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デベロッパーの視点から見る─『新建築』2018年1月号月評

今月から隔月で月評を担当させていただく.私の役割としては,デベロッパーのインハウスアーキテクトとして,さまざまなプロジェクトに関わってきた立場からの率直な意見を述べることと考えている.

具体的には「利用者の視点」,「都市的な視野」,「時間軸の視座」という3つの切り口に沿って眺めていきたい.

どれも都市開発事業にとっての基本的な評価軸であると同時に,今後の「建築」を語る上でも設計者が意識すべき重要なテーマだと感じているからである.


「手続きの創造性」

1月号でまず興味を持ったのは巻頭の建築論壇:建築と設計のこれからである.正直に言って最近は本誌も含めて建築雑誌をじっくり読む機会を持たなかった.

それは,近年の科学技術の急速な進歩や世界情勢の激動の中で劇的に変化しつつある実社会において,従来の「建築」の世界が相対的に内にこもり,孤立しているように感じていたからである.しかしながら今回若手建築家たちの議論に触れ,彼らの思考や危機感がわれわれデベロッパーの問題意識とほとんど合致していることに,よい意味で驚かされた.

たとえば,「コラボレーション」についてである.これだけ社会の多様化・複雑化が進展する中で,発注者が与件を整理し設計者がそれを建築として具現化するというプロセスでは,本当の意味での問題解決に至らないということは明らかである.

建築設計という領域に限らず都市開発や街づくり全体において,行政や事業者,住民等も含んだよりダイナミックなコラボレーションが不可欠になっている.そしてそこで,付加価値としての作品性,すなわちデザイン性や唯一無二性の重要度がより一層増してきているのも事実である.建築設計者の役割が,単に条件を満たし小奇麗な建築を生産するだけなら,おそらく近い将来AIに取って代わられるであろう.

これから設計者に求められるのは,問題提起能力であり,合意形成力であり,その上での創造力である.だからこそ藤原氏の言う「手続きの創造性」の重要さがクローズアップされる.建築に限らず,新たなイノベーションのためには大企業とひとりのクリエーターが対等に協働することが当たり前の時代であり,所属する企業や組織云々よりも個人の独自性や創造性と,それらを繋ぐ人的ネットワークの質が問われているのである.

掲載作品の中にも,発注者や都市計画担当者等も含むより広い意味でのコラボレーションの成果が問われる案件がいくつかある.

特に組織設計事務所及びゼネコン設計部によるマルチタワーの複合開発プロジェクト3件が,オフィス+ホテル+商業という類似のプログラムと規模感を持ちながら,デザインの方向性やコンテクストとの関係性においてかなり異なる様相を呈していたので興味深かった.それぞれ上述の3つのテーマ,すなわち「利用者」,「都市」,「時間」を意識しつつ触れておきたい.


JRゲートタワー

JRゲートタワーは1999年開業のJRセントラルタワーズ(『新建築』2000年4月号)と一体的に開発された名古屋駅直結の複合施設である.

外観については,垂直性と水平性の組み合わせによるファサードデザインが,豊かな多様性を表出しながら既存部分との自然な連続性を実現している.また,シリンダーが特徴的な既存ツインタワーと新タワーとのバランスが20年近いインターバルを感じさせていないのも,当初からのデザインアーキテクトであるKPFの存在によるところが大きいのであろう.

歩行者ネットワークの再構築については,利用者のストレスを最小化していて非常に明快であり,15階のスカイストリートと連動した複合立体都市の実現は,14階以下のプログラムが事業的に成立しているという意味においても商業立地としてのポテンシャルの高さを示している.ただ一方で,都市の玄関口であるはずの「駅」の機能が強化されればされるほど,相対的に従来の都心部の地盤低下が進むという現実があり,結果として都市全体の個性や活力,文化的魅力度が損なわれていくというジレンマが浮き彫りになってきている.

これは名古屋に限らず日本の地方都市共通の課題であるが,もう少し俯瞰的な都市戦略の議論の中で,駅機能のあるべき姿を見出していくべきなのであろう.


グローバルゲート

グローバルゲートは,かつてのJR貨物ヤード跡地(ささしまライブ24)に立地する複合施設である.

10年以上費やして整備されたこの街区は名古屋駅から徒歩圏にはあるが,残念ながらその道程は,近年世界の街づくりのキーワードになっている「ウォーカブル」とはほど遠い.

既存市街地からは幹線道路によって分断されており,エリア内も含め歩行者の動線を意識した計画とは思えないのだ.もちろん,建築設計者のミッション外ではあるが,都心部の区画整理事業や街づくりのマスタープランにおいて,歩行者よりも自動車交通体系の強化が優先される現実に対して,何らかの問題提起を起こす必要性を痛感する.そういった観点で本計画を見てみると,商業ゾーンに外部空間を貫入させたプラザやそれに連続するアトリウム,また周辺との関係性を意識したランドスケープデザイン等,都市の問題に対する解決策を見出そうとする設計者の真摯な姿勢が感じられた.外観についても,緑が適度に配された低層部と,外装が統一されたデュアルタワーの構成は理性的かつ品よくまとめられている.

ただホテル利用者にとっては,オフィスの上層部にあるホテルの存在が周辺から認識しづらく,また計画地内のアプローチも分かりにくいことが,ホテル内部空間がアトリウムを囲む完成度の高いデザインであるだけにやや残念であった.


中之島フェスティバルタワー・ウェスト

中之島フェスティバルタワー・ウェストは2012年に竣工した中之島フェスティバルタワー(本誌1301)の2期開発であり,景観的にも機能的にも大阪中之島のランドマークとなることを目指して計画された.

遠景では,優美なコーナー部を持つツインタワーのシルエットが印象的であり,また中景では,ホテル部分の外装の分節等プログラムの多様性が素直にかつ美しく表現されていて,設計者の力量と都市に対する誠実さが感じられる.さらに,マリオンの素材感やディテールも,見る者の位置や光によって変化する豊かな表情を創出している.

足元の大ピロティに立つと,既存タワーの低層部ファサードの全景がきれいに眺められ,都市の広場の創出という設計者の意図がはっきり読み取れる.ただ,この空間は歩行者にとってやや大づくりであり,そこに面した商業区画との関係性にも工夫の余地があったかもしれないが,さまざまなイベントを想定しているということなので,今後どのようにこの貴重な都市空間が活用されるか見守っていきたい.

ホテルの入口もこのピロティに面して設けられており,専用エレベータへのアプローチも含めてラグジュアリーホテルの導入部としては控えめな印象だが,最上階のホテルロビーに到達した時に体感する,息をのむような大パノラマへのプロローグだと知れば納得できる.



「月評」は前号の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評するという『新建築』の名物企画です.「月評出張版」では,本誌と少し記事の表現の仕方を変えたり,読者の意見を受け取ることでより多くの人に月評が届くことができれば良いなと考えております!


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