#09 オフセット印刷と、特色インキのはなし
こんにちは。グラフィックデザイナーの安村シンです。
今日は印刷の基本「オフセット印刷」と、
その応用「特色」についてを、いちデザイナーの視点から紹介します。
ちょっとだけディープな、デザインと印刷の世界。
ぜひ楽しんで行ってくださいね。
1.基本はCMYK
一般的な印刷方法である「オフセット印刷」は、
基本的にあらゆる情報を4つのインキで再現します。
いわゆる「CMYK」。
つまりシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色です。
写真やデザインを、この4色に分けて1つ1つ「版」をつくり、その版にインキをのせて印刷します。インキが混ざりあうことで印刷物はカラフルに見えるのです。
(↑画像はイメージです)
ですが、このオフセット印刷はグラデーションをつくることができません。
濃度100%か0%しかない世界なのです。グラデーションを擬似的に再現するために、ちいさなツブツブの大小で濃い・薄いを生み出しています。
(↑画像はイメージです。こんなふうに点々に分かれています)
2.特色インキ「DICとPANTONE」
この「CMYK」の掛け合わせで表現できることには、じつは限界があります。
インクを混ぜても表現できないメタリックや蛍光色、またパステルカラーを全面に鮮やかに印刷したい時などは、CMYKでは難しかったりします。
そこで登場するのが「特色インキ」。
表現したい部分に「特色インキ」を使うことで
デザイナーの意図した通りの色味を再現することが可能になります。
「DIC」や「PANTONE」はそんな時に活躍するアイテムです。
特色を選ぶにあたり、その色味に認識のズレがあっては一大事です。
ディスプレイによって色の見え方は違いますが、印刷所やクライアントへ「こんな色で印刷したい」と色のイメージを伝える必要があります。
そんあとき、「DIC」や「PANTONE」などの番号を指定することで、より正確に思い通りの色を伝えることができます。
(↑DICとPANTONEのカラーガイド。思ったより高価格だよ!)
「PANTONE」といえば、ガラケー時代にソフトバンクから発売された、カラフルなケータイシリーズの名称にも使われていましたね。
PANTONEは密かにデザイナーの間でファンの多いブランドでもあったりします。
3.うつくしい発色の「100%ベタ」とは
先ほど紹介した「オフセット印刷」。
刷られたものの表面を、高倍率のスコープで見てみると、丸のツブツブが見えてきます。
(↑こんなスコープで覗くと、印刷の具合が見れます)
(↑こんなふうに!)
このツブツブを出てこなくする方法は、それぞれのインキの適用面積が0%になるか、100%になるかのどちらか、ということになります。
(↑画像はイメージです!)
C100のときはベタ面になるので、とてもキレイですね。
遠くで見たときも、発色がよくなります。
完璧にキレイなベタ面ができるのはインキが100%と0%だけのときなのですが、
先ほどの「特色インキ」を使えば、それ以外の色でも100%のベタ面を作ることができます。
(特色オレンジで印刷されてるらしき書籍。『なっちゃんの秘密』おすすめです)
極端にいうと例えば「マゼンタ15%」と、特色のピンクを比較してみると、こんなイメージになります。
(↑画像はイメージです。)
マゼンタ15%を印刷すると、粒はポツリポツリと間隔をあけて印刷されることになります。
そのせいか、印刷の仕上がりをみるとなんだか冴えない色だなぁと感じてしまうかもしれません。画面だときれいだったのに。
もっとはっきりした印刷にしたい!と思って粒の量を増やすと、こんどは色が濃くなってしまいます。
(↑濃くじゃない。はっきりさせたいだけなんだ・・・)
こんなとき、特色を使えば、もやっとした印刷をパキッとさせることが可能となるのです!
(↑パキッとしました!)
たとえば全面をうすピンクにした名刺、パッケージを作りたい時など
CMYKでの再現より「特色」を使えば、手に取った人が「ハッとする」ような美しいものを作ることが可能なケースも、実際に存在します。
おまけ.色数でコスト削減した例
さて、ここまでクオリティをあげるために使われた特色ですが
逆の方向で、コスト削減・節約に使われた例も紹介します。
そもそも特色は、CMYKを用いない2色・3色印刷などでもよく使われます。
CMYKは4色それぞれに「版」をつくって4版を印刷することになりますが
仮にデザインが黒とオレンジだけならば、黒・オレンジの2版で済むこともあります。
(↑半分で済むかも)
これを使って大成功したのが、タバコのパッケージ「ラッキーストライク」です。
■ ラッキーストライクの経済史
ラッキーストライクといえば、白い箱に赤丸がポンと印刷されたデザインで有名です。
(↑wikipediaより)
ところがこのパッケージ。
1942年までは、白ではなく緑のデザインだったそうです。
(↑こんな緑だった)
アメリカ合衆国で1940年に開発された、この緑に赤丸のデザイン。
アメリカは翌年に太平洋戦争へと突入し、物価が上昇してしまいました。
あらゆるものの価格が上がっていくなかで、多くのタバコも値上げを余儀なくされます。
そこで彼らがなにをしたかというと、「緑色のインキをやめた」のです。
1色抜くことでインク代を節約した彼らは、他のタバコ会社が軒並み値上げするなかで値段を据え置きにすることに成功し、大人気を得たとのことです。
wikipediaにも載っているこの話。
諸説あり、都市伝説によると「日の丸デザインにして、日本に勝利した」ということを示す、という説も有名なようです。それはそれで怖い。
つづく
さて、駆け足で話してきた「オフセットと特色」の話。
現代でも、特色を使うことでコストが下がる場面は存在しますし、クオリティを上げるためにも活躍します。
覚えておいてソンなし!な特色インキは
まだまだ奥が深く、伝えたいことが沢山ありますので
また同じテーマで続きを書ければと思っています。
(次回は、蛍光インキやメタリックインキあたりを扱う予定です。)
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