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鋸山に行って来たよ-04

これまでのお話


目の前の四番車両に乗り込む。

「どこに座る?」

「どこでもいい」

たぁが指差した二人席に座る。

車両には空席が目立つ。これもコロナの影響かな。まぁ混み合うより、このほうが私たちには有難いんだけど。

快適な電車旅を楽しめるようにIPAD、お財布、麦茶を取り出してリュックを網棚に乗せるとすぐに駅員さんが回ってきた。まるで「チケットを購入していないお客さんが乗りました」と連絡があったようなタイミングの良さ。

浜金谷駅までの自由席は一人1360円。

「クレジットカードで支払えますか」

「パスモかスイカでしたらお支払い可能です」

「スイカでお願いします」

チケットを受け取り、無事支払いを済ませたことに安心。

数組が乗り込んだ後、電車は発車した。

荒れた天気明けのせいか、まるで台風一過のような雲一つない快晴。

昼の温度は高いようだけど朝はまだ寒いので私はスパッツと薄手のスポーツパンツ二枚を重ねて履き、たぁは冬用のパンツを履いている。車両には暖房が効いているけどこの服装で丁度良い気温。

秋葉原、錦糸町と電車は止まり、人が乗る度に駅員さんはチケットを販売しにやってくる。千葉駅から乗って来た人は多く、そこから終点までは500円ちょいで行けるらしい。気づけば乗客は増え、木更津駅に着いた頃には誰も座っていない二人席はなかった。

今日は日曜日、天気も良いしもしかしてみんな鋸山向かってる?

目的地までの電車が混み合うとつい変な心配をしてしまう。

特急は乗っているだけで気分が上がる。だけど今日はそれ以上に自分の心がウキウキしていることに気づく。

昨年は電車で遠出すると何か解放されている感覚の中、外の景色を見ながら内心と会話をしていた。だけど今回はただ単に“楽しみたい”という思いでいっぱい。

春の訪れを感じさせる暖かさがそうさせているのかもしれない。

それとも数年間、ずっと開けた草原の中どこに進めばいいのかわからずにいた生き方に一本の道が見つかり、進み始めたことが原因かもしれない。

いずれにしても豪雨明け、予想気温が20度を超える晴天の中、旅ができることは晴れ晴れしい気持ちになる。

東京の桜の開花予定は来週だ。そのせいかところどころで咲いている様子が見られた。

ずっと住宅街の景色が続いていたけど千葉を超えたあたりに工場用ポールが見えた。

この辺りは海沿いの工場地帯だったよな。

グーグルマップで調べていた時の記憶が蘇ってきた。

その先には田んぼが広がり、ジャパンプラウド、富士山が見えてきた。

「富士山だよ」

たぁはただ頷く。

だけど富士山って東京湾の反対に位置しているんだよね。こんなに近くに見えるもの?

「近すぎるよね。偽富士かな」

たまに山に向かう時、富士山だと思ったら違った山だった。なーんて経験は一回じゃないから、簡単に自分を疑える。

「富士山でしょ」

その先、雪を被る存在感の山は海の向こう側にそびえたっていることが分かり、やっと富士山だと確信できた。

内房からこんなにくっきり富士山が見られるなんてびっくり。

山の合間から真っ白くニョキっと立つ観音様の後ろ姿発見。

「たぁ見てよ」

景色の知らせで何度もオーディオブックを邪魔されている彼の反応は薄い。

もう一度その姿を見ようとしたら隠れてしまい、諦めていたら今度は正面から見られた。

東京湾観音、突如出現するその姿、なんだかすごかったデス。

ここから先はずっと海沿いを走り、菜の花が咲き誇り春の訪れを感じる。

10時54分、予定時刻にて浜金谷駅に到着。

予想していた通り車両に乗っていた皆が立ち上がり、並びながら電車を降りる・・・・・・ってことなかったけど思ったよりも多くの人が下りて混み合う改札口。その流れに乗る気になれずホームの待合室へと向かい、出していた荷物をリュックに仕舞ってプリントアウトしていおいた周辺地図を取り出す。

「これからランチが食べるけど、ピザ屋さんの先に今日の宿があるの。どっち先に行く?」

「ハイキングは荷物上ったまま登るの?」

「荷物預けてから行くつもり」

「じゃぁピザ屋さん最初に行く」

「OK」

そんなやりとりをしてから歩き始めると人の気配はなくなっていた。

淡い水色が素敵な駅舎。ホームから改札へと向かう歩道橋の上からは海辺の町らしく常夏の木が並んで植えられ、その後ろにでーんと構えるマウント富士が見えた。

なんだか懐かしい景色。改札傍にはカラフルなパンジーがお出迎えしてくれた。


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