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詩|短篇小説

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ひさしぶりに詩を書きたくなりました。昔はよく詩で表現していたのに、しばらく散文ばかりで。これからはまた、自然にことばを紡いでいけたらと思います。散文詩的なごく短い読み切り小説も、… もっと読む
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#聖書

短篇|Christmas Eve〈クリスマスの夜〉

 いつものように星がきれいな夜だった。しかし正確にはいつも以上に、いや特別に、とびきり美しい夜だったことを、少年は知ることになる。  ベツレヘムの郊外で、彼はその夜も野宿をしながら、仲間と交代で羊の番をしていた。やわらかな毛に覆われて、むくむく太った羊たちが獣に襲われないように。盗賊に盗まれないように。やんちゃな1匹が群れからはぐれないように。  汚れたマントにくるまって、大きな岩に背中をあずけ、少年は満天の星空をながめた。ちらちらと瞬く光が今にも天からこぼれてきそうで、

涙とともに種を蒔く

泣きながらでも わたしは前にすすんでいく その先に ほほえみが 待っているかもしれないから ◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから kuwagatg_bassさんの作品を使わせていただきました。 ありがとうございます。

心はずっと痛かった

やわらかいふわふわした布のようなもので そっと包んで触らないようにしているけれど 心の奥の心がずっと痛い 子どものころからずっと 焼けただれたみたいになってひりひりしている ことばの矢とか激烈な感情とか そういった負のものをぶつけられすぎて たぶんもう、もとには戻らない そんな焼け野原が 心の奥にずっとある ふだんは奥の奥の静かな湖の底のような場所に そっとしまって触れないようにしているけれど 痛くないわけがなくて たんに痛みを抱えながら 生きるのになれてきただけ 心が揺

平和を願う

平和の尊さを 思わされます 心から 平和を願います そのために わたしはいま 隣にいる人と 手をつなごう ほんの小さな ひとしずくも 集まればやがて 大きな流れに 平和を願い 善を行い 愛のしずくを 集めましょう 悪を避け、善を行い 平和を尋ね求め、追い求めよ。 (詩編34:15 聖書新共同訳) ◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから HanaKokoroさんの作品を使わせていただきました。 ありがとうございます。

海とすべての深淵において

そこに海があるだけで 私は世界の広さを思う たとえこの身が高台の この窓にとらわれていようとも そこに海があるだけで 私は風の自由を知る 引きとめる腕をすり抜けて 透明な風が 世界を飛び回っているように 心も旅ができるのだと そこに海があるだけで 私は空の夢を見る 波の音は安息のゆりかご 満点の星を 抱きしめて 祈ったら 愛しいあなたに会えるでしょうか この世はあなたの愛で満ちていて 小さな夜露のひとしずくにも それは宿っているのだと 信じることができるでしょうか ◇

音声化作品|ギはギルティのギ

私のオリジナル小説「ギはギルティのギ」をもとにつくられた音声作品を公開させていただきます。秋さんの私設コンテスト「#2021夏の創作」金獅子賞の副賞としていただきました。 声優・制作:守山愛泉さん 音楽:夢見る世界(Dreaming world) written by 蒲鉾さちこさん https://dova-s.jp/bgm/download14742.html 約12分のドラマです。声と音の向こうに色や景色が見えるよう。素敵な世界に作者の私も感動しました。たくさんのみなさまに聴いていただけるとうれしいです。 秋さん、守山愛泉さん、蒲鉾さちこさん、ありがとうございました! ※作中の聖書の言葉は『聖書 新共同訳』(日本聖書協会)より

詩|雑踏

忘れかけていた 意識の外に…… すれちがった瞬間 思い出した風 ……もう過去になったかしら あの人の中で 私 短すぎた風と一緒に ◇35年ほど前、高校生のときに書いた詩です。恋をして、失恋もして、告白されて、ごめんなさいをしたこともあって、つらいこともあったけれど、今から思えばきらきらした時間でした。この詩は、お別れした元恋人のことを書いたのか、想いを寄せてくれたのに応えられなかった人のことを書いたのか、もはや自分でも定かではありません。ただこの詩を読むと、出会いと別れを運

詩|ただひとつのもの

笑われてもいい さがし続けます 待ち続けます それが 私の求める 唯一つのものだから ずっと夢見てきたのだもの ずっと信じてきたのだもの こたえてくれたなら その人を 世界じゅうで一番 愛してしまうでしょう ◇35年ほど前、高校生のときに書いた詩です。当時としては、いわゆる「運命の人」との出逢いを夢見て書いた内容ですが、クリスチャンになったいま読み返すと、イエスさまのことを言っているみたいだなあ、と感じます。神さまから与えられる愛はもちろん、イエス・キリストへ向けて自分

詩|泣きたいときは泣きましょう

なみだをがまんしてしまう こどものころからそうだった 泣くとしかられて まわりの人たちがみな はやく泣きやむよう願っている それを知っていたから だけど 泣きたいときは泣いていいよね おとなになってずいぶんたって 自分にゆるした 泣きたいときは泣きましょう だって泣くのは こころを洗う作業だもの 泣かないで、なんて言うのは野暮 泣き終わるまで泣いたらいい 哀しいんだね つらいんだね とてもとても悲しいんだね そう言って ただ、なみだを受けとめたらいい あなたの悲しい気持

短篇小説|ギはギルティのギ

 ギルがゆるやかにハンドルを切ると、目の前に青い海が広がった。ネモフィラの花畑を思い出す色彩。セリは息を呑み、わずかな時間、苦悩を忘れた。 「ほんとうに、私の頼みもきいてくれるの」 「もちろん」  約束だからねと、彼は前方を見たまま答えた。車内にはミントの香りが漂っている。 「どこへ行くの。そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」 「もうすぐ着くよ。それに」 「私は知る必要がない、でしょ」  セリは彼の言葉を遮って、助手席で座り直した。海沿いに並ぶパームツリーが、車のスピード

名まえのないひととき

まだ 夏になりきらない夏の 夕方と夜の間にある 名まえのないひとときが好きだ 青みを帯びた うすい闇(あるいは光の残滓) 鳥がいそがしく鳴いていて 巣へ帰ろう、と言っているよう 暮れゆく静けさと 動的な気配が 心地よく混ざり合っている このひとときが好きだ 神さまが与えてくれた この世界の 無防備な 体温に 触れた気がして ふと 泣きそうになるのです ◇今日、ちょうど日没のころの時間帯に感じたことを詩にしてみました。名まえのないひとときと書きましたが、マジックアワー

あなたの手が私の心に触れたことを

やわらかな光の降る日 甘い風が世界をなでていく 生まれてきてよかった 孤独や苦悩をこえて 無条件にそう思えてしまう瞬間 あなたの手が 私の心に触れたことを 認めざるを得なくなるのです すると 私の耳は 木々の葉や鳥や虫、人の足音や車の音などの ごちゃごちゃとした世界の音に 美しい音楽がひそんでいるのを 聴くのです 私の目は 青い空に愛を 夕焼けに慈しみを 星のまたたきに希望を探して 開かれます そして 孤独と苦悩のなかにさえ 命の輝きを見つけようと 一歩を踏み出さずに

忘れない、ことば

空の水色がどこまでもきれいで 遠くで汽笛が鳴って 透き通った海風 忘れない あの時あなたがくれたことば ◇今から35年ほど前、高校生のときに書いた詩です。この詩をいま読み返すと、「あのときのことだな」と、鮮やかに思い浮かぶシーンがあります。けれども、肝心の言葉については内容を覚えているだけで、セリフとしては再現できません。ただ、その素敵な「言葉」を受け取ったときの空の色、汽笛の音、海風の温度、波のきらめきなど、それらすべてがひとつの「ことば」となって、記憶のなかで輝いていま

時を追いかけて

子供の頃―― 時に追われて 一生懸命生きていた いつしか時に流されて 気づいた時には 時を追いかけていた 時は行く手を 駆けてゆく 立ち止まることも 許さずに まだ間に合ううちに 気づきたい 無限の可能性と 夢―― ◇いまから35年ほど前、高校生のときに書いた詩です。まだ10代後半なのに、こんなふうに焦っていました。当時は、時を追いかけている感覚だったのだなあ、と、あらためて思います。では、50代になったいまはどうでしょう。仕事の〆切前など、時を追いかけている気分になるこ