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【左脳めし】勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。

タイトルの言葉は、江戸時代の大名で、心形刀流剣術の達人でもあった松浦清(1760年 - 1841年)が残した言葉です。
松浦清の名よりも、雅号(文人・画家・書家などが、本名以外につける風雅な名のこと)の「静山」を使った「松浦静山」という呼び名の方が知られています。

静山は19歳で肥前国平戸藩の第9代藩主になりました。
肥前国の場所は、今の佐賀県・長崎県あたりです。

心形刀流の印可(精進した弟子に師が力量の証明を与えること)を受けたのは26歳のとき。その後、27歳の若さで隠居。以後は武芸と学問の精進を続け、278巻に及ぶ随筆集『甲子夜話』を残します。

心形刀流の心技を解説した剣術書は『剣攷』と『常静止剣談』の2つ。
「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」の言葉は後者の『剣談』に記されています。

さすがに『常静止剣談』の入手は困難ですが、剣談を含む著名な兵法書・剣術書から名言を抜粋・紹介した書籍「武道秘伝書」は現在も入手可能。
今回紹介した言葉の原文、訳、解説を読むことができます。

【引用:吉田豊 編「武道秘伝書」】

《原文》
予曰く。勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。
問、 如何なれば不思議の勝ちと云う。 
曰く、 遵道守術ときは其心必不勇と雖ども得勝。是心を顧みるときは則不思議とす。故に曰ふ。
又問、 如何なれば不思議の負けなしと云ふ。
曰、 背道違術、然るときは其負無疑、故に云爾客乃伏す。

《訳》
予が言った。「勝つときには不思議な勝ということがある。しかし負けるときには不思議な負けということはない」
客が問う。「なぜ、不思議な勝と言われるのでしょうか」
予が答える。「法則に従い、技術を守ってたたかえば、たとえ気力が充実しておらずとも勝利を得ることができる。このときの自分の心をふりかえれば、不思議と思わずにはいられないからである」
また問う。「では、なぜ不思議の負はないと言われるのでしょうか」
予はまた答えた。「法則を無視し、技術を誤れば、負けることに間違いない。それだからこのように言うのである」と。
客は平伏した。

ちなみに『常静止剣談』の名は、文学者の吉丸一昌が大正4年に『武術双書』を編む際、無題の古写本に仮に名づけたもの。「武道秘伝書」の編者、吉田豊さんは、当時「常静止」が松浦静山であることが知られていなかったとみています。
(「常○止」は、心形刀流の後継者に与えられる号です)

吉田豊さんは、静山の言葉を次の様に解説していました。

「勝負の世界には、とかく非科学的な精神力万能主義が入り込みやすい。静山のことばはこうした傾向に対する頂門の一針となろう」

※頂門の一針:《頭の上に1本の針を刺す意から》人の急所をついて強く戒めること。【デジタル大辞泉】

松浦静山の言葉が現代でも親しまれているのは

ビジネスパーソンの間では、『孫子』や『五輪書』といった兵法書から、著者の思想・哲学などを学び、ビジネス戦略に応用したり、ロジカル思考の鍛錬に生かすことがあります。「勝負の世界」という点で、通じるものがあるからでしょう。

今回紹介した松浦静山の言葉も、ビジネスの現場で注目される言葉の1つです。

勝利を得たいなら、気力に左右されないほどの技術を身につける(だけの学びや努力を常日頃から続けておく)
想定外の失敗をしても、運が悪かったで済ませず、原因を追求する(ことで失敗を繰り返さないようにする)

静山の言葉からは、そんなメッセージが伝わっってきます。

クリエイターの仕事は、ビジネス上の勝負だけで語れるものではありません。
ビジネス上の勝ち方や失敗の避け方を学んでも、優れた作品が作れるとは限らないからです。

しかし、個性とか感性を言い訳にして学びや努力を怠ったり、上手くいかなかったことを運のせいで済ませないよう、静山のこの言葉を心に留めておく必要はあるでしょう。

勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。

『武道秘伝書』では、松浦静山を含む6名の名言を紹介しています。

「兵法家伝書」柳生新陰流 柳生但馬守宗矩
「不動智神妙録」沢庵禅師
「一刀斎先生剣法書」唯心一刀流 古藤田弥兵衛俊定
「五輪書」二天一流 宮本武蔵
「常静子剣談」心形刀流 松浦静山
「天狗芸術論」丹波十郎左衛門忠明 佚斎樗山子

機会があったら、他の名言も紹介していきますね。

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