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コップのふちをぽとりと水滴が溢れ出すような、クリエイティブの地道さ

 東大教授立花隆は「作家や学者の平均は、200冊読んで1冊の本をアウトプットするようなもの。とても地道な作業。」だと言い切った。

 そして、こう続ける。
 「何かの問題意識に沿って本棚ひとつがいっぱいになると、まるでコップの水が溢れるように、ぽとりと自分の"考えた"水滴がコップのふちを伝ってこぼれ落ちる」

「何かを生み出すとは、無から有を次々もクリエイティブに生み出すことではない。
むしろ、コップに本一冊につき、一滴ずつ水滴が溜まっていって、あるところで、それがぽつり、ぽつりと、溢れるような地道な営みだ。」

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 当代きっての博識な言論人だった立花の視点に立つと、"考える"という行為に、皆が思うほどのクリエイティビティは存在しない事が分かる。

 誰と話すか、どんな本を読んだのかで、思考の枠組みは規定される。

 だから、ホームズは『緋色の研究』で、ワトソンに「君がどんな本を読んでいるか、本棚を見たら、君がどんな政党に投票し、どんな嗜好を持つ人間かあてて見せよう」と断言する。

 インターネットがなかった当時、情報のインプットの主な手段は書籍だったからだ。

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 インターネットの登場以降、社会の枠組みが変わった、とは宮台真司の『社会システム論』でも基底となる言説だ。

 ツイッターとFacebook、Instagramがディズニーランドを3回ずつ買収できるほどの時価総額を誇る現在、(本が読まられないと嘆かれ、そして書店が全盛期の半数近く倒産した現在)、本に代わってSNSがホームズの言説を担保するだろう。

 すなわち「君がどんなアカウントをフォローしているか見せてみよ。されば、君がどんな性的嗜癖を持ち、どのような異性がタイプで、どのくらいの年収か当てて見せよう」と。

 実際、トランプ大統領の選挙の際に、投票前にアカウントのフォロー関係や呟きをデータマイニングする事で、その人の投票予定を90%以上の精度の切れ味で当ててみせた、データ分析会社があった。

 InstagramやFacebookは個人を特定しない範囲(と掲げつつ)ビックデータから、そのような傾向性を抽出して、最適な広告を出す事でディズニーランドを何度も買い取れるくらいの収益を上げている。(Googleの親会社アルファベットをはじめ、これらの会社の収益の90%以上は広告収入である事は改めて言及するまでもない)

2022/5/23(月) 


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