#03 フォントのはなし「DIN」編
こんにちは。グラフィックデザイナーの安村シンです。
今回は、日本人なら絶対に見たことがある!と言い切れるくらい大人気の欧文書体である、「DIN」というフォントを紹介します。
1.DINの特徴 - 直線的
DINの特徴のひとつは、「直線的なパーツ」です。
それを繋ぐ曲線も、機械的に結んだような幾何学的な形状をしています。
(うーん うつくしいですね!)
文字の特徴を知るのには、比較をするのが一番です。
ここで、もう1つの大人気な書体「Helvetica」と比較して、違いを探ってみます。
(↑どちらもいい書体です)
Helveticaは、ニンテンドーのゲームでいえば「スーパーマリオ」みたいな、王道中の王道と言えるフォントです。
どこが違うのか、特徴を解説します。
「R」の形状を比べると分かりやすいのですが、
DINの「R」は足が直線的に伸びていて、一方のHelveticaはすこしクニャッと曲がりつつ地面に着地しています。左の方が機械的な印象、右のほうがすこし有機的で、生き物っぽさを感じますね。
「D」や「O」の形状でも、DINでは垂直な線がところどころに現れています。
このように「直線的」な形状が、DINの特徴の1つです。
2.DINの特徴 - 省スペース
また、直線的でカーブが少ないこと、ややコンデンスぎみ(横に潰したような形)のため文字の横幅が狭いことも特徴です。
(↑Helveticaと並べてみました。C・D・Gを比べると、DINはスマートです。)
DINはスマートなため横幅を節約できます。同じ面積のなかでものびのびと大きく表示でき、もっと実務的に言えば視認性が高いと言えます。
これは作り手にとって案外ばかにできないメリットで、多くのデザインは面積との戦いとなる中で、DINは非常に有利になるのです。
限られた面積のなかで伝えたい情報にインパクトを持たせつつ、余白も作りたい。そんな贅沢な悩みを解決してくれるのが「DIN」というフォントなのです。
3.ドイツで生まれた書体
DINは、1930年代にドイツの工業製品の型番表記などに使うために生まれました。
Deutsche Industrie Normen(ドイツ工業規格)の略で、DIN。
ドイツでは道路標識や、なんとマンホールなどにも使われているとのこと。
(↑ドイツのマンホール。画像はAdobe Stockより)
そんな、今から九十年近く昔に生まれたDINですが、1990年代に再注目されたのをきっかけに多くのフォントメーカーにより「リメイク」され、今日の流行へと繋がりました。
4.ユニクロでもオリンピックでも使用
DINはドイツ発祥のフォントですが、ヨーロッパはもちろんのこと日本でも広く使われています。
有名なところでは、衣料品ブランド「ユニクロ」でも使われています。
日本語版のロゴはオリジナルで作られたものと思われますが、欧文は「DIN」をベースに作られています。
日本を代表するアートディレクター佐藤可士和さんがリニューアルを手がけた「ユニクロ」は、ブランドロゴはもちろん、ポスターや各商品のロゴでも「DIN」をベースにしたオリジナルフォントが使われています。
(ヒートテックも「DIN」ベース)
また、他での使用例といえば、東京オリンピックのロゴタイプで使われたことでも有名です。
(↑こちらは野老朝雄(ところあさお)さんによるロゴデザイン。)
逆に言えば、「DIN」を手に入れて「TOKYO 2020」と入力すれば、限りなくオリンピック感のある文字を作るできるようになります(ただし怒られます)
このように、使用例を探し始めたら枚挙に糸間がないほど人気書体のDIN。いったいどこで手に入るのでしょうか。
5.「DIN」の入手方法
DINは工業規格として生まれ、多くのフォントメーカーにより派生系が生まています。そのため「DIN」という名前を冠する書体はたくさん存在します。
なんとAdobe Fontsの中だけでもDINが2種類存在します。
「DIN 2014」と「URW DIN」です。
(ほとんど同じやんけ…というクレームは受け付けません)
比較してみると、DIN 2014は「8」や「9」の形などがよりマルに近く、幾何学的な印象があり、私の個人的な好みに近いです。
(微差だけど左の方が好きです)
番外編.日本生まれのDIN
ここまで紹介してきたDINですが、なんと日本人により制作されたものもあります。
日本の欧文書体デザイナーとして伝説的な存在である小林 章さんによる「DIN Next」がそれです。
(1文字ずつ見比べないと、先例との違いが判別できないレベル)
この形状は、Adobe Fontsで言えば「DIN 2014」のほうに近いですね。
「8」や「9」の例のように、円に近い形状があちこちに盛り込まれています。
私が着目しているのは、DIN Nextには Rounded(丸ゴシック体)もあるというところです!
(↑DIN Next Rounded)
まるっこい書体は、全体的に作られている数が少なく、いい書体を選ぶのにいつも苦戦します。
でも人気書体「DIN」の丸文字があったら、どれだけ心強いか…!
いつかポチりたいものです。
番外編2.「DIN」のファンブックまである
DIN人気はフォントメーカーの間におさまらず
なんと「I LOVE DIN」という、DINへの愛で埋め尽くされた本まで存在するようです。
(↑I LOVE DINの表紙)
マニアック度が上がってきました!
中身がとても気になるところですが、こちらの本は持っていないので詳細は紹介できず・・・またの機会に!
おわりに
以上、大人気フォント「DIN」の紹介でした。
ちょっと細長い英語の文字を見かけたら、「これはDINだね?」と言えば
半分くらいの確率で当たるような(偏見)世の中です。
みなさんもぜひ、身の回りで使われている例がないか探してみてくださいね!
そして、デザインで欧文を使う際には、ぜひ一度「DIN」を試してみてください。
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