日本に「目利き」の力を取り戻す

経済力の低下する日本で、なんとか力を保つ方法はないか。一つのヒントは「目利き」にあるように思う。
オランダは、世界一のカカオパウダー(チョコの原料)の輸出国。しかしオランダは寒い国。とてもカカオが育つ国ではない。実はカカオ豆の世界一の輸入国でもある。アフリカなどから大量に輸入。

これ、不思議に思われないだろうか。アフリカのカカオ輸出国が、オランダをすっ飛ばしてベルギーなどのチョコで有名な国に売り込んだら「中抜き」ができ、オランダに余計な手数料を取られずに丸儲けができるのに。なぜそれをせずにオランダにみんな輸出してしまうのか?

恐らく、オランダには「目利き」の機能があるからだろう。アフリカから輸出されるカカオが、果たしてどんなチョコを作れるカカオパウダーになるかは、よほど経験を積まないとわからないだろう。あるいは、カカオパウダーも適度にブレンドしないと思い通りの口溶けのチョコにはならないのだろう。

ベルギーなどのチョコメーカーから「口溶けのよいチョコができるカカオパウダーがほしい」という要望があればサッとそれに応えられる。ハードなチョコを、と聞かれればそれに合わせたカカオパウダーを提供できる。そうした「目利き」ができるから、チョコメーカーはオランダから買い付けるのだろう。

他方、アフリカのカカオ産出国は、自分たちのカカオがどんなチョコに合うのかわからない。ヨーロッパにまで営業かけようとしても、自分のところのカカオが顧客の要望に合うものかわからない。カカオパウダーをどうやって作るのかもわからないなら、かえって営業の手間、品質管理費がかさむ。

それよりは、オランダに持っていけばカカオを全量買い取ってくれる。カカオパウダーに変えて、顧客を見つけてくれる。なら、オランダに持っていった方がお得、というのがあるから、アフリカのカカオ産出国も、オランダにみんな輸出してしまうのだろう。

オランダのカカオパウダーのメーカーは恐らく、アフリカのカカオ産出国が営業や品質管理のコストを考えるとオランダに頼んだほうが安い、という手数料収入に抑えているのだろう。ベルギーなどのチョコメーカーがはるばるアフリカまでカカオを求めに行くのがバカバカしい価格に抑えているのだろう。

カカオ産出国も全量買い取ってもらえてメリットがあり、チョコメーカーは自分たちで探さなくても適切なカカオパウダーを教えてもらえるというメリットがある。オランダは、上流下流の双方にメリットのある役回り、「目利き」をすることでカカオの流れを自国に引き込めたのだろう。

日本にも似た事例がある。下関のフグ。愛知県にはフグの産地があるけれど、漁師の方によると獲れたフグは下関に持っていってしまうという。愛知県にもフグの料亭があるのに、そっちに直接売った方がいいのでは?と聞くと「下関に持っていった方が高く売れる」のだという。

下関にはフグの「目利き」の機能があり、「このフグならあの料亭にちょうどよい」と判断できるから、高く買ってくれそうなお客さんを見つけてもらえるらしい。いきなり漁師が料亭に直接営業仕掛けても、品質は保たれるのか、途中の管理は大丈夫なのか、何より安定出荷してもらえるのか、不安。

そうしたことを考えると、下関に出荷したほうがフグ漁師はフグを全量買い取ってもらえるし、しかもそこそこの値段で買い取ってもらえる。料亭は下関から仕入れるなら安定した出荷をしてもらえ、品質管理も申し分ない。だから下関にフグは集まり、全国に出ていくのだろう。

日本経済を強くするのに、この「目利き」の機能を意識することは大切だろう。考えてみれば、アマゾンなどのプラットフォームも、一種の「目利き」が効いてると思うから購入するのだろう。しかしアマゾンの場合、たまに変なのに出会うことがある。

モノタロウは大工道具や事務用品に特化し、品質に問題のないラインナップにすることで顧客の信頼を得、伸びてきているのだろう。これも一種の「目利き」。目利きは、メーカーと顧客の信頼を取り結ぶ重要な機能だと言える。

これを国際的に行えれば、日本に原材料が届き、海外に信頼して買ってもらえる物作りが可能になる。「目利き」を意識した物作り、あるいは販売網の構築をすることが、世界の物流に日本が位置づけられるのに重要だと思われる。

職場が開発した豆の品種を、京都の和菓子専門店に使ってもらおうと、京都に営業しかけるのに同行させてもらったことがある。そしたらどこも「豆の問屋に相談してくれ」の一点張り。どうやら京都の和菓子店の問屋に対する信頼は大変厚く、問屋を通さずに豆を買うことはないのだという。

問屋は、農家が一定の品質の豆を作ってくれたら妥当な価格で買い取り、その豆に合うと思われる和菓子メーカーに卸すという「目利き」をしっかり行っていることがよく分かった。京都というブランドがなせ世界に通じるのかがわかった気がする。「目利き」をしっかり利かせているからだろう。

日本はこのところ、安くすることにばかり血道を上げてきた。しかしそれでは生産者やメーカーも疲弊するし、小売店も他社より安く、で、いつまでたっても誰も幸せになれない。ただ全員が、わずかな利益を追い求めて疲弊するだけ。

卸機能を排除し、「中抜き」ばかりしたことが、目利き機能を衰えさせたのかもしれない。それよりは「目利き」を再評価し、頑張る生産者には価格で報い、小売店も自信を持って品質で勝負する商品を妥当な価格で売ることが必要。そのためには、「目利き」機能の復活が重要であるように思う。

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