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ピアノを拭く人 [長編小説] (完結)

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彩子が出会った素敵なピアノを奏でる男性は、些細なことが気になって居ても立ってもいられなくなる病に悩まされていた。
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#認知行動療法

ピアノを拭く人 第1章 (13)

   彩子は、バッグを肩にかけ、登録会の資料を入れた段ボール箱を車からおろした。今にも掴…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章 (3)

 彩子は、ソファに腰を下ろし、心理士が患者を迎えにきて、それぞれの部屋に案内する様子を眺…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章 (7)

 エアコンが温風を送り出す音と、冷蔵庫の低くうなる音が、夜の静寂に溶けていく。  彩子は…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章 (8)

To  Saiko MIZUSAWA From Toru Yoshii Title 歌・ピアノ トオル 彩子へ  忙しいのに…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章 (9)

To Saiko MIZUSAWA From Toru Yoshii Title 印象深かったエクスポージャー 彩子へ  ここ…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章(10)

To  Saiko MIZUSAWA From Toru Yoshii Title 最後のエクスポージャー 彩子へ  ようやく…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (3)

   閉店後、透はマスクの中で「僕こそ音楽」を口ずさみながら、クロスに鍵盤用クリーナーを垂らし、鍵盤を1つ1つ丁寧に拭き始めた。  彩子の視線を意識してか、透は「この後、乾拭きするだけだから」と決まり悪そうに言った。彩子は「何も言ってないでしょ」と唇を尖らせながらも、透が以前のように目を吊り上げ、何かに憑かれたように拭いていないことが嬉しかった。  鍵盤を拭き終えた透が、ピアノの椅子をアルコール消毒しようとしたとき、彩子は「それ、必要ないんじゃない?」と口出しした。 「

ピアノを拭く人 第3章 (4)

 彩子は、勤務の終わった透を拾うために、フェルセンの駐車場に車を入れた。木の間にのぞく冴…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (5)

 月は川面に映りそうなほど、煌々と輝いている。彩子は、信号待ちをしながら、買い物を繰り返…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (6)

「何?」  彩子は透の目を見るのが怖く、彼の黒いセーターの胸元に視線を固定して尋ねた。外…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (7)

 彩子はソファから立ち上がり、真っ直ぐバスルームに向かった。  ピンクグレープフルーツの…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (8)

 年の瀬が迫っているが、車は思ったよりスムーズに流れている。新型コロナウイルスの感染者数…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (9)

 桐生のカウンセリング室の『睡蓮』は、今日も優しく2人を迎えてくれる。 「お店でのお客様へ…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第4章 (1)

 遮光カーテンの隙間から、金色のヴェールが差していた。彩子は、エアコンを点けずにベッドから身を起こし、昨夜の名残のある部屋を見回した。昨夜、同期会を終えた後、鈴木とZoomで話した。彼女に、透との関係を反対されると思った。だが、この年齢になって条件を考えずに好きになれる相手は貴重で、頼りにされることに生きがいを感じる彩子に合っているのではと背中を押された。  しんと冷えた空気と、2021年を迎えた清々しさが、次第に心身を覚醒させていく。彩子はカーテンを勢いよく開けて新年の朝