バス待つひと時-皆野アルプスを行く破風山ハイキング⑥
「時間もあるし、朝ごはん食べる?」
「うんっ。」
のんは二人ではんぶんこする予定のチキンサンドが食べたい。しかしたぁはおにぎり1つとドーナッツ、それと500mlコーヒー牛乳を取り出した。コーヒー牛乳はハイキングの友、ランチ時に頂くと糖分が体にしみ元気回復するんだよね。ハイキング前なのにもう飲むの?
「たぁ、チキンサンド食べようよ。」
「うーん。でもドーナッツとコーヒー牛乳はワンセットで今食べたい。」
そっかぁ。
無理強いするつもりはないのんはサンドイッチをリュックにしまい、自分もおにぎりをと1つ取り出す。
涼しい待合室から外を眺める。すると指紋1つないようなガラス壁の端に大スズメバチが室内に入ってこようともがいている。
でかいなぁ、5㎝はあるよ。
室内という安全な状態だからこそその動きを静かに見守り、観察出来るけど、外で出会ったらたまげるほどの大きさだ。
スズメバチに気を取られていると「皆野」と行き先表示しているバスが停留所に止まった。
「バス止まった。」
たぁは焦り準備している。
「あれじゃないよ、まだ出発時間でもないし。」
「でもあれ、僕たちを待っている。」
「・・・・。」
どうしてそう思うのかな?
表示されているのは皆野だし、まだ予定時刻より20分も早い。説明すると納得したのか納得していないのか座ったまま。しばらくするとバスはどこかへ向かい出発した。
たぁは今、何を想う?
10時も過ぎたので停留所へ向かおう。ここが始発停留所だからバスは早めに到着するかもしれない。スズメバチは懲りることなくずっとガラス壁をアタックしている。ドアを開け外に出ると、なんとスズメバチは二人に向かい方向転換。おいおい、やめておくれよっ、焦るではないか、焦る。急ぎ足で日向に出たら再びガラスへと踵を返した。暑さが苦手なのかな。
東京人は時間にうるさい。定刻前に到着し、定刻通り出発すると思っている。のんも同様。海外で“公共交通機関は時間を守らない”を何度も目の当たりにし、日本の時刻表は世界一正確と身をもって感じているのだ。
バスの出発時刻である10時8分が刻々と近づく。バスはいつやってくるのかな?ずっと道路を見つめるのん。晴天の空の下、日は照りつけ地味に熱い。何度かバスの姿は見るものの通り過ぎ、バス停に止まることはない。出発時間になってもバスが来ない。
「大丈夫、大丈夫、田舎時間。」
のんは自分に説いてみるも、もしかしたらたぁが言っていた20分前のバスは本当に私たちを迎えに来たのではないだろうかと不安を掻き立てる。さらに遠くを見つめながらこのままバスが永遠に来ないのでは非現実妄想も始まる。
数分後、健康ランドにでも連れて行ってくれそうな大型ワゴンがバス停前に到着。
フロントガラスには小さく“町営バス代替え”の文字。ドアが開いた。
えっ、これっ?
「華厳の滝に行きますか?」
「はいっ行きます。」
おぉ、これかぁ、想像のバスとは違うんだけど。
とりあえず待ち望んでいたバスが到着したことに変わりない。安堵による笑顔が自然と漏れる。遅れて到着したこともあるのだろうか、二人が乗り込むと扉は閉まる。
「料金はいつ払いますか?」
「降りる時でいいですよ。」
料金を即座に調べてくれる運転手さん。
「一人240円です。」
調べた料金と一致し、心の中で小さくガッツポーズ。さらに大型ワゴン車を二人貸し切り状態。心配しながら待った甲斐あり。二人のお財布から協力して集められた小銭480円、お釣りなしでいけるぞいっ。