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【道元と宇宙】7 二つの人類誕生

クラシーズ河という小川の河口出口から、
海岸線を東に500mほど行ったところに、
1号と2号の洞窟がある。
ここがユネスコ世界遺産に登録準備中で、
メインサイトと呼ばれている。

1号洞窟は、海抜8mで、海に近く、
大きな波がやってきたら、
波しぶきがかかってきそう。
向かいはインド洋と大西洋が交わる、
波の荒い海域だ。

中はあまり広くなく、
家族で住んでいたとは思えない。
しかし、ここで発掘が行われた時、
発達した頤(おとがい)の化石が出土した。
これは、母音を獲得した人類の最古の化石である。 

2号洞窟は、1号洞窟の右上の、
海抜20mのところにあるが、
大きな蜂が出入りしていたので、
近づけなかった。

 これらの洞窟をみて、僕はガッカリした。
ここでは静かに住めない。
ヒトは、快適な洞窟暮らしによって、
毛皮が薄くなり、裸化したという
僕の洞窟進化仮説の裏づけにならない。

洞窟を案内してくれたコビュスは、
ガッカリした僕をみて、
「ここから10分くらい海岸線を歩くと、
もうひとつ洞窟がある。
見たいか?」と聞いてきた。

 「もちろん」と答えた僕を従えて、
コビュスは海岸線を東に6~7分歩いた。
「中学生のときに来て以来だから、
20年ぶり。たどりつけるかな」
そういいながらも、
目的とする洞窟の近くになると、
海岸の断崖にそって、
斜面を登って行った。
第3号洞窟も、海抜20mにある。
海水位が今より20m高かった時期があったのだ。 

3号洞窟は、体育館のように広々としていて
天井も高かった。
真ん中のあたりの少しくぼんだところに、
石が並んでいた。
当時すでにヒトは火を使っていたので、
炉の可能性は高い。

振り返って入口をみると、
夕陽が沈んだ後で、空が白く見えた。
おそらく夕焼けもきれいに見えるだろう。

正面の壁は緑色の苔で覆われている。
向かって左の壁際には
たくさんの石筍が並んでいて、
きれいだった。

そこから左奥に廊下が延々と続いている。
懐中電灯をたよりに途中まで歩いてみた。 

この日は一時間ほどの滞在だったが、
洞窟の内部も、洞窟から外をみた景色も、
とても美しく、
「ここが言語の原点だとすれば、
きっと言語も人間も善なる存在だ」
と思った。

 しかし、人類が6万6千年前に言語を獲得した
クラシーズ河口洞窟で体験したことを誰かに伝えたくても
初期人類の化石がみつかったスタークフォンテン洞窟が、
「人類のゆりかご」と名乗っているものだから、
なかなか受け入れてもらえない。 

「南アで最古の現生人類洞窟に行ってきました」
「知ってる、知ってる、スタークフォンテン洞窟でしょ」
「いえ、それは初期人類の洞窟で、
300万年前の化石が出土した、
雨水が地中深く穿って生まれたドロマイト石灰岩層の洞窟です。
その化石は、そこに住んでいたわけではなく、
穴の底に落ちたか、落とされたものなのです。」

 ここでひと休みしてから、
「僕が訪れたのは、それとは別の、
インド洋に面した、砂岩層の段丘の、
石英を海の波が溶かして生まれた、
クラシーズ河口洞窟です。
7万年前にヒトが母音を獲得した、
最古の現生人類遺跡です」

 と、説明しても、
「この人、何をややこしいこと言ってるの??
化石は化石、300万年前と7万年前で、どれだけ違うの?
人類はひとつでしょ」といった顔をされたこともある。

スタークフォンテンという名前を
ようやく覚えたばかりなのに、
どうしてもう一つ、
洞窟の名前を覚えなくてはならないの?
と思ったのかもしれない。

 人類学や進化学を学んでいる学者たちも、
まったくクラシーズ河口洞窟に興味を示さないのは、
どうしてなのか。不思議である。 

300万年前と7万年前は、40倍も違うのだが、
人生100年の庶民からみれば、どちらも「すごく古い」
ということになるのか。

 人類の誕生は二つある。
直立二足歩行を始めた初期人類と、
言語を獲得した現生人類は、
それぞれ別の人類であり、
どちらも南アフリカで生まれたということを、
共通認識としてもつことをおすすめする。

 (写真はクラシーズ河口洞窟付近の海岸。ここを第3号洞窟まで歩いた)


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【道元と宇宙】お話し会 日本縦断!!

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≪白山≫ 2023年7月22日(土)15時~ 白山麓・僻村塾 

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