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【連載詩 東町海岸通り理容室 #3】

#3 顔そり

蒸しタオルで顔を覆っていた状態から
タオルを外すと
そこに少女の面影が見てとれた
明日 結婚式を控えている
娘の化粧が映えるよう
刷毛で石鹸を泡立てる

顔をそる 技術をほどこすことが
母として理容師としての仕事の集大成のように
剃刀を頬にすべらせる
娘は気づいているのだろうか
愛情を受け入れてきた容器がいっぱいなのを
いっぱいになった容器は
これ以上 注ぎ込んでも入らないことを

たぷん たぷん 満ちているのに
気づいていないのは母のほうかも知れない
指を差し出せば
ぷくりとした ちいさな手が
懸命になって つかんできた
あの手は もう
どこを探しても見つからないのに

剃刀をはしらせていると
目をつむっている娘から
少女の部分が はがれ落ち
妻になる顔が見えかくれする
娘に注いできたものは
あたらしい 家族のもとへ
子が生まれれば 子へと流れ届くだろう
甘みを湛えた ほほえみを
辛みひとさじぶんの まなざしを
いまは内に秘めたまま
ページがひらく時を
待っている


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 この先、結婚式を控えていらっしゃる
 方たちへ捧げたいと思います。

 どうもありがとうございました。

  
  ─── #4は 16日(月)になります。

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