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詩|短篇小説

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ひさしぶりに詩を書きたくなりました。昔はよく詩で表現していたのに、しばらく散文ばかりで。これからはまた、自然にことばを紡いでいけたらと思います。散文詩的なごく短い読み切り小説も、… もっと読む
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#眠れない夜に

弱さを隠さなくてもいい

今朝、声をあげて泣いた 人から見たら、なぜそんなことが? という、小さなことができなくて それは 私にはとてもとても苦手なことで できない自分が苦しくて そんな自分がイヤになって 子どものように声をあげて泣いた 私の泣き声に合わせるように 茶白の子が声を張り上げて鳴いていた あとで夫に聞いたところ 泣く私のほうを見て鳴いていたらしい 夫はそばにきて 「泣いていいよ」といいながら 落ち着くまで一緒にいてれた 実はサビの子は、私が泣き始める直前まで 胸の上で慰めてくれていた

夜の森

小さな森のほとりに住んでいる 夜、部屋の灯りを消して 窓から森をのぞくひとときが好きだ 青く黒く揺らめいている 夜の森を おそろしい? そう、私の中のおびえすらも ありのままに浮き上がらせる 夜の森の公平さ 鏡のような深さが好きだ 私をありのままに受けとめて 青く黒く揺らめかせ 命の波動の中で癒やしてくれる 見上げれば漆黒の木々の葉 その上には濃藍の空 銀色にきらめく星々 地上の闇の奥からは 無数の命がうごめく気配 眠ってなんかいない 虫も、けものも、他のものも 草や木は

いまこの瞬間を愛するということ

どうしようもなく 不安におそわれるときがある はるか昔の出来事が 心に深い爪痕を いくつもいくつも残していて ふさがらない 地割れのような隙間から ゆらゆらと 不安の煙が立ちのぼってくる 理性で考えれば目の前の状況は そんな危機的ではないというのに 苦手という意味でなじみ深いひと言や かすかな気配 映像 音 それらが古い傷をひとなですると 不安の煙がゆらゆら ゆらゆら 私の心を濁していく それはもうしょうがない 目を背けるのはよそう かわりに煙が出てきたら 対抗手段として

魂を休ませる

がんばり続けなくてもいいんじゃないか 休み休みでいいんじゃないか そんなふうに自分をゆるしてみたら 息がしやすくなりました 「もっと」とか 「早く」とか 「きちんとしなくちゃ」とか いつもいつもじゃなくていいよ そういう力は 必要なとき、必要なところで 発揮すればいいのだから むしろ ここぞというときに使えるように ふだんから使い過ぎないことも 大事だと思うのです 自分自身が 擦り切れてしまわないように 私にとって いまは魂を休ませるとき あとでもいいことはあとにして

涙はどこから生まれてくるの

こころの奥のかなしみから どうしようもない出来事の もう変えようのない記憶から 涙は生まれてくるのでしょうか それはもうここにはなくて 手をふれられない 届かないもの なのに涙は湧いてくる どうして涙は生まれてくるの くやしさ にくしみ 後悔とやるせなさ うずまく負の感情を 洗い流してきよめるために 焼けただれた大地を潤し ふたたび命が芽生えるように 涙は湧いてくるのでしょう こころの奥のかなしみの その奥にある不滅の泉 いつも静かに波打っている 愛という名の泉から

闇の中でこそ

自分の中の暗黒の穴に 吸い込まれそうなとき 同じように苦しんている人の つらさを思う 人を助けたいなんて 考えていたけれど 自分ひとり助けられずにいる わたしに 何ができるというのだろう だから 神に祈り、乞う ホサナ どうかお救いください どうかそばにいてください そしてわたしをお使いください わたしの手を 灯台は闇の中でこそ 小さなまたたきで人を導く 暗黒の穴のほとりで わたしは途方に暮れながら それでも小さな光でありたいのだ ◇見出しの写真は、みんなのフォトギ

ゆるめる

こころもからだも ゆるめるときがあっていい ちからを抜いて ただぼんやりと いま生きている そのことだけを受けとめる ぎゅっと握り締めた 心配事があるとしても いまだけはその手をゆるめて ほんのちょっとの時間でいいから 荷物を降ろして横に置こう だいじょうぶ 休んだっていいんです むしろ ふたたび立ち上がり 艱難辛苦に向き合うために 自分をゆるめる そのひとときが必要です ◇見出しのイラストは、みんなのフォトギャラリーから chona_illustさんの作品を使わせてい

短篇|Christmas Eve〈クリスマスの夜〉

 いつものように星がきれいな夜だった。しかし正確にはいつも以上に、いや特別に、とびきり美しい夜だったことを、少年は知ることになる。  ベツレヘムの郊外で、彼はその夜も野宿をしながら、仲間と交代で羊の番をしていた。やわらかな毛に覆われて、むくむく太った羊たちが獣に襲われないように。盗賊に盗まれないように。やんちゃな1匹が群れからはぐれないように。  汚れたマントにくるまって、大きな岩に背中をあずけ、少年は満天の星空をながめた。ちらちらと瞬く光が今にも天からこぼれてきそうで、

雪のヒミツ

雪ってヒミツの匂いがするよね まっ白な目かくしで いろんなものをつつんでしまう きっと宝石みたいに きらきらしたヒミツを かくしているんだよ これまで生きづらいと 感じていた人たちが 生きやすくなる 時代がくるよ ときがきたら 雪は透明になって とっておきの ヒミツをときはなつの あなたに わたしに 泣いている人 くるしい人に やさしい愛がとどくんだ おひさまは笑い 風はうたう 光に心があたたまる そのときは必ずくるよ だから あきらめないで 息をしよう ◇◇◇

短篇|コトリはキセキを信じていたい

 奇跡なんて信じない。コトリは電飾の消えたクリスマスツリーを見上げた。銀色の天使のオーナメントや、金と赤の玉飾りが暗がりにぼんやり浮かんでいる。  つい1時間ほど前まで、この小さな教会はイヴの礼拝でにぎわっていた。クリスマス・キャロルが響く中、コトリは一般参加者として紛れこみ、ベルタワーの階段に隠れて人びとが帰るのを待っていた。  館内はすでに静寂に包まれている。階段に腰掛けて、彼女はスマートフォンの画面を眺めた。  人気ミュージシャン「ノエル」のSNSは、今日の午後の投稿を