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この夢を何と呼ぼう:月ノ美兎”月の兎はヴァーチュアルの夢をみる”全曲感想

バーチャルライバー月ノ美兎による1stフルアルバム

正直、彼女の活動をきっちりと追っているわけではないのだが、活動初期の時点から、平成サブカルチャーの影響を如実に受けているであろう部分を見せてきたこともあり、なんとなく自分と似た時間軸に生きているのではないかと親近感を持っていた。

この作品もそれに漏れず、90~ゼロ年代J-Popの総決算ともいえる一枚へと仕上がっている。
コンポーザー達が思い思いに作り上げた楽曲群に、月ノ美兎の歌声によって命を吹き込まれたかのようにも聴こえる、何とも特異な一作。

1.月の兎はヴァーチュアルの夢をみる
イントロダクション的な印象を感じるトラック。
ASMR風のタイトルコールや途切れ途切れになる演出は、宇宙からのメッセージを想起させる。
前衛音楽の様相を見せる、柔らかくも不気味サウンドは夢うつつへの導入ということなのだろうか。

2.それゆけ!学級委員長
まさにオープニングテーマと言える一曲。
なんだか平成期の学園アニメにこんな感じのオープニングやってた気がする。
Vtuberではお馴染みの自己紹介ソングで、全曲通してもトップバッターを任せられるのはこの曲しかないだろう。
ポップネス極まる構成の中にバックに控えるクワイア風の豪華なコーラス、唐突に挟まれるナレーション等細かな芸が見え隠れするのがgood。

3.ウラノミト
このアルバムが特異性を現しはじめるシティポップ的ダンスチューン
特に頭を使わないで聴いていると、「月ノ美兎」なんてワードは全く思い浮かばない。
そう、各曲が純粋なポップソングとして完成されているという部分が、この作品の最たる魅力だと思う。月ノ美兎はあくまでも歌唱者なのだ。
一方、曲にフォーカスすると、小気味いいカッティングギターと囁き気味の声色が瀟洒なイメージを生み出している。
普段のカオスな配信スタイルを「表の美兎」とすれば、「ウラノミト」は彼女の生真面目さや淑やかさを表しているかな

4.光る地図
シンガーソングライター長谷川白紙が手がけた、物騒な一曲
初めて聴いたとき、イントロのテンポが全く把握できなかったことを覚えている。
別の人のブログにて、ブレイクビーツと言及されているのを見てようやく理解できた。
強烈なイントロから一転、幻想的なワルツで進んでいく長谷川白紙サウンド全開な展開で、夢の中の世界を歩く、あのフワフワした感覚を現実世界で味わうことができる。
歌詞については、配信者(委員長)と視聴者との繋がりが彼女を作り上げていることを表現しているのだろうか。

5.浮遊感UFO
ドリーミーでシューゲイザーなラブソング
この曲を作った二人は、個人的にも思い入れがある二名なので、ちょっと多めに言及させて頂く。

作詞は筋肉少女帯のボーカルを務め、間違いなく平成サブカルチャーの中核にいたであろう、大槻ケンヂ。
作曲はジャパニーズシューゲイザー・ハードコアの必修科目、COALTER OF THE DEEPERSを率いるNARASAKI。
二人はバンド「特撮」を組んでおり、アニソン界でも名の知れた黄金コンビである。

全体を通してディーパーズっぽい感じが出まくっている。具体的には「RABBIT EP」に収録されてそうなドリームポップ強めな感じ。まさか月ノ美兎と掛けているのだろうか。
サビ・ギターソロではNARASAKI節を存分に味わえるので、ディーパーズファンにもおすすめな曲に仕上がっている。
歌詞が少女の恋物語風で何とも甘酸っぱい。相手を思うあまり、夢に出てきても浮ついたままで…とかいうシナリオを思いついてしまった。

6.みとらじギャラクティカ
急にアホになった。
エレクトロなビートで究極にキャッチーな電波ソングな感じ。洗濯機ネタを拾ってきたりと、まさに配信者としての月ノ美兎を全力で表現している。
コール&レスポンスも組み込まれていたりとライブも意識した構成であり、リスナーとの相互関係で成立するラジオの要素を全面に押し出したような一曲である。

ただ、この曲を聴くとどうしてもあの動画を思い出して笑ってしまうんだ。カオスにも限度ってもんがあるだろ。

7.部屋とジャングル
さっきまでとは一転、ゆったりとした「生活の音楽」と言いたくなる、リラックスできる一曲
「みとらじギャラクティカ」が配信の空気感をイメージしたトラックなら、こっちは日常の空気感ということなのだろうか。
それにしては、女子高生と言うよりOLの生活風景の方が似合う歌詞である。
ところで、この曲のリズムパートがやけに聴き馴染みあるのだが、まさか「Heya To Jungle」で「H Jungle with T」のオマージュでもしているんじゃないだろうな

8.ウエルカムトゥザ現世
やったぁ‼ ジュディマリだ‼
どこをどう取ってもJUDY AND MARY全開なアッパーチューンである。ギターサウンドが絶品という他ない
このアルバムで一番好きな曲はこれかもしれない。
あえて意味をもたせない詞が、ノリと勢いこそがこの曲の本質であると言わんばかりである。
一度聴けば耳に残るキャッチーさといい、まさに平成J-Popそのものみたいな一曲

9.NOWを
実質クローザー的立ち位置を担う曲
月ノ美兎式日本語RAPとも言うべき奇妙な曲である。
まず最初にポエトリーリーディングから入るというところで面食らう。哀愁漂うブルース風味な雰囲気は何故か藤圭子を思い浮かべてしまった。
そこから打って変わってカチカチの日本語ラップがスタート、日本語ラップのパイオニア、いとうせいこう謹製のリリックが見せてくれる。
ファンキーなサビはこのアルバムを聴き通した者たちへの特大のカタルシスとして降り注ぐ。
「今この瞬間の熱」に対する強い愛を示す、極上の目覚めに相応しい大曲

10.Moon!!(Avec Avec Moonlight Power Pop Re-Arrange)
元々、ファンが勝手にイメージソングとして制作したというバックグラウンドがあるのだが、まさかの正式採用となった逸話をもつ一曲
ボーナストラックといったものだろうか。ファンサービスとしてこんなにも最高なものがあるだろうか。
月ノ美兎は、リスナーの思いすらも取り込んで作り上げられるのだと示すかのよう

全10曲とコンパクトながら、濃密な一枚に仕上がった一作。
本人の蓄積も相まって、平成サブカルチャー・J-Popの総決算というに相応しいものである。

アルバム名のとおり、Vtuberという存在は身も蓋もない言い方をしてしまうと、絵空事であり、気づいたら夢うつつに消えてしまう脆い存在だ。
だが、配信を通して生まれた視聴者たちとの繋がりは彼らの営みの1ページになることで、現実の事象になる。

そう、ヴァーチュアルの夢は紛れもない現実へと姿を変えるのだ。
このアルバムを聞いて、僕は夢の世界から現実世界への希望を歌っているのだと感じた。
この夢は「Vtuber賛歌」であり、「人間賛歌」なのだ

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