだ?」
「あら、とぼけるの。
 あなたが本当に好きな人は……」
「あああああああああああああ!」

イザベラの口をふさぐように真横スレスレを特大の火球が飛んでいく。

「キャッ」

火球を避けるため転びそうになったイザベラをソフィアが支えた。
オレは顔面目掛けて迫ってくる火球を首だけ動かして躱す。
火球は城の床に落ちてくすぶり続けた。

「避けてんじゃねえよ。
 イザベラにも捨てられたお前に生きる価値なんてねえだろ。
 骨は拾ってやるから、死ねよ。
 まあ、拾ったあと塵一つ残らず燃やし尽くしてやるけどな」

ロランの口癖だった「死ねよ」。
ははは、まったくもって冗談じゃなかったんだな……
ロランは再び攻撃呪文の詠唱を始めた。

「……ロラン下がれ。
 パーティーのリーダーは私だ。
 私が決める」

勇者ソフィアはロランを剣で制し、呪文の詠唱をやめさせた。

ソフィアはへたり込んだオレに対し、鼻先に剣を突き付けた。

「お前に一騎討ちを申し込む。
 賭けるものは、お互いの首だ」

オレはソフィアにすがるような目を向けるが、ソフィアはじっとオレを睨んだまま剣先一つ動かさなかった。

「なぜだ。
 オレ達は仲間じゃないか、なあ」
「……」

オレはロランやオリガの方を振り返るが、誰も口を開かず、火球の残り火がくすぶり続ける音だけが広間に響き渡った。
ソフィアは剣を構え、じっとオレを見つめていた。

「なあ、なんで何も答えてくれないんだよ!
 オレ達、仲間じゃないか。
 ずっとふるさとの村から一緒に旅をしてきたんだよな。
 なあ、何とか言えよ!」

ソフィアはオレの問いに答えず、低く抑えた声で言った。

「……構えろ」

オレが強さを求めたのは、お前らのためだったのに――

「構えないなら、こちらからいくぞ。
 お前のクビをよこせえええ!」

ソフィアが一瞬で距離を詰めてくる。
突きを体裁きで躱し、鞘の入ったままの剣で勇者の頭部を叩こうとした。
だが、叩こうとした手を籠手で跳ね上げられ、力の限り手首を手で締め上げられる。

「剣を抜け、馬鹿にしてるのか!」
「……痛えよ」
「お前が私の力で締めたぐらいで効くものかッ!
 ……これくらいでおまえがどうにかなるものか……」

勇者は力を込め、精いっぱいの力でオレの腹目掛けて蹴りを放った。
オレは蹴りをもう片方の手で受けると、力任せに振り払い、ソフィアを跳ね飛ばした。
ソフィアは壁に激突し、壁の石材が飛び散った 。

「ぐぅぅぅぅぅ」

ソフィアは拳を地面に勢いよく突き立て、立ち上がった。
オリガは傷ついたソフィアに治癒魔法を唱えようと手をかざす。

「オリガ、手を出すな。
これは、私の戦いなんだ」

ソフィアは治癒魔法を止めさせ、気合いを込めて立ち上がった。

「剣技だけではやはり勝てないな。
 残念だが」

勇者は大剣を上段で振りかぶり、力を溜めている。
その技は、魔王対策にオレと練習していた技だ。
魔力を練り込んだ斬撃技だ。

「剣を抜け。お前でも直撃したらただでは済まない」

バチバチとソフィアの体に魔力が蓄えられていくのが見える。
魔王をしとめる技が完成したと、二人で喜び合ったと思っていた。
あれはウソだったのか? オレはしぶしぶ剣を構えた。

オレの愛用の鋼の剣ではソフィアが持っている聖剣にぶつけて防御することなど出来ない。
勝つためには先制して攻撃を当てるか、完全回避するしかないんだ。

オレとソフィアは互いの仕掛ける隙を探っていた。
オレが浅く息を吸ったタイミングをソフィアは見逃さなかった。

ソフィアは魔力を溜めた右腕で剣を担ぎ、左腕で精霊魔法を発動、オレを目掛けて雷撃を放った。
両手での魔力操作、かつ雷撃という高度な呪文を詠唱もせずに使いこなしている。

ソフィア。お前、本当に強くなったんだな。
ソフィアは雷撃を避けさせ、オレの立ち位置を制限した。

発動に時間のかかる大技を当てるための準備だ。

「はああああああ!」

ソフィアはオレの周りへ再度雷撃を放ち、立ち位置を誘導し、上空高く飛び上がった。

その攻撃に立ち向かおうとしたとき、――魔法使いが土魔法を唱えてオレの足を固め、癒し手が足へ脱力魔法をかけた。

大地走る蛇グランドヴァイパー!】
睨まれた蛙フリージングフロッグ!】

両魔法により下半身の自由を奪われ、その場で斬撃を受けざるを得なくなったオレに、勇者は力いっぱい魔力を込めた斬撃をぶち込む。

上空のソフィアから流れた涙が、ぽたぽたとオレの顔に落ちた。
ソフィア、お前は何故泣いてるんだ。

呆然としたオレは構えた剣を落とし、上空を見上げた。

ソフィアの斬撃が迫ってくる。
オレは抵抗することもなくまともに斬撃を食らった。
あたりは大爆発を起こしオレは体を上空に打ち上げられ、地面にたたきつけられた。

「ガハッ」

口から血を吐き出す。
……オレの胸には大穴が開いているようだ。

「形だけの礼を伝えておく。
 今まで世話になった。
 追放だ、ユーリ」

にじむ視界の中で勇者の声が聞こえて――オレは意識を失った。

しばらく後、オレは目を覚ました。
なぜか一命はとりとめたようで、胸の大穴も塞がっていた。

あれだけの攻撃を食らってなぜ……
みなは広間から出ていったようだ。

失った。仕事も、仲間も、婚約者も――何もかも。

いや、もともとなにも持っていなかったんだ。オレが持っていたと、思い込んでいただけだったんだ。
全部全部マボロシだ。
 ……オレには何もない。
どこで何をすればいいんだ。

ふらふらとした足取りで部屋に戻った。
部屋に戻っても、心にぽっかり空いた穴は埋まることは無かった。

もう相棒の鋼の剣を持って戦うこともないのか。
せめてキレイにしてあげよう。
剣を拭き清め、聖水をかけてやる。
勇者が持ってる聖剣みたいな伝説級武器でなくても、オレの相棒はお前だったよ。
ありがとうな。
今まで相棒と過ごした戦いの日々を思い出した。

あれ、前が見えない。
なんだよ、雨でも降ってんのか。
ハハハ、城の中だな。
そんなわけないか。……くそぉ……。

大粒の涙がとめどなく流れ落ちて剣を濡らした。

――泣かないで、ユーリ。

ん?……女の子の声がする。聞き覚えのない声だな。
でも、どこか懐かしい。

――何で泣いてるの? 寂しいの?

……別に寂しいわけじゃない。

――ウソだ。ユーリ、心がそう言ってるよ。

別に大したことじゃない。
少し人恋しいだけだ。
幻覚でも何でも、君と話せてよかった。

――ヒトに会いたいんだね、ユーリ。好かれなくても、疎まれても、だれもあなたを愛してくれなくても。

でも、それでも。
たとえ一生そうだとしても、傷つくだけだとしても。
誰かに一緒にいて欲しい。
……一人は寂しいよ。

――私が一緒にいるよ、愛してあげる。

抱えていた鋼の剣が光を放ち、グニャグニャとらせんを描きながら人の体をかたちどっていく。
ヒト型となった少女は、オレを見て微笑んでいた。

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