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『新建築』2018年3月号を評する─『新建築』2018年3月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!


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評者:深尾精一
目次
●東日本大震災復興事業の公共施設
─釜石市鵜住居小学校・釜石市立釜石東中学校・釜石市鵜住居児童館・釜石市鵜住居幼稚園|小嶋一浩+赤松佳珠子/CAt
─釜石市立唐丹小学校・釜石市立唐丹中学校・釜石市唐丹児童館|乾久美子建築設計事務所・東京建設コンサルタント 釜石市唐丹地区学校等建設工事設計業務特定設計共同体
─釜石市民ホールTETTO|aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所
─七ヶ浜みんなの家きずなハウス|近藤哲雄建築設計事務所
─南三陸町役場庁舎/歌津総合支所・歌津公民館|五十嵐学+新谷泰規/久米設計 小澤祐二+藤木俊大/ピークスタジオ
─石巻市立雄勝小学校・雄勝中学校|関・空間設計 アルセッド建築研究所
●いくつかの教育施設・公共施設について
─作手小学校・つくで交流館|東畑建築事務所
─京都府立京都学・歴彩館|飯田善彦建築工房
─教養教育共同化施設「稲盛記念会館」|安東直+木下卓哉+沼田典久/久米設計
─京都女子大学図書館|設計 佐藤総合計画 デザインアーキテクト 安田アトリエ
─東京駅丸の内駅前広場整備|東京駅丸の内広場整備設計共同企業体(ジェイアール東日本コンサルタンツ・ジェイアール東日本建築設計事務所)


東日本大震災復興事業の公共施設

3月号の前半では東日本大震災復興事業の公共施設が紹介されている.

高台移転の是非については,将来の評価を含めてさまざまな議論がなされるべきであろうが,この重い課題に対して,総じて優れた設計がなされていることは,7年経った今,希望と捉えてよいであろう.

釜石市鵜住居小学校・釜石市立釜石東中学校・釜石市鵜住居児童館・釜石市鵜住居幼稚園|小嶋一浩+赤松佳珠子/CAt

土木と建築が独立して解かれることに対する漠然とした不満を,多くの人が抱えている中,釜石市鵜住居小学校・釜石市立釜石東中学校・釜石市鵜住居児童館・釜石市鵜住居幼稚園は,そのふたつが融合した優れた解法が示されていて,設計者たちのこのプロジェクトに対する真摯な取り組みが伝わってくる.そのことは,他のプロジェクトでも程度の差はあれ,同様である.

鵜住居地区の計画では,中学校の入るブリッジ棟が沢をまたいでおり,トラス階で吊るという大胆な構造になっているが,設計趣旨を読むと,その説得力の高さに,現地を訪れて確認したくなるものであった.中学校と小学校そしてその他の施設の表情を対比的に扱っていることも成功しているのであろう.写真では鉄骨のブレースの処理など,気になるところもあるが,限られた予算の中でこれだけの建築を実現させたことは高く評価したい.

釜石市立唐丹小学校・釜石市立唐丹中学校・釜石市唐丹児童館|乾久美子建築設計事務所・東京建設コンサルタント 釜石市唐丹地区学校等建設工事設計業務特定設計共同体

釜石市立唐丹小学校・釜石市立唐丹中学校・釜石市唐丹児童館も同様な複合計画で,高台の傾斜地という条件も似通っているが,その解き方には,共通する部分と異なる部分がある.生産現場の状況から木造の比率を高めているそうであるが,昨今,木造化が目的化してしまい,コスト高となっている建築が多い中で,このような木造の試みはわが国の林業が置かれている状況からは素晴らしいものである.室内も,子どもたちのスケールに相応しいものとなっており好印象であるが,ファサードの扱いは木造らしいとは言えず,疑問が感じられた.

釜石市民ホールTETTO|aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所

釜石市民ホールTETTOは,大ホールの1階座席スペースと共通ロビー,小ホールそしてオープンな屋根付き広場が一体に繋がる計画が秀逸である.それを成立させている矩計や,音響解析から導かれたという,大ホールのLVLによる内装も興味深い.この複合建築をどれだけ活かして使うかという,運営面が問われる建築でもある.

七ヶ浜みんなの家きずなハウス|近藤哲雄建築設計事務所

七ヶ浜みんなの家きずなハウスは,その建設の経緯も素晴らしいが,スギの一般製材を用いて,桁と母屋を同部材にした折置組という架構が魅力的である.平面をちょっと工夫するだけで変化に富んだ開放的な空間を実現しているところがミソであろう.

南三陸町役場庁舎/歌津総合支所・歌津公民館|五十嵐学+新谷泰規/久米設計 小澤祐二+藤木俊大/ピークスタジオ

南三陸町役場庁舎/歌津総合支所・歌津公民館は,地場産材を用いた集成材の格子梁が空間を支配している.大空間の空間認識のよりどころとしての効果があろう.鉄骨トラスで面剛性を確保した格子とあるが,立体トラスの下弦材を集成材に置き換えたと言えよう.混構造を採用していることが特徴であると述べているが,既に,木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造という分類自体が意味を持たない時代になっているのではないだろうか.

石巻市立雄勝小学校・雄勝中学校|関・空間設計 アルセッド建築研究所

石巻市立雄勝小学校・雄勝中学校は,木造の普通教室棟と鉄筋コンクリート造の管理・特別教室棟の組み合わせであるが,写真で見る限り,南面のエレベーションの双方の調和が疑問であった.


いくつかの教育施設・公共施設について

復興関連施設とは別にいくつかの教育施設・公共施設が紹介されている.

作手小学校・つくで交流館|東畑建築事務所


作手小学校・つくで交流館でも,木材を主体とした気持ちのよい施設がつくられている.ハイブリッドの架構や棟の配置も巧みであるが,1,000㎡以内の区画とするための渡り廊下のみが鉄筋コンクリート造となっているのは,法適合の側面が強いのであろうが,この分野の専門家が携わっているだけに,他の解がなかったのだろうかと感じざるを得ない.面として広がった防火壁的な機能を期待していないのであれば,鉄筋コンクリート造とする意味を見出すことはできなかった.

京都府立京都学・歴彩館|飯田善彦建築工房


京都府立京都学・歴彩館は,複数の施設を階ごとに配しているが,その平面に3筋のスリットを入れることにより,分棟的なスケールとブリッジ等による機能の一体化を両立させており,きわめて巧妙なプログラムが達成されている.施設間の融合を生み出したいという設計者の目論見は,十分に達成されているのではないか.新たな複合公共空間の誕生である.ただ,設計者自身が「一体的な運営を強く望んでやまない」と述べているように,主体の異なる組織がこの建築を使いこなすには,優れたマネジメントの仕組みが必要であろう.真に活かされることを期待したい.

教養教育共同化施設「稲盛記念会館」|安東直+木下卓哉+沼田典久/久米設計


教養教育共同化施設「稲盛記念会館」は,PCaPCの懐かしさを感じさせる構法である.私事であるが,47年前の私の卒業設計は,WTのPCa版を用いた学校建築であった.したがって,このようなプロジェクトには親しみを感じるのであるが,当時とは,熱環境に対する要求の度合いが異なっており,コンクリートの用い方としては疑問である.

京都女子大学図書館|設計 佐藤総合計画 デザインアーキテクト 安田アトリエ


京都女子大学図書館は,この号の教育施設の中では,設備計画・ディテールに至るまで,レベルの高い作品である.書棚との取り合いなども面白い.いちばんの魅力は,その敷地に対する構成なのであろう.しかし,写真と図面からでは全容の理解に時間がかかり,最終頁に掲げられた断面図を見てから,前に戻って見直すことになった.紹介誌面にも工夫がほしいところである.

東京駅丸の内駅前広場整備|東京駅丸の内広場整備設計共同企業体(ジェイアール東日本コンサルタンツ・ジェイアール東日本建築設計事務所)


東京駅丸の内駅前広場整備は,誰もが現地でようやっとできたなと感じるであろうプロジェクトであるが,同時に現地でその全貌を理解するのは難しく,タイムリーな紹介であった.その誌面の中でも,長年携わってこられた方の寄稿や年表が,壮大な計画であったことを見事に物語っている.ローリング計画は,鉄道会社はお手のものなのであろうが,それにしても苦労が偲ばれるプロジェクトでもある.ひとつ注文を付けさせていただくとしたら,インフォメーションボックスのような施設を設けて,プロジェクトがどのようなもので,どのように進んでいるのかを,市民に示し続けていただきたかった.


建築論壇:地域のコモンズは,冒頭にあって,それに続く作品を理解する上でも意味のある記事であった.ただ,その中の,赤松さんの発言「建築を含むその全体がシンボルになる,ということを初めてはっきりと表明した建築です」などは,作品を見た後に知ったほうがよいのかもしれない.



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