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Diane Arbusのクリスマスツリー

クリスマス 鎌倉 自宅にて 2022/12/25
クリスマスプレゼントに盛り上がった後 鎌倉 自宅にて 2022/12/25

クリスマスツリー、と言ったら、ビル・オーウェンス、トレント・パーク、ジョエル・マイロウィッツなんかが頭に浮かぶけど、この日この光景を見るたびにやっぱりいつも思い出すのが、ダイアン・アーバスの有名な1枚↓

リビングルームのクリスマスツリー レヴィットタウン 1962 ©ダイアン・アーバス
Xmas Tree in a Living Room, Levittown, L.I., 1962 © Diane Arbus

2022年6-9月に東京都写真美術館で開催された企画展「メメント・モリと写真 死は何を照らし出すのか」では、ロバート・キャパ、サルガド、ウィリアム・エグルストン、ロバート・フランク、牛腸茂雄、小島一郎らとともに、この1枚を含むダイアン・アーバスのプリントも数点展示されていた。それぞれいつプリントされたのか、それは写真家本人によるオリジナルプリントなのか、それとも他者、また写真家の死後にプリントされたものなのか。それら明確な表記がなかったことにまず違和感を感じることに。「生」と「死」を扱うのであれば、生前本人の手によるものなのか、それとも死後なのか、そこからもテーマに結びつくキーが見えてくると思い、その点について後日企画課の方とやり取りさせてもらったけど、自分が疑問を感じた数点に対して企画担当の方が写美の購入年含めきちんと詳細に説明してくれたことはとても嬉しかった。

今更だけど、あの企画展は絶対に見に行くべき展示だと久しぶりに感じたものだった。泣きながら行くのを我慢した「初めての・・」よりはるかに。

今では最高額7000万近くで落札されるダイアン・アーバスの有名な「双子の少女」はアーバス本人による手焼き。そのプリントが目の前で見れる機会だったし、牛腸さんや小島さんの手焼きもそう。過去に数点出品されその落札総額は2億円を越えるロバート・フランクの「トロリー ニューオリンズ」もオリジナルプリントだったし、エグルストンのプリントはエグルストン・ガイドからのダイトランスファープリント。東にエグルストン、北にアーバス、西に牛腸さん、南にロバフラ、あの空間は本当にやばかった。両手広げて目を瞑ったら若干だけど、足が気持ち宙に浮いたからね、いやほんとに。

そしてそこに展示されていたこのアーバスのクリスマスツリーは、ダイアンの死後、娘のドーン監修によるプリントだったけど、ダイアン本人による手焼きがかなり少ないだけに娘さんのサイン入りプリントでも今ではかなりの高額になってるので、それが実際に見れただけでも幸せだった。

自身の大規模展開催を目の前に自らこの世を去った母を想い今でもネガを管理する娘さん、その手から渡ってきたプリントとその隣には母親自身が焼いた「双子の少女」のプリント。それらを眺めていると、アーバス親子の会話までもが見えてくるようだった。撮影にもプリントというアウトプットにもまさに「生と死」が見えた展示。

そしてやっぱり「双子の少女」の本人によるプリントが見れたのは本当に嬉しかった。当時、双子や三つ子のパーティーがあると「どこからか」聞いて会場にやってきたダイアン。積極的に声を掛け、親が了承した子だけを撮影。この双子も母親が許可を出してくれたので会場の外まで連れて行って壁をバックに撮影。その直後の展示の際に両親にプリントを1枚プレゼント。展示を見に来たこの双子の親父はその写真を見て「我が子に見えない」と言ったとか。これを撮ることを誰が良いと言ったんだ?と妻に問いただすと「確かにいいわ」と言ったわね、と。被写体となった双子のワイド姉妹も自分たちじゃないように見えると感じてたみたいだけど、今ではこの超高額なプリントは、家族の宝物に。

パーティー会場の誰もが「ダイアンが誰でどこから来たのか知らなかった」というのは本当に彼女らしい行動。「撮りたいものを撮りたいように撮る」をやり続けるとああいう最期になるのかもな、というのが構図から見えてくる怖さ。彼女の写真に対しては、彼女を通して被写体を見るのではなく、あくまでも撮り手「ダイアン」自身を見る。それはヴィヴィアン・マイヤーの写真も同じ。撮り手を見るタイプの写真。だから「彼らを通してあの時代」云々というレビューを見ると、自分とは違う見方だなと、感じてしまう。

これらはキャンディッドではない。あくまでも内に見たものを被写体を通してーそれは利用してと言ってもいいーそれらを可視化する行為。自己のための写真。その表れが、ビビアンが一度展示を考え、諦め隠居したこと、ダイアンが最後にバスタブを選んだ、こと。まぁそれらをどう扱うかはマイケルジャクソンのThis is Itや前述した「はじめての…」と同じで、お好きなように、、となるんだろうけど。

上に載せたクリスマスツリーの1枚は、MoMAにおける彼女の最初の大回顧展「Diane Arbus」の際に出版された写真集「Diane Arbus: An Aperture Monograph」Aperture 1972のハードカバー初版第1刷より。

Diane Arbus: An Aperture Monograph, Aperture, 1972 ハードカバー 初版第一刷、二刷の刷初め直後以降削除された貴重な「揃いのレインコートを着た2人の少女」入り
Diane Arbus: An Aperture Monograph
Aperture, 1972, hardcover, first edition, first printing, including "Two Girls in Identical Raincoats" was removed just after the start of the second printing.

この初版第1刷にのみ掲載されている 「揃いのレインコートを着た2人の少女」は、展示で自身の娘の姿を見つけたこの被写体の一人の親から「2人がまるで○に見えるから取り下げろ!」とその場で苦情が入り即差し止めに。既に刷り終え販売していた第1刷は回収不能、その代わり刷り始めていた2刷を途中でストップし破棄し、市場に出ている初版第2刷以降は全て別の被写体の写真に差し替えとなっている。その後2003年にサンフランシスコのMoMAで開催された大回顧展「Diane Arbus Revelations」でも未展示、そしてその大型図録「Revelations」にも未掲載という1枚。

初版第2刷以降差し止め未掲載となった
揃いのレインコートを着た2人の少女 ニューヨーク セントラルパーク 1969
Two girls in identical raincoats, Central Park, NYC, 1969

先日ニューヨークで開催された初回顧展から50周年記念展「Cataclysm: The 1972 Diane Arbus Retrospective Revisited」で、50年ぶりにこの1枚が展示されているのをニューヨークのチームメイトの報告で知り、まぁ驚いた。すぐに「なぜ再展示可能になったのか」を関係者に回答を求めたけど今のところ返事なし、会場で聞いてもらっても「わからない」らしい。続いてこれが香港で「First Coming」として巡回展が開催されると聞いて香港の友人に「何があっても要チェック!」とケツを叩いて観に行ってもらったが、「その1枚ありませんでした、会場では理由はわからないみたいです」という返事。流石に国外に持ち出されることはなかったみたい。

日本では巡回展やらないのかな。先月のアンリ・カルティエ=ブレッソン大回顧展も巡回展はお隣韓国だった。イケイケだった以前の日本相手だったらなぁ。1972年のダイアン・アーバス展が翌1973年に日本で。1955年にエドワード・スタイケンが企画したMoMA開館25周年記念展「The Family of Man」が翌1956年に日本で「ザ・ファミリー・オブ・マン(人間家族)」展、と同じ流れでここ最近開催された大回顧展のアーバスもブレッソンもゲイリー・ウィノグランドもウイリアム・エグルストンもスティーブン・ショアもジョエル・マイロウィッツのもジョエル・スタンフェルドのも。。すべて来るはずだったんだろうなと。こういう巡回展の流れにも、「今の日本」を感じてしまう。

最後に、この「レインコート」入りのバージョンを紹介。

Diane Arbus: An Aperture Monograph, Aperture, 1972
「揃いのレインコートを着た2人の少女」入り
Diane Arbus: An Aperture Monograph, Aperture, 1972
including “Two girls in identical raincoats”

左から、ハードカバー 初版第1刷、ソフトカバー 初版第1刷、日本語版「ダイアン・アーバス作品集」(初版第2刷入り)
left: hardcover, center: softcover, right: Japanese edition (second printing)

差し止めされる前に出版された1972年初版第1刷ハードカバー、同じく同年の初版第1刷ソフトカバー、そして翌1973年に西武百貨店で開催された「ダイアン・アーバス展」向けに本国から送られてきた本文と日本語で刷り直した日本語訳前書きや日本語表記のカバー等をまとめて製本した「ダイアンアーバス作品集」。

2刷目を刷り始めた直後に差し止められ、本来は破棄されたはずだったが。。まぁでも翌年開催の日本にこれら本文を送るし、それなら破棄しなくてもどうせバレないだろうし。。と思ったかどうかは勝手な想像だけど。。その破棄されたはずの「幻のレインコート入り2刷」が日本語版の最初のわずか数部にのみ収録されている。「いやいや日本側にも伝わってたでしょ流石に」と思うのが普通だけど、なぜ「バレずにやっちゃった」と思っているかというと、この日本語版「ダイアンアーバス作品集」の奥付索引欄にはハッキリと差し替え後の写真タイトル(の和訳)が書かれているのがその理由。日本側も知らずに販売したんだろうなぁ。

自分はハードカバーの他にソフトカバー、そして日本語版は2冊持ってたけど、今は手元にはハードカバーのみ。本来は手放したくなかったけど、このご時世ですから、フリーランスはいやぁ、キツい。

「レインコート入り」の国内在庫は、ハードカバーは多分過去にもゼロ、ソフトカバーも現在はゼロ、日本語版は2.8万円で1店舗のみ。紙厚が同刷ソフトカバーとも倍近く違う初版第1刷のハードカバー、ぜひどこかで手に取って読んで欲しいな、この紙質、インク、それらで刷られたモノクロのトーンの深みを。海外では状態が悪くて5万、自分の新同品レベルなら15万以上付けてるところもある。鎌倉に来たらいつでも声掛けて。ハードカバーを片手に人力車に乗って現れます。

A2/A4プリント販売:

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